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第57話
「ディラ?帰ったのか?」
「グリフ!どうして?仕事ではなかったのか」
夕暮れ時
王宮から戻ると
グリフが家にいた
数日前の朝にわずかな時間一緒にいただけで
逢いたくてたまらなかった人
ディラは思わず走り寄る
グリフも笑顔でディラを捕まえた
「ああ。少し事態が落ち着いてきたので帰宅した。王宮へ行っていたのか?」
「うむ。今日は大陛下にもお会いした」
「そうか。お元気であられただろうか」
「うむ。次はグリフを伴うようにとの仰せだった」
「ええ!?とんでもない!!」
「何故?恐れ多くも、ディラの親のようなものだからと。グリフの戦績は聞こえているけれど、一度、直にお話をと仰っておられた」
「ああ……まあ……ディラをお嫁さんにするに当たっては、やはりご挨拶せねばとは思うが……」
恐れ多くも前国王陛下だからなぁ……
グリフは困ったようにブツブツ言っているけれど
ディラは久々にグリフと食事ができるのが嬉しくて
鼻歌さえ歌いそうな勢いで彼の腕にしがみつく
「グリフ。今夜はもう家にいるのだろうか?」
「ああ。ディラ、明日も休みなんだ。一緒にいよう」
「あ……すまぬ」
「予定があるのか?」
ディラは思わず腕を解いて俯いた
グリフは構わず腕の中に抱き寄せる
「王宮へ……参上するとお約束を」
「……そうか」
「すまぬ」
「ディラは悪くないよ」
グリフは優しくディラに口づけて
じゃあ今夜は俺が独り占めしようと笑う
ディラはそうしてくれと抱きしめ返した
グリフのことしか考えられなくなる時間が好きだ
じゃれ合うようにして食堂へ向かう
「ミラ国王陛下のお庭は順調か?」
「うむ。しかし、陛下は珍しい花や木がお好きらしく、私も勝手が違うので手間取っている」
「そうか。国王陛下には、ご心労をお掛けしているので、綺麗な庭が慰めになればいいのだが」
「グリフ!私もそう考えていた。同じで嬉しい」
一緒に夕餉を囲みながら
グリフはディラの話を聞きたがった
おそらくグリフの仕事の話は聞かせたくないのだろう
ディラは素直に今日あったことのあれこれを話した
大陛下の近いお席でお茶を飲んだのだと言えば
グリフはとても驚いた顔をした
「さすがだな……俺だったら、お茶などのどを通らない」
「で、あろうか?でも一緒にあちらへ参れば、きっと同じ席になるが」
「……その場はディラに任せるよ」
「うむ」
数日振りに一緒に湯浴みをして
今日は自分で髪を洗ってみせると宣言し
ディラは果敢に挑戦した
本人はドヤ顔だけれど
苦笑いの従者たちに椅子に座らされやり直しをされている
髪はからまり
泡はディラの額をはじめあちこちに残っていたからだ
「ふーむ……まだまだか……」
「ディ、ディラ、練習したのかっ」
「いや。長年してもらってきたので、できる気がした。頭の中ではうまくいったのだが」
グリフは必死に堪えていた笑いを爆発させた
ディラはきょとんとしている
あまりのかわいさに悶死寸前まで笑い続け
さすがにディラがぷくりと頬を膨らませる
「グリフは何でもできるから、できない私を笑うのだ」
「違う。断じて違う。できないディラではなく、頑張るディラが愛しくて可愛くて、どうしようもないんだ」
「笑いすぎだと思うがっ」
「すまん。許してくれ。そんなディラを愛しているよ」
「……ならば、口づけを」
「ああ」
甘く優しい口づけを繰り返し
お湯の中で素肌を合わせて愛してると囁きあう
今日は本当にいい一日だったとディラは思った
「明日は、朝から王宮へ?」
「うむ……すまぬ」
「いや。帰りは遅いのか?」
「陽が高いうちに。待っていて」
「わかった。では、さっそくしばらく独り占めさせてもらおう」
「うむ!」
ディラは愛する人と深く強く愛し合い
しあわせをかみ締めていた
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