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第85話
「誰か娶れば」
「簡単に言うな」
雨も風もまだまだ強い
そういう日はなんだか外界から隔離されているような気分になって
よく眠れるし箍が外れやすくなる気がする
数年ぶりの逢瀬にスペラは乱れた
抑えていたつもりはなかったけれど
愛する人に求められて冷静でいられるはずもない
どこまでも強請り全部を差し出した
阿呆のように何もかも緩みきって
元に戻れないのではと怖くなるほど溺れて
そんなことはどうでもいいと思えるくらいしあわせ
そんな時間も過ぎてしまえば
ただ愛しさだけが満ちて
スペラは理性も知性も取り戻していた
隣には、愛する人がいる
「ミラがお后様を迎えたって、俺は変わらないし、気にしない」
「俺が変わるし、気にするんだ。スペラも気にしろ」
「王様なんだからわがまま言うもんじゃないよ。仕事だろう」
「だから、お前が俺のそばにいればいいと言っている。後宮は設けよう」
「維持する精力ないくせに」
「そうだ。他所で種まいている間に、尽きてしまったらどうするんだ。最後にポンと赤い玉が出て、そしたらそれで打ち止めらしいぞ」
「へえ。出たら見せてね」
「出たら困るという話をしているんだ」
「ミラ」
スペラはものすごく広い寝台に寝そべる男をみつめた
素っ裸でも王様だとわかる
どこを斬られても、王の血と肉
そうなったのだろう
「俺は、ミラしか見てない。だから、お后様がいようと王子や姫君が生まれようと、変わらない」
「……俺は違う。伴侶を得れば、責任が生まれる。妻を蔑ろにはできない」
「しなくていい。ちゃんと愛し合えばいい」
「お前は俺が妻と愛し合っている間も、隣のあの部屋で異状がないか警戒するつもりか」
「そんな無粋なことはしない」
「そっちじゃない。お前はそれが嫌じゃないのかと聞いている」
「何度も言わせないで。好きも嫌いもない。否も応もない」
「何度言わせるんだ。俺は違う。国と国民が世継ぎを望むのなら、後宮を設けてそのように励もう。でもそれは、スペラ、お前の耳目のないところでの話だ。後宮にお前を連れて行ったりはしない。議場と同じだ。しかし妻となれば寝所を共にするだろう。俺は、嫌だ」
「ねえ、ミラ。嫌だ嫌だじゃ、お話になんないんだって」
「俺はお前と話をしている」
まっすぐに見つめられては黙ってしまう
求められるのは嬉しいけれど
スペラは本当にそんな立場は望んでいないし
本気で伴侶と後宮を持つべきだと考えている
俺の王様は、ちゃんとした王様になるんだから
「……聞こえているな、俺が側近と話しているのは」
「……」
「毎日のようにせっつかれている。もういい加減に、彼らの納得する答を出さねばならない」
「答は、ひとつだ」
「それを決めるのはお前じゃない」
「きっと、ミラでもないよ」
スペラは理解している
ミラに配偶者ができたら今のような警護体制は無理がある
その人が控えよと仰られれば
スペラはミラの傍から離れるだろう
その距離や時間に耐えられるかはわからない
それでも
スペラには自分だけが受け取った愛があるという自負がある
それは誰にも奪えないのだから
「スペラ」
「もう、寝れば。赤い玉が出たら困るでしょ」
「困るのはお前だろう」
寝台を降りようとするスペラをミラが逃がすはずもなく
強く抱き締めて組み伏せる
それだけで力が抜けて
スペラは愛し合うことしか考えられなくなる
「ここにいる間は、仕事はしない。スペラのことだけ、考える」
「ん……」
「スペラもそうしろ。いいな?俺のことばかり考えろ。いくらでもお前を悦ばせてやる」
「なんで、ミラ、絶倫、じゃ、んぁ……!」
「王様だからな」
際限ない欲
底なしの快楽
ミラの指先一つで視線だけで
スペラは簡単に堕ちていく
散り散りになっていく思考の中で
今だけだから、と何度も言い訳しながら
愛しくて逆らえない人にしがみついて泣く
嬉しくて気持ちよくて涙が出る
ミラ、愛してる
それはあなたに伴侶ができても変わらない
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