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第15話

ドアを開けて自宅に入ったところでディラに出くわした 正確にはディラは出入り口前に設けた広間に置いてある待合用の長椅子に座っていた 「グリフ……!」 「ディラ、こんなところで何を」 「おかえり!」 ディラは泣き笑いのような顔で胸に飛び込んできた まさかずっとここにいたのだろうか グリフは動揺して力の加減を間違えてしまい ディラが腕の中でつぶれそうな声を出した 「すすすすまん、大丈夫か」 「うむ。グリフはさすがに力が強い」 「鍛錬しているからな。それより……」 グリフはディラの頬を包んでゆっくりと顔を眺める 目が赤い 紫の瞳もこころなしか艶がない 両方のまぶたに口づけを落とす 「ディラ?一日中ここにいたのか?」 「うむ……グリフはたいしたことではないと言ってくれたが」 「心配させたのだな、すまない」 「いや。私のほうこそ」 「うん?」 「グリフの言葉を信じればよかったのだが」 ディラは申し訳なさそうに目を伏せる 長く濃いまつげがふるふると震えている グリフはディラのあまりの可憐さにめまいを覚えた 「首都には、それほどの危険はない」 「本当か……?」 「昨夜も、俺が着いた頃には部下が犯人を捕まえていたし、被害も小さかった」 「……うむ。ではどうしてこんなに遅いのだ」 「それは俺が至らないからだ。許してくれ」 そっとディラの頬を手のひらで包む 柔らかくて滑らかな肌は吸いつくほど肌理が細かい グリフはゆっくりとその感触を味わってから おもむろに唇を重ねた たった二日で ディラはもうとても上手にグリフの愛を受け取れるようになっていた 「ん……グリフ……」 「心配するな、ディラ。俺は強い軍人だ」 「グリフ……もっと……」 柔らかい唇を触れ合わせたまま グリフはディラに優しく語り掛ける その声に聞き惚れるかのようにうっとりと ディラはグリフに続きをせがむ グリフは際限なく差し出し続ける ずっと大切に持っていた愛のすべてを 「……おいで、ディラ」 「グリフ……食事は、したのか?」 「夕餉か?ディラと摂ろうと思って帰ってきた」 「そう……」 「うん?もう食べたのか?」 「いや。まだなのだが」 「どうした?」 食堂へ向かう長い廊下を手を取り合って歩いている ディラは歩くのが遅い 急ぐという習慣がないのだろう 王宮や後宮ではきっとこの村と時間の流れが違うのだ グリフはディラに合わせて極力ゆっくりと歩みを進めていた 「……あの、実は、……眠いのだ」 「え?」 グリフはぴたりと足を止めて 愛しい男の顔を覗きこむ ディラは恥ずかしそうに目を伏せてその視線から逃げた 「グリフの帰りを、あそこで待っていて……顔を見て口づけをしたら安心してしまって」 「……ディラ、まさか俺を見送ってからずっと?」 「うむ……どうしていいか、わからなくて」 「一晩中起きていたのか」 「……すまぬ」 謝ることではない グリフはそう短く言うと 廊下のど真ん中でディラを抱きしめた 彼が苦しくない程度に強く むき出しの鍛え上げた腕に彼の髪がかかってくすぐったい 「夕餉を失礼しても、かまわないだろうか」 「ああ。一緒に寝よう」 「え?」 「俺も昨夜から一睡もしていない。一緒に寝よう」 「……同じ寝台でか?」 「俺の部屋においで。特大の上掛けなら、用意させた」 「グリフ……私は、誰かと眠るのは、初めてなのだ。だから」 「心配しなくてもいい。口づけして、眠るだけだ。何もしない」 もちろん身体を繋げたい 愛を注いで天国を見せて腕の中で眠らせてやりたい だけど 自分を一晩中待っていてくれた愛しい男と 優しい眠りを共にするのもそれは愛に満ちた時間だろう 濃密な交わりに勝るとも劣らない 「ディラ……ありがとう。愛してる」 「グリフ……」 少し不安げに揺れる紫の目がじっとグリフを見つめて 納得したように一つ頷くと ディラはグリフの胸の辺りにしがみついて顔を埋めた 「グリフの寝所に、連れていってくれ」 グリフは何もしないという自分が言い出した僅か前の誓いを即座に反故にするところだった だって反則でしょ!? ぎゅって服掴んじゃって きゅって肩竦めちゃって とんって顔埋めちゃって おでこ擦りつけちゃって!! どんだけかわいいんだっつーの!! 鼻から盛大にため息を噴出し それでも優しくディラの頭を撫でると グリフは彼を抱き上げて自室へ向かった 最初の間に控えていた者に下がっていいと伝え 用意されている夕餉を辞する事を詫び 一番奥に設えてある寝所へ辿りつく 大切なディラはグリフの腕の中で揺られて 半分夢の中で遊んでいるような状態だ そうっと優しく彼を寝台に横たわらせると 手早く服を脱いで汲まれてあった湯で汗を流し 裸のままディラの横に滑りこむ ディラはもう眠りの魔法に囚われていた 「愛してる、ディラ……」 「……ん……」 「早く、俺を愛してくれ。……おやすみ」 暖かい彼の身体を抱き寄せて腕の中に閉じ込める グリフは初めて一緒に眠るこの夜が初夜だと思った

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