6 / 8

6.俺じゃなくてもいいってことかよ

 忘年会当日、ピグ森と用意したゲームの景品を会場へ運んだ。3部署合同の忘年会は部長の挨拶で始まり、だいぶ酒が進んだところでゲームの準備をする。  顔が広くて話も上手い鈴木主任が司会をしたゲームはけっこう盛り上がった。なんでもそつなくこなす人だな~と感心しながら、俺とピグ森はゲームの道具を配ったり商品を渡したりした。  ラストオーダーを頼み終わった後で会計を済ませ、やっと肩の荷が降りる。会計も担当してて落ち着かないから、2人でホントの忘年会するって約束してるんだ~。楽しみ。  ウキウキしながらトイレに行ったら、鈴木主任がいたのでそのままのテンションで挨拶した。 「司会お疲れ様でした! 盛り上がりましたね~」 「酒入ってるからな。柏木のおかげで無事に終わったようなもんだよ」 「いえいえ、ピグ森と一緒にやったんで」 「これから二次会行くのか?」 「カラオケ苦手なんで帰ろうかな~と」 「そっか。じゃあ2人で打ち上げ行くか?」  グッと体を近づけて目を覗き込んできた笑顔は、いつもと違って色気が漂ってた。俺でもわかる色っぽいお誘い。突然のことで頭に血が昇ってパニくった。え、だって、俺だぜ? なんで俺? 「え、あ、なんで俺なんか」 「なんでって、オレのことよく見てるだろ? 違った?」 「あ、それは、なんというか、憧れというか」 「憧れだけ?」 「は、はい。俺、付き合ってるやついるんで」 「遊んだっていいだろ? 俺は後腐れないし」 「大事にしてるんで!」 「へー、マジメだな、残念。真っ赤になって可愛いのに」  鈴木主任は後じさった俺を余裕の笑顔で眺めてる。  後腐れないってさー、ヤリチンじゃねーか! 「ええと、びっくりして」  固まってる俺に手が伸びてきたところでトイレのドアが開き、心臓が跳ねた。ピモンが驚いた顔でトイレに入ってくる。  ヤバイ。ヤバいことはしてないけど、この空気がヤバイ。  鈴木主任は余裕をぶちかまし、いつもの爽やか笑顔に戻って俺の肩をポンと叩いた。 「その気になったら誘って。じゃあ、ピグ森もお疲れ」  そう言って鈴木主任が出ていったあとの空気といったら。悪いことしてないのに冷や汗がダラダラ流れる。  真顔のピモンの低い静かな声にビクッとなった。 「……誘うって何?」 「断った、断ったから!」 「顔赤いけど? 触られたの? 邪魔だった?」 「違うって。ビックリしただけだって」  じっとりする視線が痛いけど、まあこの状況なら俺だって疑う。 「帰ろうぜ! 2人で打ち上げするって言っただろ。俺楽しみにしてたんだから」  疑いの目で見てくるピモンを必死で押し切って、タクシーの中の気まずい空気に耐えて、家に帰った。 「は~疲れた。無事に終わって良かったな」  ヤバイ空気をどうにかしようとムリに明るく振る舞ったら、急に押し倒されて両手首を掴まれた。驚いて出かかった声は、俺を見つめるピモンの目の熱さで喉に引っ込んだ。 「……なんで、鈴木主任と」 「ご、誤解だっ! 断った! 付き合ってる相手いるって」 「……ただの食事とかじゃなくて、そっちの誘いだったの?」  奥に燃える何かを映してギラギラ光ってる目が怖いのに、ゾクゾクする。長い指が巻き付いた手首はビクともしない。 「遊び相手にちょうどいいって思われただけ。ヤリチンなんだって」 「……ヤリチンだから断ったの? ナビィが好きだって言ったらどうするつもりだった?」 「断るに決まってるだろ! 俺が好きなのはピモンなんだから」 「本当に?」 「本当だって!」 「じゃあ、証明してよ。僕だけだって」 「どうやって?」  ピグ森の唇が耳もとで動き、囁きを吹き込んだ。 「アソコの毛を剃らせて。日本人は毛がないと恥ずかしいんでしょ?」 