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第80話

【番外編】王様だーれだっ(全十話) すぺりんとみーたんのお話です ◆ スペラの一日は規則正しい それは国王陛下の一日が規則正しいからだ 私邸であるこじんまりとした宮殿の 一番陽当たりがよく広々とした国王陛下の私室 その隣の小さな部屋が彼の住処 壁はわざと薄く作られ 廊下に出ずに行き来ができる扉と 部屋を見渡せる窓が開けられている しかし扉は国王陛下の側から施錠され 窓には帷幕が掛けられているので スペラがその扉を使ったり窓越しに様子を窺ったことはない 壁越しの声や物音に危急を察したこともない 毎朝陛下を起こしに来る従者が スペラの部屋を前を通る足音で目が覚める もちろんそのほかの気配や物音で目が覚めることはしょっちゅうだ スペラが手早く身支度を整えている間に 陛下は従者たちによって支度され そのまま部屋で朝餉を召し上がる 毒見は他にいるのでスペラの仕事ではない やがて従者たちが下がり 今日の執務についての報告と連絡のために側近たちが入る スペラは彼らと一緒に入室し 朝の仕事を始めておられる陛下のお邪魔にならないように 室内の危険の有無を確認する 置物の位置が変わっていたり敷物の角がずれていたりすれば近づいて確認するけれど ほとんどは目視で済ませる 異状を見逃さない自信はあった 「では、陛下。本日もよろしくお願い申し上げます」 側近の一礼とともに 陛下は頷いて立ち上がる この瞬間はひどく緊張する 陛下が私室を出て執務を行う大宮殿へ移動されるからだ 屋根のある廊下で繋がっていて大した距離ではないけれど 先導する側近と挟むような形でスペラは陛下の後ろを歩く 無事に執務室へ着くと 陛下と側近を追い抜いてスペラが扉を開けて先に中へ入る 私室ほどではないにせよ 広く豪勢な執務室だ 瞬く間に安全を確認して スペラが頭を下げて控えれば 陛下はようやく側近とともに入室される そこからずっと スペラは執務室の扉の横で立ち番をする 最初の頃は側近らが 政の秘密もあるので廊下で控えるべきだと騒いだものだけれど スペラは陛下の命令がなければぴくりとも動かなかったし 陛下が出て行けと言ったことはない いつの頃からか側近らはスペラが立っていることを風景のように捉え始めた いるのが当たり前だけれど気にする存在ではなくなったのだ そのくらいスペラは気配を消して微動だにせずそこに立っている 国王なんて 贅沢な身なりで豪奢な椅子に座り いつも誰かに傅かれて頷くだけ 具体的なことは専門家に任せて 考えるべきは国の未来の姿と国民のしあわせ そういうイメージが強いところだけれど 少なくともミラ国王陛下に限れば 朝から晩まで議論や質疑応答の繰り返しで 理解しないままに通り過ぎていく事案などない もちろんすべてにおいて口を出すわけではなく 真っ当に提案された施策は委細問わずに「うまく計らえ」と 実務担当者に全権を渡したりなさる 「陛下。この件につきましては、火急であり、最重要でございます」 「そんなものを、国政のように話すな。いくらなんでも私の感情が反映されても良いのではないのか」 「もちろんです。で、ございますので、陛下のご意向を伺っております」 「何度も言っている。必要ない、後宮など」 午前の執務を終えられて 最後の最後に一番近しい初老の側近が一人残って 新しい後宮創設の話を切り出した 未だに伴侶のない国王陛下のお世継ぎ問題を憂いているらしい 後宮を作り、そこに候補として陛下に侍る男女を集めれば 伴侶選びもやりやすくなろうという考えだ 仮に陛下が男を選んだとして 子を産むのは女にしかできない その場合はできることなら寵姫を数人囲って欲しいというのが側近らの意見だ 何れにせよ 後宮は必要であり、できるだけ早く作りたいと言う スペラは感情もなく立ち番を遂行し続けている 「父陛下のような形で愛情を国民に与えることは考えていない。保護される子等のための、住居を併設した学校を作っただろう。