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第7話
退位と即位のお祝いムードもようやく下火になり
首都警護部隊をはじめとする全軍の態勢も平時に戻された
年中穏やかな気候のこの国でも
特にいい季節
花は咲き誇って緑は鮮やかだ
この国の首都は美しい
そんな首都を護るべくグリフォードは精を出していた
隊長にもなれば交代制の警戒勤務には就かず
全体を管理したり他の隊との連携を調整したり
訓練の指揮を取ったりがほとんどだ
特に得意とする短剣の扱いについては
自らが手本を示して隊員の底上げを図る
歴戦の軍人だから
管理仕事よりもずっとそういうほうが好きで
今日はたまたまごっそり他の隊に応援に行った穴を埋めるべく
午前中の王宮内の警護にも立っていた
久々で身も心も引き締まる思いだ
新国王陛下には拝謁してお言葉を戴き
忠誠を誓ったばかりだけに力も入る
そんな風に充実した午前を過ごして
駐屯所へ戻り交代で隊員と昼食を摂っていた
食事を作ってくれるのも隊員だが
軍の飯場を預かりたいと志願してくる料理人なので
いつもとてもおいしい食事が出る
午後からはスペラが交代してくれるから
溜まっている管理仕事を片付けて……
グリフォードがそう頭の中で段取りを組んでいたら
転がり込むように隊員が入ってきた
グリフォードめがけて一目散に駆け寄ってくる
「たたた隊長!!」
「どうした?お前、今日は休みだろう」
「すぐにご自宅へお戻りください!大変ですっ!!」
有事か
その場にいたほかの隊員にも緊張が走る
グリフォードの自宅ということは
首都警護部隊の大半が暮らす村に何かあったということだ
息を切らして大汗をかいている部下に続きを促す
グリフォードの頭には敵襲制圧作戦が次々と浮かんでいた
血が逸るのを感じながら
「嫁入りですっ!」
「……ん?」
「隊長のご自宅に、嫁入りですっ!!」
「……は?」
「後宮の、マディーラ様が、お嫁に!!」
「馬を引けぇっ!!」
グリフォードは必死に報告を続ける部下を蹴飛ばして馬に乗り
戦場でもかくやという速さで自宅へ戻った
首都警護部隊の隊長ともなれば
ある程度の大きさの邸宅に住める
その辺り一帯は隊長や将軍経験者などの
大きな家が集まっている場所で
隣り合う家々との距離もゆとりがある
にも拘らず馬上からでも我が家の扉が見えないほどの人だかり
全員を蹴散らしたいほどの焦る心を抑えつつ
グリフォードは馬を下りて
野次馬たちを押しのけながら自分の家に向かう
彼らは口々にグリフォードに声をかけてきたけれど
本人が状況を理解していないのだから答えようがない
家の前に見慣れない馬がつながれていて
マディーラの馬なのかと思ってようやく現実味が湧く
「帰ってくれ、見世物じゃない!」
「ケチケチすんなよ、隊長!」
「うるさい!!」
「めでたい話じゃねぇか!」
冷やかしと祝福
羨望と嫉妬
グリフォードはあらゆる視線に威嚇を放ち
汗だくになりながら自宅へ入った
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