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横溢⑥ 矢沼

「なんで…」 山頂に着き、小さな屋根がついたそこには、スタンプと小さなベンチと、まぬけな顔をしたやつがいて…小さな声で、そんなことを呟いていた。 “なんで”って… 「僕が来ちゃだめなの?」 「…っ」 こんなに服も髪もびしょびしょになって走ってきたの、誰のためだと思ってるの。 ふう…と小さな屋根で一息つき髪が目に入らないように掻き分けていると、ふわりと僕に自分の上着をかけ「…風邪ひくぞ!」と言った君に小さく笑う。 「上着ありがとう〜、和希は足大丈夫?」 「え、だれかに聞いたのか!?」 「和希の班の人にね〜。鈍臭いね〜ドジ」 「はいはい、俺はドジですよーこんな足じゃ班のみんなに迷惑かかるから先生に来てもらおうと思って」 と、赤く腫れた左足を上げてみせた。 痛そうだね… ドーンと雷の落ちる音を聞きながら、和希の足を見つめていた。 …和希以外だれもいなくて、よかった ぎゅっと濡れたまま和希を僕の腕の中に包み込めば、やめろっと言って僕から逃げようとする。 逃がすわけがないのにね。

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