後宮のための金はそちらへ使うように申したはずだ」 「それとこれとは全く別個の問題でございますと申し上げました」 「後宮を作り、維持するような金はない。この王に、多数の人間を囲い酒池肉林を楽しむ時間も精力もない。あったとしても、それは望まない」 「……首都では口さがない連中が下劣な噂をしています」 「不能だとか不感だとか変態的性癖があるとかそもそも身体的な不具だとか……あとは何だったかな」 陛下は何でもないことのように恐ろしいことを口にされる 側近は先代の国王陛下にも仕えた古参で ミラ様のことを息子同然に思っている節さえある 彼は顔を朱に染めて怒りに震える手を握り締めている 「国王陛下に対して、あるまじき侮辱であり、不敬罪に値します。許されることではございません。そんな輩を野放しになさるおつもりですか」 「そんな輩のために、事を起こす事はしない。放っておけばよい」 「私は悔しいのです!陛下のおしあわせを、願っているのでございます!」 側近は悲痛とも思えるような大声を出した そう 彼はこころから陛下のしあわせを願っていた だから然るべき伴侶を得て欲しい そしてあらゆる意味で国王としての諸事を全うしていると どこにも恥ずべきところのない完璧な王なのだと あまねく国民に知らしめて欲しいと考えているようだ もちろん国王陛下はその気持ちを汲んでおられる 「……あなたには、いつも感謝している。私のためにこころを砕いてくれて」 「滅相もございません……陛下、どうか、どなたでもかまいません。多忙でお辛い執務の支えになられるような方を得てください」 「どなたでもと言われてもな」 「どなたでも、陛下が選んだ方でしたら、誰にも文句は言わせません」 「そうか」 「はい。陛下の愛情がこの国と国民に注がれているのは、皆知っております。しかしながら、陛下の隣に立つ、無二の伴侶を得られるのを待ち望んでいるのです。深い愛情を、お一方と分け合われてこそ、王でございます」 「考えておく。私一人の問題ではない」 「陛下」 「世継ぎに関しては、私の子でなくともよいと考える。さすがに民間から選ぼうとは思わないが、血の濃さは王としての素質にあまり関係ない」 「なりません。長子でないというだけで、ミラ様御即位にどれほどの波紋が広がったか、よもやお忘れではございますまい」 「数年前の話だ。忘れるほどボケてはいない」 「この数年、私は何かにつけ、ご伴侶を、お世継ぎをと申し上げて参りました。もう、そろそろ」 「わかっている。もう、この話はよい。昼餉を」 「……は」 老いた側近は陛下に頭を下げ 昼餉を運ばせるために執務室を出て行った スペラはいつも通り彼のために扉を開ける 彼はふとスペラを見上げて目を合わせた 珍しいことだ スペラは何か、と聞いたけれど 何でもないと言われてそのまま彼の背中を見送った 陛下は執務用の椅子から立ち上がり 同じ部屋の中の食事をするための机と椅子の方へ移動される 通常この執務室の立ち番をしているときは スペラの視線は窓や壁にあり 耳を始めとしたその他は部屋の外の音や気配を拾う 国王陛下のご尊顔を眺めるなどそんな不躾な事はしない 近くを通られることがあっても目を伏せる このほんの僅かの瞬間だけだった 陛下が執務から解放され椅子から立ち上がられる スペラは一瞬だけ陛下の顔を見つめる 陛下がスペラを見ることはない この数年で伴侶にとたくさんの女性や男性がこの部屋を訪れた 本人が来るに至らなかった話を含めれば それこそ国中の身分の高い家の子息女が全員申し出ただろう その度に国王陛下は穏やかに優しく頷いて 王への愛情を嬉しく思う ご苦労であった いつもそう仰られるだけだった 後宮の話をする時は側近が相手であるので そこそこぞんざいに話を終わらせられる 必要ない その一言で終わらせることも少なくない それを聞いてもスペラのこころには波ひとつ立たない もし万が一にも誰かに意見を求められれば スペラは国王の務めとして伴侶も後宮も宛がわれるべきだと答えるだろう 気配もなくそこへ立つスペラに 誰かが尋ねる事は絶対にないけれど 廊下から食器の触れ合う音といつもと同じ足音がした 危険のないのを壁越しに察して スペラは黙って扉を開ける 食事を運んでくる給仕の者たちは 何故いつも扉の前に立ったと同時に開くのか理解できない それでも毎日必ず開けてくれるスペラに笑顔を見せて スペラも口の端をあげる 彼らは恭しく一礼をしてから部屋に入り ミラ国王陛下の昼餉の準備を始める 「陛下。