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第23話

【番外編】 ハルトさんとミズキの馴れ初め 03 ◆ 「ん……」 二人で駆け込んだ王宮から一番近い宿 ハルトやミズキの自宅も王宮から近かったけれど ほんのわずかに宿の方が近かった 「愛しています。あなたの愛を、ください」 「ミズキ……」 「参謀長」 何度も何度も深く口づけしながら むしり取るようにお互いの礼服を奪い合って肌を合わせる 寝台に倒れこむ頃にはもう身体が熱かった 「……私は同業者はおろか、男と愛し合った事はないのだが」 「そうですか」 「男同士だと寝所でも役職で呼ぶのか」 「……ハルト、殿?」 「知らん」 「……ハルト、さん」 「好きにせよ」 「ハルトさん、愛してます」 「好きに、せよ」 男の身体を撫で回して何が面白いのだろうか ハルトは参謀だけれど きちんと訓練にも参加する軍人だから 分厚い筋肉と多少の傷跡が身体を覆っている ミズキはハルトよりももっと闘う男の身体だ なのに、興奮する 女を抱くよりも熱い 愛されているからだろうか 「ハルトさん……ハルトさん」 「んぁ……っ!あぁあ……っ!」 「愛しています。俺を、愛して」 身体を繋げて愛を注がれて 全然足りないとハルトが言えば ミズキは嬉しそうに笑って何度もハルトを抱いた 溶けるほど甘い声と睦言 誰かの愛を受け入れる歓びがハルトをしあわせにする 「強引だなぁ……」 「え?」 「近頃の若いのは、強引だと言った」 「そんなに変わりませんよ」 夜が更ける前から宿にこもり お互いを求め合って確かめ合って 浅い眠りに落ちてはまた愛し合う ハルトの身体はずっとミズキの腕の中だった 頬やこめかみに口づけされながら ハルトはミズキの肩を引き寄せて額をつける 「ハルトさん、愛しています」 「……私もだ」 「もう、絶対離しません。将軍にも参謀本部の奴らにも渡しません」 「は?」 「あなたをずっと見てきました。あなたの回りはあなたを慕う人ばかりで焦りました」 「……いや?」 「いいのです、ハルトさんは何も知らなくて」 「待て、ミズキ。私は」 「あなたは誰にも疎まれたりしていません。そして俺に愛されています」 「さっぱりわからん」 「いいのです」 ミズキの手がまたハルトを撫ではじめる たった一晩でいいようにされた身体は ミズキの愛を受け入れたくて疼く 「結婚してください、ハルトさん」 「……」 「今じゃなくてもいいから、俺と」 「今なら、しよう」 「へ?」 耳元で求婚の言葉を囁きながらミズキがハルトの中に押し入る 痺れるような快感にため息を吐きながら ハルトはミズキを睨み付けた 「今、だ。私は逃げるぞ?」 「逃がさないよ」 「私が妻だろうか?」 「ええ。あなたが俺の妻です」 「生意気、な」 「あなたは俺の妻です、ハルトさん」 夜が明ける 想い合って一晩の逢瀬 何にも代えがたいその愛に満ちた時間 二人はそれを形にして 共に連れ添う伴侶となった 「ハルト様とミズキ将軍閣下は、とても短い期間のうちに添い遂げられたとか」 「うん?」 「グリフに聞いたのです。衆人環視の中で閣下がハルト様に思いを告げて、ハルト様が顔を赤らめたと」 「ほほう」 「そしてその翌日にご結婚なされたと」 「そのような話になっておるのか」 「違うのですか?」 ハルトは六人の子のおなかを満たすべく 昼を過ぎてすぐに夕餉の仕度に取りかかっていた 今日はミズキも帰ってくるから八人分 たまに訪れてくる白皙の美丈夫は手伝いたがるけれどあまり役には立たない 歩くのは遅いけれど飲み込みは早いので 一度教えた事はうまく出来る しかし如何せん教えるより自分でした方が早いので マディーラはたいてい子どもたちの面倒をみてくれている 輝く美貌の男は娘にも息子にも大人気で マディーラの膝の上は争奪戦になっている 大きな鍋を火にかけて ハルトはようやくマディーラの方へ顔を向けた 彼は小さい子たちが寝て大きい子たちが勉強を始めたので ハルトのそばへ戻ってきたらしい ハルトは手早くお茶を淹れて マディーラが持って来てくれた花を愛でながら一息つくことにした 「正しくはない。何事も少し劇的なように伝わっていくのだな」 「左様でございますか」 「少なくとも、私はミズキの言葉に顔を赤らめたりはしておらん」 「左様でございますか」 「今でこそ、あのように落ち着き払った将軍ヅラをしておるがの」 「はぁ」 「昔はミズキも若くて強引で鼻につく若造だったのだ」 「想像も出来ませんが……」 「で、あろうな」 よいのだ 私が知っていればそれで ハルトは密かに微笑んだ 「では、あれも真ではないのでしょうか?」 「なんだ?」 「閣下が、自分はハルト様の作戦を完璧に実行できるとおっしゃったお話です」 「それは真だ」 「よかった。いいお話だと思っておりましたので」 「ミズキは、私が与えた作戦を実行したから、今があるのだ」 「今……将軍のお立場、ということでしょうか?」 「さて」 ハルトは美しい男に微笑みかけ 久々に自分たちの馴れ初めを懐かしく思い出していた

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