「え、そうだけど、……なんでそんな、恥ずかしいだろ」 「僕以外の誰かに見せる予定でもあるの?」 「ないっ。ないけど」 「じゃあ、いいでしょ。僕が剃ってあげるから僕にしか見せないって証明して」  湿り気を帯びた声に鳥肌が立つ。カラカラになった喉で唾を飲み込んだ。恥ずかしいけど、それでピモンが安心するなら。好きだってわかってもらえるなら。  風呂場にいき、浴槽の縁に腰掛けた。ピモンは俺の股間の目の前に座り、シェービングクリームを満遍なく塗り付けて剃刀を手に持つ。邪魔にならないように、俺のチンコはピモンの手に握られた。  肌に当てられた刃が動いてジョリっと陰毛が剃られる音がする。陰毛を剃られるなんて恥ずかしいことを、ギラギラした目つきのピモンにされて変な気分だ。ジョリショリ……と音が聞こえるたびに、なんかイケナイことをしてるみたいに思えて、ピモンの手の中で少しずつ反応してしまう。 「少し硬くなってピクピクしてる。ナビィ、剃られるの興奮するの?」 「っふ、……ちが」 「それとも恥ずかしから?」  上気した顔のピモンが俺を見上げて、燃える目で意地悪く笑った。  自分がなんで興奮してるのかわからなくて答えられない。  何も言わずに俺を見つめるピモンの初めてみる悪い顔に、心臓が跳ね上がった。正直な体はみるみる硬くなる。 「こんな硬くして。……意地悪されるの好きなの?」 「好きじゃ、ない」 「じゃあなんで硬くなったの?」  俺を上目づかいで俺を見つめたまま、長い舌の尖った先っぽで鈴口をグリグリほじる。 「あっ、っは、……んん、ああっ、っん」  巻き付いた舌にカリを擦り上げられ、ズクズクと脈打った。浴槽の縁を手で支えて腰を動かしたら、いきなり舌が離れた。 「っ、ふ……」 「おしまい。剃らないと」  楽しそうに笑って、また剃刀を動かす。焦らされた俺のチンコは、ピモンの手の中でダラダラ涎を零し続けた。  剃り終わってシェービングクリームを洗い流したら、ツルツルになったなさけないチンコが顔を出した。 「……なにこれ。なんか変態っぽい」 「可愛いよ。ナビィは子供っぽいから」 「ええ? どこらへんが?」 「髪が。ナビトリクの小さい子はナビィみたいな毛なんだ。大人になるにつれてだんだん水分量が増えてこういう風になるけど」 「……だからか。……可愛いってそういう意味」  なんか、自分でも驚くほどがっかりした。俺じゃなくて、こういう髪なら誰でも可愛いってことだろ。俺自身のことじゃない。俺じゃなくてもいいんだ。バカみてぇ。俺一人で浮かれてただけなんだ。  そう思ったら、俯いた顔をあげられなくなった。泣きそうな顔を手で隠したら、涙が出た。 「……ナビィ? ナビィ、どうしたの? なんで、……ナビィ? そんなに嫌だった? ごめん、ごめんね」  うろたえたピモンが情けない声を出して俺を抱きしめた。それなのに悲しいままで、嬉しく思えないことに余計悲しくなった。この気持ちも今の状況も、どうしていいかわからなくてジッとしてたらクシャミと鼻水が出た。  俺はどこまでいってもカッコつかないマヌケだな。こんなんだから仕方ない。最初は片想いだったんだし、振り向いてもらいたいから頑張ろうと思ってたし、最初に戻ったと思って頑張ればいいだけだよな。  手を伸ばしてシャワーを出し、涙と鼻水のついた顔を洗って笑った。 「ごめん、大丈夫。なんでもない。はは、毛がないと変な感じ。マヌケだな。……ックシッ。あー冷えたかも。先に上がるわ」  風呂場を出てバスタオルを巻きベッドに腰掛けた。ピモンも出てきて体毛を丁寧に拭いてる。ぼんやり眺めてたら、ベッドに寝かせられて布団の中で抱きしめられた。 「……ごめんね、ごめん。許して。嫌わないで。ナビィのこと独り占めしたかったんだ。ごめん」  ギュウギュウ抱き付いて俺の胸に顔を埋めるピモンの頭を撫でる。 