211 / 229

琴線⑥

逃げられる。 この前みたいに激しいキスじゃない。目を開けば優しい眼差しのそれと目が合う。 息継ぎの余裕すら与えてくれる。 優しく唇を味わい深くまではしない湯田に、俺も合わせる。 だって、嫌だったことなんて……一度だってないから。 きっともう、観覧車は頂上へと辿り着き、きれいな景色が一面広がってるはずなのに、俺は…きっと湯田も…景色なんて見ちゃいなかった。 数分後ゆっくりと唇を離し離れる間際にちゅっとリップ音なんて聞こえて気恥ずかしい。 「な、なんで、」 「キス顔だったから、シノ」 「してない!!」 殴られると思ってたから目ぇ閉じたのに。 睨みをきかす俺に湯田はふっと鼻の抜けるような笑みを溢し確かめるように言うのだ。 「シノの"好き"は、友達より上?」 「うん」 「徹平さんより、俺が好き?」 「え、う、うん……いひゃいいひゃい」 「そこは嘘でも即答しろ」 湯田は女の子のほうが好きなくせに、理不尽だ。そう思いながらも湯田へ「ごめん、好き」と伝える。 2番目でも、ありがたいことじゃん。

ともだちにシェアしよう!