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第28話

【番外編】 変態将軍の蛮行 01 本編の進行とは関係ありません。 ◆ それはまだスペラが軍人になりたての頃 所属は陸軍だったけれど水軍との合同訓練があった スペラはそこで、のちの変態将軍アルムに出会う 当時のアルムは隊長でその訓練の指揮を執っていた 今回の合同訓練の趣旨は不適格者の捜索 この国の軍人は選ばれた人間にしか務まらない 軍人になってまだ二年未満の新人ばかりを集めた訓練に アルムのテンションは高かった 不適格者を探すとはいえ 尋問や拷問をするわけではない 健全な魂は健全な肉体に宿るらしいという噂を信じて ただひたすらに地味でしんどい訓練を課す 豊かなこの国を狙う不届きな敵は多い 国軍に入ろうというのはそれを知ってそれでも愛する国を護りたいという 高い志の人間がほとんどだ 厳しい訓練を嫌がる者はいない だからこそそうでない者は不適格を疑われる スペラも他の隊員同様 滝のように汗をかきながら雄たけびを上げて訓練に没頭する いつかは自分も国王陛下から労ってもらえるように この国の人々が安心して暮らせる平和を護るために そう考えれば多少の怪我や苦痛など気にならない 日に日に色を増し隆起してくる筋肉に満足するくらいだ 十日間の日程の訓練はようやく三日目を終え 翌日は休日となる その日の食堂はいつもにも増して盛況だった 休日は外出を許されるけれど 市街地から遠く離れたこの海辺では泳ぐか埋まるかしか遊びがない それでも久々の開放感にみんなが大騒ぎをしていた 「スペラ!スペラは何する?」 「泳ぎたいよな~最近暑いし」 「だよな!」 大体同じような年頃の男ばかりが集まっていて この国の軍は組織上三つに分かれているけれど 人員の異動も交流も多いので 今ここで一緒に訓練を受けている人間にいつ背中を預けるとも知れない みんな積極的に親睦を深めていた スペラは賑やかな食事を終えて 自室に戻る前にふらふらとトイレへ行った 体力に自信があるとはいえ みっちり過酷な訓練を受けるとさすがに疲れる 明日は海にぷかぷか浮いて疲れを癒そう…… ぼんやりとそう考えながら角を曲がったところで誰かにぶつかった 「!」 「危ないぞ」 「!!申し訳ありません!!」 相手はアルムだった 水軍に属し数々の戦果を挙げ 今は隊長と呼ばれるけれど彼の隊は少数精鋭の遊軍なので その全貌は知れない 気さくで穏やかな美丈夫はスペラよりもずっと年上で落ち着いていて 男っぽい色気が漂う軍人だった 憧れを持つことになんの疑問があるだろう そんな人に、どれだけ気さくでも上長だ、不注意にもぶつかるなんて 「疲れたか?スペラ」 「いえ。大丈夫です。大変失礼致しました」 「かまわない。よく励んでいるな」 「あ、ありがとうございます!」 「元気だな」 アルムがふと笑みをこぼす その顔はほんの少し少年っぽくて スペラはドキドキした もっと言えば、ちょっと興奮した 訓練に明け暮れる新人たちとは一線を画す空気 歴戦の軍人は死と隣り合わせの稜線を駆け抜け地獄を見たこともあるだろうに それでも穏やかに自分たちの訓練に付き合ってくれる 涼しげに軍服を着こなし波打ち際に立って 腕組みをしたまま訓練の先行きを見守る姿は頼りがいがあって勇ましい 平たく言うと、たまらんかっこいい!! 分厚い身体に太い腕、逞しい下半身!! 「スペラ?」 「……は、は!?」 「顔が赤い」 アルムはするりと顔を寄せて スペラの目を覗き込んだ アルムの綺麗なブルーの目は水軍にふさわしいような気がした ……じゃなくて! 「あの、大丈夫、です」 「そうか……残念だな」 「え?」 アルムは身体を引いてスペラから距離をとった それでも通常の上官と隊員の距離ではない 薄暗い廊下で憧れの人との至近距離に心臓のバクバクが止まるわけがない しかもアルムは色っぽい顔でにやりと笑っている 「熱でもあれば、看病だと称して……色々できるだろう?」 「い、いろいろ……」 「そう、色々な」 「た、たいちょぉ……」 スペラは思わず呻いた これはアレじゃないのか 誘われてるんじゃないのかっ 俺がアルム隊長に!? そう思い至ってドキドキを通り越してあたふたしているスペラにとどめを刺すように アルムの指がスペラの頬を撫でた 「一晩中、看病してやりたいものだ……添い寝でもして」 いつの間にか壁際に追い詰められて腕と壁に閉じ込められて アルム隊長の低く柔らかい声がスペラの耳をくすぐる ほんの少し笑っているような隊長の声に スペラの腰が砕けそうになる ぐっはー!!食われたい!! 多少の経験はあるとはいえ まだ若いスペラはこういう百戦錬磨のオトナとの情事は知らない 色気より食い気とばかりに ムードそっちのけで貪りあっちゃうのがほとんどだった どんな風に、されちゃうんだろ…… 想像しただけで、やばい スペラは無意識にアルムの軍服の端を掴んでいた アルムはそれを面白そうに見ながら 何も言わずにスペラの髪を弄っている 距離は密着とまではいかないまでもお互いの服が触れ合っている 「……熱が、あるかもしれません」 「ほう。辛いだろう」 「訓練に差し障りのないように、その」 「上官である俺が、じきじきに看病してやろうか」 「……はい」 笑うアルムを見上げて スペラはうっとりと頷くほかなかった

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