「嫌うわけないだろ。俺のほうが好きだったんだから。そのうち生えてくるんだし、気にしてないって」 「……じゃあなんで泣いたの? お願い、わけを教えて。絶対に二度としないから」  なんでもなくないし、誤魔化すのも違うと思った。けど、ありのままを話す気にもなれない。もっと軽く受け流せる感じじゃないと、話す俺が泣いちゃうし。 「……今は付き合ってるけどさ、俺は片想いだったんだな~って思い出しただけ。どうにもできない過去のことでごめん。重いよな、ははは。気にしな」 「気にする。僕は、僕はナビィが好きなんだから」 「うん、ありがと。俺も好き」 「ナビィ、違う。ずっと前から好きだった。明るく笑って、僕なんかにも同じように話しかけてくれて。きっかけは髪とか名前で親近感もったからだけど、すぐそれだけじゃなくなった」  顔を上げて俺を見るピモンが顔をくしゃくしゃにしてる。今度はピモンが泣きそうに見える。  俺の腰にまわった長い指にますます力が入った。真っ黒で丸い目に映ってる俺はマヌケで情けない顔してる。これじゃあ、心配するよな。自分勝手でゴメン。 「本当は知ってた。違う部署だったけど鈴木主任が教育係だったって知ってたし、2人が仲良くて嫉妬してた。ナビィは鈴木主任が好きなんだってずっと思ってたから、だから、今も不安になる。…………僕なんか、みんなに好かれるナビィにふさわしくないって」  あ、また。  そんな思いさせたくなかったのに、結局俺が。  ……違う。違うな。こんなんじゃなくてさ、もっと楽しくてイチャイチャして、そういう恋人になりたかったんだ。なんでこんなふうに。  なんでだよ。  ぐちゃぐちゃになった気持ちにも、頭の悪い自分にもムカついて叫びたくなった。 「あーーー、もう、俺はピモンが好きなのっ! それでイチャイチャしたいんだよっ! ピモンは優しくて可愛くてエッチで最高なんだってっ!」  不安そうに抱き付いたままのピモンをギュウギュウ抱きしめ返して、グリグリ頬ずりして、ガジガジ頭を齧った。デカい口を開けたもんだから、ピモンの頭がよだれまみれだ。 「…………禿げる」 「えっ!? こんな毛だらけなのに!?」 「年取ったら全身の毛が薄くなるんだよ」 「ええ!? ……まぁ俺も、爺さんが禿げてたからそのうち禿げるかもしれないけど。なんでだよー。なんで未だに禿げを治す薬がないわけ?」 「さぁ?」  俺たちは顔を見合わせて、そして笑った。ピモンの笑顔が見れてホッとする。 「……ナビィも最高。感じてる顔がやらしくて可愛い」 「ピモンのエロっ!」 「穴がグイグイ締め付けてくるし」 「っわーーーー。なに言ってんの!?」 「すぐ顔が赤くなって恥ずかしがるの、最高に可愛い。ハハハ。……僕にはもったいない」 「ダメッ! 俺はピモンがいいのっ! ピモンを独り占めしたいからモテないまんまでいいよ。俺だけがムッツリスケベなピモンを知ってるっていいだろ?」 「ムッツリかな?」 「ムッツリだよ。エロ話なんてしたことなかったくせに、俺の毛剃って興奮してるし」 「……興奮した。ナビィだって硬くなってた。興奮した?」 「した。……スケベ同士でお似合いだろ」 「そうだね。……ナビィ、好きだ。離したくない。一緒にいて」  囁くような切ない声に胸が締め付けられた。嬉しくても切なくなるって不思議だな。  ピモンの顔にキスをしながら返事をする。 「うん。いる。俺は重い男だからうっとうしいぜ」 「僕もだよ」 「ホントだな。嫉妬で毛を剃るし」 「うん。それでもいい?」 「ピモンならなんでもいいよ」 「……ナビィ、僕のナビィ」  ピモンの顔が近づいて唇がふれた。お互いの唇を食んで吸い付き合う。それでも足りないと開けた口に舌が入り込んで絡みついた。

ともだちにシェアしよう!