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お互い様④

病気よりも、たちが悪い。 「うおっ」 目の前が真っ暗だ。 「着替えに行くぞタラシ。風邪引く」 どうやら湯田の腕が俺の頭に絡み付いて視界を塞がれてるらしい。 お互い雨に濡れて時間が経ったとはいえ、体操服が湿っている。 けれどな。 「タラシじゃない」 タラシはどっちだ、この野郎。 キッと睨んでるつもりだが俺の目はタラシエスパー湯田の腕によって塞がれてるんだった、くそぅ。 「…とりあえず行くぞ」 「待て待て。まだ話してる途中……ふぎゃっ」 湯田の腕を引き剥がそうとジタバタ抵抗していたら、その抵抗が無意味だと小馬鹿にするように俺の両手を片手で一纏めにし、ひょいっと軽々しく肩に俺を担ぎ上げた。 女の子の前でこんな……情けない。 「すまねぇけどコイツ連れてくから」 「…」 相手になにも言わせない声色と態度。それに返せるわけもなく女の子はだんまりだった。 「ねぇ湯田。自分で歩くから。おろしてほしい」 「却下」 なんだか怒った声してる湯田の顔は、担がれて湯田の背中しか見えない俺には分からなかった。 けど声だけで危機感なんか感じちゃって、ごくりと生唾を飲んだ。

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