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お互い様⑧

湯田は無言だったが座れるように窓側へ寄ってくれたから了承ということなのだろう。 そんな態度に、悪い気はしなくてドスンと豪快に隣へ座る。 「シノ~団体行動は~?」 ニヤニヤと俺に何か言わせたそうな顔で尋ねてくる矢沼に、人差し指を立て自分の唇に当て、しぃーとだけ伝える。 すると、くくっと楽しそうに笑い「はいはい。先生には内緒でしょ~」だとか「正直なシノに免じて僕は文句なんて言わないよ~」だとか、1人で喋ってる矢沼は俺に協力的だった。 バスは学校へと走り出し俺が湯田の肩に頭を預けると困った顔でこちらを見ていたので、俺も見つめ返す。 「…なに、ゆーた?」 「いや…シノからこんな風に近づいてくるのなんて多分初めてだから」 「そうだっけ。んー……逃げてばっかはやめようかなって」 湯田を見ていて俺は今やっとそう思ったんだ、って言葉は気恥ずかしくて胸にしまった。 それに…逃げても逃げても湯田は追いかけてくるからさ。逃げたって何も変わらないのかなって。 家に帰ったら伝えるんだ。 消し損ねた、湯田が止めてくれた先輩への連絡先。 『会えませんか?』って。 そろそろ立ち止まってちゃいけない。向き合うために。

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