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第20話

【番外編】 ハルトさんとミズキの日常 グリフォードとマディーラが帰った後の将軍夫妻の様子です。 本編にまったく関係ありません ◆ 「じゃあ、そろそろいってきます」 「ああ。気をつけて。夜は?」 「戻れないと思う……すみません」 「なら、よい」 「はい?」 「今夜は雨が降る。お前が濡れては困るから」 「あーもう!ハルトさん、優しい!!」 「ちちうえーーー!!」 ミズキが腕組みしたままのハルトをガバッと抱きしめていると まだ足元の覚束ない息子と娘がポテポテと駆け寄ってきた 「だっこー!!」 「だっこー!!」 「よし、おいで」 ハルトの肩は抱いたままで ミズキは二人を片腕でまとめて抱き上げた いかにも軍人らしい精悍な男前は 愛する家族を腕に眦を下げて破顔する 首都と王宮というこの国の要の警護を掌る男とは思えないほどのデレデレぶりで 「どこいくの?」 「おしごと?」 「お仕事だ」 「え~~~」 「え~~~」 「二人とも、聞き分けなさい」 「でも、ははうえー」 「ははうえはさみしくないの?」 「んー?」 ハルトはミズキから愛しいわが子を受け取りながら 返事をせずにチラリと夫を見た ずいぶん将軍らしくなったか 出逢った頃から変わらず愛情深い夫は ハルトごと子どもたちを抱きしめるように腕を回して微笑んで 子どもたちの問いに大仰に頷く 「父は寂しいぞ。家族に会えないのが」 「わたしもー!」 「ぼくもーー!」 子どもたちは大体夫と同じ意見を言う ハルトは優しく笑って二人を床に下ろして聞いた 「二人とも、お菓子は食べたのか」 「まだっ」 「早ようせねば、片付けるぞ」 「きゃー!!!」 「だめー!!!」 子どもたちが転がるように駆け出すのを夫妻は寄り添って眺めた かわいいものだ ハルトはミズキを見上げて笑った 「ミズキもかわいいのぉ」 「ハルトさんっ」 「……愛してるぞ」 「俺もです、ハルトさん!!」 年下の夫は妻をぎゅーーーーーっと抱きしめて 毎日のことなのに今日もまた離れたくないと泣き言を言う 今日はいつもよりもしつこい 多分グリフォードとマディーラの新鮮な二人に感化されているのだろう 「若いのはいいな。見ているこちらも楽しくなる」 「マディーラ殿は、グリフォードが将軍にならねば結婚しないつもりですかね?」 「……さあ?」 「俺、あの二人を邪魔してるのかなぁ……」 「ミズキ」 「はい?」 愛しい夫は結婚するまではものすごくしつこくて強引で 結婚してからは冗談みたいに可愛くて思いやりがある ハルトはそんな夫の頬に口づけをした 滅多にないことだ ハルトも少し若い二人が羨ましくなったのかもしれない ミズキはその頬を手のひらで包むと顔を赤くして喜んだ 「ミズキは何も心配せずともよい」 「はいっ!」 「あの二人の話ばかりするな」 「俺のすべてはハルトさんに向いてます!」 「マディーラ殿に悪気はないだろう。そのうちわかる」 「何でもお見通しのハルトさん、かっけー!!」 「馬鹿みたいな言葉を使うな」 「ハルトさんが、若いのがいいって言うから」 拗ねたように照れたようにミズキが笑う 俺だってむかしは若かったんだから、と 「知ってる。ずいぶん老けたの、お互いに」 「ハルトさんは老けてません。味が出ただけ」 「ミズキは貫禄が出たかの」 「そうですか?」 「……連れ添って、長いからの」 「ええ。ハルトさん」 もうずいぶん長く続く結婚生活 お互いが軍人だった頃も ハルトが退役した後も 忙しいし危険はあるし落ち着かない それでも家族と愛がある 「早く行け。遅れるぞ」 「はい。では」 「ミズキ、忘れ」 「愛してる、ハルトさん」 「……ならば、よい」 顔を寄せ合って口づけを交わし ミズキが後ろ髪を鷲掴みされて振り回されるような思いで家を出ようとしたとき さっきとは別の子が駆け寄ってきた 「父上!」 「おう」 「お仕事ですか」 「お仕事だ」 「これ、父上にもあげます」 「……よいのか?」 「よいのです。私はいつも母上に貰っているから」 小さな手で渡されたのは ハルトがよく子どもに作ってやるお菓子だった 甘くてサクサクしていて子どもたちは争うようにして食べる ものすごーーーくおいしいからだ そんな自分も食べたいだろうお菓子を譲ってくれる我が子の優しさに ミズキの胸がぽわんと温まる 頭を撫でながら大きな笑顔で受け取った その子は照れくさそうに母を見上げ ハルトもにっこり笑って頷いてやる 「ありがとう。父はお前を愛しているよ」 「はい!」 「母もだ」 「はい!!」 両親からそう告げられて 褒められたように嬉しそうに息子は駆けていく 「ハルトさんの育て方がいいから、あんないい子になるんだな」 「さて?父の背中を見て育ったのではないか」 「あの子のお菓子が、減ってしまったなぁ」 「かまわない。自分の物を誰かと分けるというのは尊いことだ」 「ですね」 ミズキは手の中のお菓子をじっと見つめて パクリと口に放り込んだ 相変わらず甘くてものすごくおいしい ミズキがそう言うとハルトは当たり前だと胸を張る 「愛が詰まってるからな」 「ですよね」 愛が溢れるこの家にはいつも甘い香りが漂っている

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