89 / 90

第89話

最初は全く馴染めなかった 一日の仕事を終えて私室へ戻ってからも 国王陛下が「休む」と仰るまでは立ち番をしてきた なのに 「……やはり、無理があるかと」 「どの辺りに?」 「全編に渡って、です」 「そうか?」 スペラは最近ますます悠長になってきたミラを 苦々しいような思いで見る 敵うはずもないのだけれど 「俺の執務が終われば、スペラの任務も終わると考えればいい。だから、この部屋に誰もいなくなれば、俺たちは愛し合う者どうしに戻る、と」 「……」 「では、こう考えてはどうだ。執務が終わった俺の世話を、スペラが引き受けた、と」 「世話」 「そう。一切合財、下半身的なことまで」 「介護だな」 「そこまで耄碌はしていないが」 とにかく、とミラがにこりと笑う その笑顔に簡単に胸を射抜かれてしまう 「給仕の者が、スペラの食事の用意もできて嬉しいと言っていた。朝餉と夕餉は共に。いいな」 「はぁ……」 「二人でこもるのに、寝所だけでは手狭であるので、近々この部屋を改装する」 「ねぇ、ミラ。そんな大掛かりな」 「スペラとゆっくり過ごすことに、俺は命を掛けよう」 「わかったよ、もう。だから」 「ああ。ゆっくり愛し合おう」 「…………うん」 そんな事が言いたかったわけではないのだけれど ミラの綺麗な鳶色の目で見つめられれば 甘いため息と共に頷くしかない そんな新しい日常が始まった 朝起きたら隣にはミラがいて スペラは当然自分で身支度をして寝所を出る 室内を検分している間に従者がやってきて ミラの身支度の世話をする 給仕係が笑顔で二人分の食事を用意してくれて 気まずいような居た堪れないような気分でミラと朝餉を食べ 側近らが朝の執務を携えて入室する頃には スペラは扉の横に立っていて 彼らのために丁度のタイミングで扉を開けてやる スペラが陛下の部屋にいるようになったという事実は 執務が行われる間のスペラに変化がないということで 問題なく受け入れられてしまった ミラはその様子に満足そうだ 一日を終えれば 愛し合う夜が来る 「ミラ……!」 「俺はスペラの全部が好きだが、ココが気に入っている」 「あ、あ……噛むな……!」 「舐めて欲しいか?」 ミラはスペラの乳首を弄るのに熱心だ ピンと立ち上がっているのに柔らかいような感触 痛くないギリギリの強さで噛めば スペラはそれだけで悲鳴をあげて仰け反る 優しく舐めればブルブルと震える それを何度も繰り返していれば 時々いつの間にか吐精しているほどの弱点のようだ 今夜はどうだろうか 「ミラ、も、い、やだ……」 「俺がいやなのか?」 「挿れて、ほし……」 「ああ、ではそのように」 ミラがスペラの上から退いて寝転がると 互い違いになるようにスペラが覆いかぶさって 逞しく勃ち上がるミラの性器に嬉々としてむしゃぶりつく ミラはスペラの後孔を執拗に解し始める 「スペラの舌使いはたまらんな……ん……ぅ」 「……んは、あ……気持ちいい?」 「ああ。スペラは?」 「気持ちよすぎて、トビそう」 「そうか」 他の人とするときは スペラは最後の最後に達するまで自分の意志で動いていた 巧みに責められて喘ぎまくっても あーきもちーたまんねーと考えていた ミラとすると、そういう事さえ考えられなくなるし 力が抜けて色々と制御できなくなる それが、涙が出るほど気持ちいい 「ミラ……」 「スペラ、俺を受け入れてくれ。愛してる」 「俺も、愛してる……好き……ミラが、好きだ」 力強く寝台に転がされて スペラは重い腕を必死に伸ばしてミラにしがみつく 一緒に過ごした夜がまだ少ないから したことのないことがたくさんあって 体勢も、どれが気持ちいいだろうかと色々と試される 何をどうされても結局スペラはトロトロになっているので 二人とも毎回満足を得られるのだけれど 「ま……て、待って、ミラ」 「うん?痛いか」 「ちが……これ、ヤバイ」 「どうした?」 耳元で甘く囁かれて それだけでゾクゾクと背中が震える ミラは膝立ちになってスペラの身体を抱えて 寝台から持ち上げた状態で挿入していた 腕が膝裏を通ってがっしりと背中を支えられて 落ちるとは思わない だけど 「踏ん張れない、から、ヤバイ」 「踏ん張ってどうする」 「踏ん張らないと、我慢できないんだって」 「踏ん張って、何を我慢するんだ?」 