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横溢⑨
一時的な雷雨だったらしく、しばらくすれば雨は止んだ。
だけど、山の天気は変わりやすいって言うし……と早歩きで山を下りる。
矢沼どこ行ったんだろ…
「矢沼は大丈夫なのか?」
ちらりと他校の女の子と話している湯田を見上げて尋ねれば、すぐに俺に視線を向けてくれる。
「蓮がそうしたいって言ったんだ。大丈夫だろ」
「でもなんで…」
あんな雨の中走っていく理由があるとでもいうのか…
「まあ、ひどかったからな…雷」
「…意味わからん」
「くくっ、知らなくていいこともある」
勝手に他のヤツに教えたら蓮が怒る、と意味不明なことを楽しそうに話す湯田に悔しさが生まれる。
幼馴染同士の秘密かよ。バカップルめ。
「…あっそ」
矢沼は湯田のことそういう意味で好きじゃないって前に話してくれたけど……それが本当なのかまだ疑ってるし、仮にそうだとしても、逆のパターンもあり得るわけで。
はあ…やだやだ。
いつから俺、こんなに考え深くなったんだろ。
考えれば考えるほど、自分の中が黒くなっていくみたいで嫌気が差す。
「シノは苦手なものあるのか?」
「えっ、なんでそんな話になったの」
さっきの文脈から、どうしてこうなった!?と目を丸くして驚けば、「いいから」と制された。
さっきから女の子のこと無視しちゃってるし……いいのかよ、男子校では味わえないハーレム状態なのに。
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