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耽溺③
「湯……ぶっ!!!!!!」
視界が真っ暗になった。
ごぼごぼと沈んでいく身体。
息苦しくて今こそ焦る時なのに、心は冷静を取り戻そうとしていた。
目をゆっくり開けば、水が太陽の光で反射して煌めいていた。
…きれい。
俺のこの汚い感情も浄化してくれればいいのに。
「ははっ!やーい、シノちゃんの不意討ちをついたぞ♪ぼーとしすぎ」
あはは、と無邪気に笑う声は瀬谷だ。
どうやら潜って俺に近づき、腕をぐっと引かれて俺は沈んだらしい。
それに対し、「あらら~作戦失敗」と残念そうに言ってるのは矢沼。
「大丈夫かよ?」と瀬谷と遊んでたのであろうタカちゃんの声も聞こえる。
あ、やべ。
苦しくなってきたかもしれない。
空気がなくなって水を少し飲んでしまったところで、ようやく危機感を覚えた。
だが、俺が行動に移す前に、腕が伸びてきて俺を瞬時に掬い上げてくれたので溺れはしなかった。
「…っ、おえ、げほっ、げほっ」
「篠川、平気か?」
タカちゃんの逞しい腕が俺を掬い上げてくれたおかげで、なんとか生きてる。
あー危ない危ない。
邪念は払わなくては、だな。
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