「イクのを!」 スペラは重い 持ち上げるだけならまだしも 揺さぶって支えて突き続けるには重い なのにミラは平然とそうしようとする 彼が訓練に明け暮れ身体を極限まで鍛えていたのはずっと前なのに 今まで色んな人と色々やってきたけど この体位は、なかったかも 宙を蹴る脚が心許ない 「なんだ、そんなことか」 ミラはスペラの目じりに溜まる涙に舌を這わせ ゆるゆると下半身を動かし始めた 尻にも腹にもうまく力が入らなくて ミラの太くて硬いものが出入りする場所も柔らかいままで 脱力した状態で抜き差しされる快感にスペラはあっという間に溺れた 「あ……あぁあ……あ……あは……」 「ゆっくりされるのも好きか」 「やば……あ……ゆ、っくり、やばい……あ・あ・あ」 長さを覚え込ませるかのように ゆっくりゆっくり突き入れられて さらにゆっくりギリギリまで抜かれて スペラは目の前に小さな光が飛ぶのを見た 抱えあげられた両脚が不規則に跳ねる 自分の腹に知った感触 「そうか……スペラはこうされると簡単にイってしまうのか」 「しらな……あ、こんなの、しらな、い……っっ……!!」 「ああ、ほら、また」 「も、も、むり、や……」 「キュウキュウに締まるのもいいが、イク瞬間だけきゅっと締まって、俺のを柔らかく掴むこの感触もいい……スペラのは、本当にいい具合だな」 「み、ら、みら……みら……やぁ……っ!」 スペラが泣いて頼むのに ミラは優しく宥めてゆっくり腰を動かすのを止めてくれない ガクガクと震えては白濁を飛ばし ミラがゆったりと腰を進めればまたイってしまう もう出すものもない 痙攣だけを繰り返して空イキし続けるスペラを ミラは満足そうに抱き締めてゆっくりと寝台に下ろす 「スペラ……かわいい、俺のスペラ。愛してる」 腰の動きと同じように ゆっくりとねっとりと口内を弄られて とうとうスペラは本気で泣いた 怖いほどの快感と打ちのめされる敗北感 支配されることへの甘い陶酔で頭がいっぱいになる 「俺も、出していいか?スペラの中に、俺のを」 スペラは必死で目を開けて コクリコクリと頷いてみせる 掠れた声でミラ、と呼ぶその様は ミラの渇きを癒してくれるほど愛しい 間違いなく屈強で優秀な男は 自分の傍ではこれほど甘くかわいく溶けていく ミラも同じくらいスペラに夢中だと、ちゃんと伝わっているのだろうか 「愛してる……スペラ、スペラ」 「あ゛……!あ゛……!あ゛あ゛あ゛……!」 ミラが腰を激しく動かすと スペラは獣じみた声をあげた 汗を落としながら何度も何度も穿つ イクのがもったいないほど気持ちいい 「いい……ああ、スペラ、ん、出るぞ……!」 愛しい人の中に注ぐのは格別だ 絞りとられるような動きがたまらない 長い間お預けだったのだから 毎晩毎晩睦みあって過ごしたい 「スペラ……こっちを向け」 「ミラ、ひどいよ。俺、こんなの」 「何がひどかった?改めるから、言いなさい」 「…………」 「お前の中で、たくさん出した事か?それとも、何度も気をやるお前が愛しくて止めてやらなかった事か?」 ミラは本気で改めたいと思って聞いているのだけれど スペラは赤い顔でため息をついてそっぽを向く 頬に口づけて耳元で名前を呼べば スペラは情事の最中とはまた違った蕩けた顔になる かわいいやつだ 「ミラ……」 「ん?」 「……年とともに、精力って落ちるよね。なんで、ミラは」 「ああ……お前との最初の夜は、疲れていたし参っていた。今は、色々と満たされているから」 「だからって」 「よいと言われるものを、色々と試しているしな」 「は?何それ」 「スペラを満足させるための努力は厭わない。抜かりなく」 「俺の王様は、本当にばかかも」 「スペラ」 「でも愛してる、ミラ」 「俺もだ。では、何がひどかったのか、もう一度して確かめよう」 「無理。マジで無理」 身体を張って自分を護るスペラを せめて二人の時は慈しんで甘やかしたいとミラは思う ようやくその段取りがついたのだ 誰憚ることなく愛し合おう ミラにとっては スペラこそが自分を屈服させられる唯一の男なのだ スペラが笑えばそれでいい スペラが泣くまで愛したい ずっと大切に想っていた人への愛は届かず 打ちひしがれていた自分を包んでくれたのはスペラだ 「愛してる、スペラ」 「うん」 本当の愛は、本当に楽しい

ともだちにシェアしよう!