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第6話

前国王の偉業を讃える宴と 新国王の前途を祝う宴は連日続けられ 国中がお祝いムードで華やいでいた 浮き足立ったところを攻撃してくるような 空気を読めない敵国もあるし 際限なく飲まれる酒を原因とした小競り合いも起こる 従って軍関係者は心身ともに休まる暇がない 将軍をはじめ隊長ぐらいまでの地位の人間は 祝宴にお呼びが掛かるため余計に負担が掛かる 自陣の様子を気にかけながら 勧められれば盃を空けなければならないし 普段動きやすい格好ばかりなので礼服を着ているだけで肩が凝る 「はぁ……」 「首都警護部隊、第一隊隊長グリフォード。お疲れだな?」 「面目ありません……」 踊り自慢たちが次々と祝いの舞を披露して ようやく一服……というか次の宴の準備が始まった その間控の間で少し休憩が出来た 三人の将軍とそれぞれの部下になる隊長たち こういうことに慣れたやつらは楽しそうだけれど グリフォードは気疲れと酒があまり好きではないせいで 顔に「しんどい」と殴り書きされている感じだ 声をかけてくれたのは水軍の将軍だ 穏やかな美丈夫だけれど どれほど波が荒れ狂う中の激しい水上戦であっても 大笑いしながら舳先に仁王立ちし続ける強者だ 何度か同じ部隊に配属になったこともあるので グリフォードともなじみが深い 「相変わらず、酒が好かぬらしいな」 「はぁ……。なかなか、難しいようです」 「時に、グリフォード隊長」 「はい」 「後宮の刷新について、いかに思う?」 「待望の……あ、いや。……みな、どこへ行くのでしょうね」 「身寄りのない者が多いらしいからな」 「ええ」 「前国王の計らいで、彼らと一席設けそうだ。行くか?」 「……え?一席?」 「独身の男女が、愛を囁きあえばよいということだ」 ……マディーラに会えるのだろうか グリフォードは逡巡して首を振った 「水軍将軍アルム様。私は、遠慮申し上げます」 「左様か。あの噂は、まことか」 「噂ですか?」 「お前の想い人が、後宮にいるという話だ」 グリフォードは答に詰まって黙り込んだ なぜこの人がそんな噂を知っているのだろう 何年も前に王宮で大声でマディーラの名を呼んだ あの出来事を知る人間はグリフォードの未婚の原因は あの美しい銀の花だと思っている そしてそれは事実だけれど ここへ来てなんとなく グリフォードはマディーラが消えていなくなるんじゃないかと思っていた 幼いときにわずかな旅路を共にして あの美しい白皙の男は後宮という手の届かないところへ行ってしまった もう一度自分の傍に来てくれるんだろうか なんだかすべてに現実味がなくて幻のように思える 珍しく飲んだ酒のせいかもしれない 「愛に飢えているようだな、グリフォード隊長?」 「……かも、しれません」 「私でよければいつでもやるぞ。好きなだけ」 「ありがとう、ございます」 人が呼びに来て 夜まで続くであろう宴が始まる グリフォードは重い身体で立ち上がる 愛に飢えてるわけではなくて マディーラに飢えてるんだと思いながら

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