お食事でございます」 「ああ。ありがとう」 昼食会などがない日は 陛下は必ずお一人で昼餉を召し上がる 以前は食べながら誰かの報告を受けたりされていたけれど 大して効率的でもないと判断されたのか 一切の執務の手を止めて食事をされるようになった 普通は食事の間中何くれとなく給仕がお世話をするけれど 陛下は必要ないと言われて誰の手も借りない 給仕の者はにこやかに色々と説明をし テーブルに食事を並べ終えると下がっていく その時もスペラは扉を開けてやる 彼らは笑顔で会釈をして出ていく スペラの立つ位置からは座った陛下の背中しか見えない 食事の最中に陛下が後ろを振り向いたりはしない 昼餉の後は議会が開かれる 午前の執務は陛下への報告や提案、嘆願などがほとんどで 官僚や側近や、時には外国からの使者が 陛下に謁見して一件一件について判断を伺う 午後は午前中に受けた話や継続事案について 関係する官僚らが議場に集まって諮ったり採決したりする いかにスペラが国王の私物であろうとも 議会の場にいることは許されない これに関しては陛下もそのようにと仰った だからスペラは側近らが陛下を迎えに来ると 先に陛下以外の出席者が揃う議場に行き いつものように安全を確認し 陛下が入場なさるのと入れ替わりに出て行って扉を閉める 安全な密室 スペラは議会の間だけ任務から離れられる 「あっあっ!ん……!」 一日のうちの自由な時間 その間にスペラは食事をしたり仮眠を取ったりする 今日は性欲処理に明け暮れていた 「やぁ……!スペラさん、い、いい!気持ちい……!」 「俺も」 この時間は第一隊の立ち番の交代時間でもある いつの頃からか スペラは任務を終えた隊員を 自分に与えられた控え室へ引っ張り込むようになった 議場で万が一の事があれば駆けつけられるように 私邸のスペラの部屋と同じように議場へ続く扉のある部屋 もちろん施錠されている スペラにとって鍵など無味だけれど そこから誰かが入ってくるのを防いでいるのはありがたい 若く血気盛んな隊員を後ろから突いている間も 隣や廊下の気配を気にするのは呼吸するよりも自然なことになっていた それでも下半身は欲望を動力に快楽を追いかける この部屋に寝台などない 簡素な机と椅子 その机に両腕をついて尻だけを出して 若い男はスペラの愛を搾り取ろうと甘く誘う 「スペラさん、俺、もうヤバイっす……!」 「俺も」 スペラは隊員の懐に手を突っ込んで手拭を引っ張り出すと 彼の性器に被せてそのまま擦った 「ああ……!い、く、いくいく、ああん!」 「気持ちいい?」 「は、い、出して、スペラさんの、俺ん中、出して……!」 手拭がじわりと熱く濡れたと同時に 隊員の尻がビクンビクンと痙攣した スペラは根元まで突っ込んだところで吐精する 二人の男の荒い呼吸が部屋に響く 「ありがと。すごく気持ちよかったよ」 「俺……俺もです。スペラさん、すごく、気持ちよくしてくれるし」 「またね」 「はい!」 若い隊員は自分の手拭で手早く後始末をすると 跪いてスペラの性器も拭いてくれる 名残惜しそうに先端に舌を這わせて口づけて 彼が出て行った後 ほんのわずかな時間をおいて別な男が入ってくる さっきよりも若い 「スペラさん」 「呼ぼうと思ってた」 「……もう、呼んでくれないかと思ってた」 「そんなにしょっちゅう連れ込んでたら、隊長に殺されちゃうよ」 あっけらかんと笑うスペラには答えずに この歳で第一隊にいるなどよほど優秀な軍人なのだろう 硬い筋肉の鎧を着たような鍛え抜かれた身体を持つ若者は スペラを机の上に押し上げて尻を露出させる 「スペラさん……愛してる」 「優しくしてね。