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第12話

同僚や上司を家に招くことも多いし その逆も日常茶飯事で さらに隊長になってからは頻繁に駐屯所へ泊り込んでいた だからグリフが家で食事をする機会はあまり多くはなかった これからはなるべく自宅で食事を摂ろう グリフはディラと初めて夕餉を共にしながらそう誓った 上品な所作で食べるディラがとても愛しい うまいか、と聞けば ものすごく綺麗な笑顔で頷いてみせる 夜勤があっても食事だけ自宅へ戻ればいいだろう 馬で駆ければ大した時間ではない 「口に合うか?」 「うむ。この家の料理人は優秀だな」 「酒を持ってこさせようか」 「いや、いい」 「飲まないのか?」 「儀式の時以外、口にしたことはない」 王宮内で行われるいろんな式典や儀式 後宮にいる側室という立場でありながら 王家の人間と近かったディラはそういったものに出席することも多かったのだろう しかし 「以外だな……何かと宴があるだろう?」 「後宮の人間は宴に出たりはしない。酔うといろいろ差し障りがあるし」 「なるほど」 軍人もあまり深酒をしない 有事に酩酊状態では使い物にならないからだ もちろん素面と変わらない人間もいるし 酒を燃料に発奮する人間もいるにはいるけれど 「グリフは飲めばいい。あれをしよう。ええと……」 「うん?」 「あ、お酌!」 知識はあるけどやったことのないこと第二弾! みたいな笑顔を見せてディラが提案した グリフは他にして欲しいことを脳内いっぱいに回らせながら 苦笑いで辞退した 「ありがとう、ディラ。でも俺も酒はあまり飲まないんだ」 「そうか。同じだな」 「ああ」 満足げにディラは微笑み食事の続きを始めた グリフはその様子を眺めながら ゆっくり時間を取って彼の話を聞きたいと思っていた そして控えている新顔の従者にチラリと視線を投げる ディラが連れてきたのは三人だった 多いのか少ないのかはわからないけれど 家は広いし部屋もあるのでディラの好きにすればいいと思う 年配の屈強そうな男と、若い男が二人 それぞれに役割があるのだろう 身辺警護と身の回りの世話と教育……いまさら教育はないか とりあえず 明日の朝に将軍と里親のところへ挨拶に行こう 近々結婚します、と言えないのが辛いところだけれど 「グリフ」 「なんだ?」 「部屋を調えてもらった。ありがとう」 「いや……不自由はないか」 「荷物も片付いたし、問題はない」 「そうか」 「ただ、グリフの部屋が遠いな」 「……」 グリフはとりあえず無言で水を飲んだ そしておもむろに口を開こうとした時 大きな窓の向こうで閃光が空へ上がったのが見えた 「な……」 「すまん、仕事だ」 グリフは立ち上がりながらじっと閃光を確認する 急を知らせる合図だ 色や大きさや高さで内容が大体わかる 青の閃光……至急の召集だが危機度は高くない 「今のはなんだ?」 「|警護部隊《うち》の合図だ。行かねばならん」 この食堂と自室は王宮の方角に大きく窓を設けているので 合図に気づかないことはない 念のために常に庭に見張りを立たせているけれど 彼は合図に気づいているであろうグリフを呼びに来るよりも先に 馬小屋へ走っている ディラが驚いている 驚いた顔も可愛いものだ グリフは彼の傍へ跪いた 「ディラ……食事の最中に、一人にしてしまうことを許して欲しい」 「グリフ」 「王宮で何かあったようだ。ないがしろにはできない」 「もちろんだ……危険なことか?」 「いや。大したことじゃないよ」 「なら、いい」 「ディラ」 グリフは立ち上がって 椅子に座る彼の額に口づけを落とす ディラが一瞬遅れて頬を染めた 「これ、は。今のは」 「愛してる。ディラ、少し離れるが、俺の愛を抱きしめていてくれ」 「ああ……」 「俺を、愛して欲しい」 「グリフ」 「愛してるよ、ディラ。寂しがらないで」 グリフはディラにそう囁いて 銀色に輝く美しい髪を撫でた 鮮やかな紫の瞳はじっとグリフを見上げている 「では」 グリフはディラの手を取って甲に恭しく口づけし 足早に自室へ戻った 着替えがもう準備されていてグリフの身支度を手伝う従者が待ち構えていた 手早く身につけながら 心を許す従者に声を掛ける 「ディラが、寂しがらないように気をつけてやってくれ」 「はい」 「それから、今後はなるべく家で食事を」 「はい」 「ありがとう。行ってくる。後を頼む」 支度を整えるとグリフは最後に大切な短剣を腰に差し 従者に見送られて玄関へ向かった 扉を開ければ愛馬が逸るように前足を鳴らしている グリフよりもよっぽど血の気の多いこの馬は こういうときにとても伸び伸びと走ってくれる 「待たせたな。行こう」 「グリフ!」 愛馬を撫でて跨ろうとした時 家の中からディラが飛び出してきた 陽の暮れた夜の暗さの中に 彼の銀髪と白い肌は浮き上がって見える あまりの幻想的な美しさにグリフが呆然と見つめていると ディラは無邪気な笑顔ではなく真剣な顔で グリフの胸に飛び込んできた 緊急出動だから革製で軽いものとはいえ防具を身につけていて 抱きしめれば当たって痛いだろう グリフはそっとディラの肩を掴んで身体を離す 「どうした?離れがたいか」 優しく聞くグリフの問いには答えずに ディラは腕を伸ばして背伸びをして グリフの唇に触れるだけの口づけをした 「どうか、気をつけて」 力強い声 凛とした表情 きっとこの世で一番美しい男 グリフはそんな男に見送られて王宮へ向かった

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