激しいのは好きだけど、痛いのは嫌いだ」 「はい」 床上手には程遠い若い男の乱暴で粗雑な愛撫でも 耳元で熱く愛していると繰り返されれば身体は火照る さっきの性交で満たされなかった部分を補うように スペラは若い屹立を受け入れて甘い息を吐く 「はぁ……気持ちいい……あっ、そんなことしたら、めくれちゃうよ」 「ここ……こうされるの、好き、でしょ?」 「ん……や、奥のが、好き、だってば」 「奥?僕ので届くとこ?」 「長くて太いの持ってるくせに……ん!あ……!」 高く張り出した部分で内側から引っかくように入り口を弄られて 粘膜がめくれあがって気持ちいい 奥まで突き入れられてドンドンと腰を打ちつけられて 頭の中が白く痺れていく あ 議会が終わる 隣の音が聞こえるような薄い壁ではないけれど 今日の議会が終わろうとしているとわかる スペラはきゅうぅっと尻の穴を締めつけて 若い隊員の首に腕を回して引き寄せた 「イきそう?」 「ちょ……ダメですって……!締めすぎ……っ!」 「中で出したら、締めるよ」 「あ、あ……ああ、いい……出るっ出ちまうっ」 すごい速度で腰を動かす若い隊員の喉元に手のひらを当てて スペラはいつも通り外で出せと言った 男はひどく悔しそうな顔で だけど逆らえば簡単に縊り殺されるとわかっているので 限界まで抽送を繰り返してギリギリで性器を抜き去り スペラの腹に白濁を出した 「気持ちよかった。ありがと」 「……僕じゃダメなんですか」 「ダメなら呼ばない。またね」 スペラは自分の手拭で腹の精液を拭き取りながら せめて口づけをと強請る若い男に優しく唇を寄せて 国と国王陛下のためにしっかり励めと囁く 部屋に一人になって 乱れた服を整えて廊下に出る 議場の扉の前に立ち、気配を察して取っ手を引く 開くと疑わない歩調で陛下が出てこられ スペラは頭を下げながら控える いつもは側近や官僚ら出席者と共に通り過ぎて行く陛下が スペラの前で立ち止まった 大きな手がスペラの服の裾を摘んでぴんっと引いて調える 「見苦しい格好はするな」 「申し訳ございません」 たったそれだけ スペラは顔も上げず 陛下は顔を上げろとも言わず きっと表情さえ変えないままに いつも通り側近たちと執務室へ向かわれた スペラはその後ろをいつも通りついていった 議会の終わる時間はマチマチだ 勘案事項が行き詰れば 陛下は明日まで各自再考せよと仰られて さっさと閉会されてしまうらしい 議論が長引く事も多い うやむやにしたり杜撰な結論を出す事を嫌っておられるので よく外部から人を呼んだりもされている そういう人間が議場に入る時は スペラは身体検査を許可されているので きちんと確認させてもらっている この数年で一度だけ 武器を所持していたので処罰された者がいたけれど ほとんどは王宮の大宮殿に入るというだけで 緊張して必要以上に行儀よく振舞ってくれる それでもスペラのチェックは毎回同じだ 完璧で徹底的で速い 今日の議会は夕方までだった 陛下は執務室に戻られて 議会で話したことをまとめられたり それに関して指示を出されたり 明日以降の確認や段取りを夜まで側近らと話し合われる 晩餐会のような誰かと夕餉を共にする日はそのようにされ そうでないときは朝と同じようにスペラを後ろに従えて 私室に戻ってからお一人で夕餉を召し上がる そこからまたゆっくりと書類や書簡を読んだりして過ごされ 夜半過ぎに湯浴みをして休まれる 「休む」 「は」 従者の手も借りずにご自分で湯浴みも着替えもされて 寝台へ入られる直前にスペラの方を向いて 陛下のその一言でスペラの一日が終わる 長い一日で陛下がまともにスペラに言葉をかけるのはその一言だけ スペラは頭を下げて 執務室同様、私室の扉の横での立ち番を終え 陛下の部屋を辞する スペラは隣にある自分の部屋へ戻り 明日の予定と護衛の事を考えながら目を閉じる

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