46 / 229
面影⑦
「シノ」
名前を呼ばれて、ハテナマークが浮かぶ。
え、なんか怖い。
いつもより低い声で呼ばれてる。…なんで?
「…なに」
「俺のジャージ汚すな、バカシノ」
「……あぁー!!!」
バッとジャージ見ると転けたこともあり、砂がついて茶色く汚れている。
「…ごめん、洗って返すから…」
殴んないで。
「…ったく。先生がシノのこと呼んでたぞ。倉庫はいいから雑用頼むって」
あ、そっか。
倉庫の掃除と雑用を頼まれてたんだった。すっかり忘れてた。
あぁ…背中がまだ痛い。
上半身は起こすものの、未だに俺に乗っている先輩が邪魔でそれ以上は動けずにいると、湯田が
「そろそろ退いてやってもらえませんか」
と俺の手をとりながら先輩に言っていた。
その時の湯田の顔は見てないけれど、その声も低くてちょっと怖かった。
起き上がらされて、湯田を見上げるとまだ怒っていそうだった。
え、どうしよ…どうしよ…
「…殴んないで」
とりあえず、痛いのは嫌だから湯田にお願いしてみる。
「殴らないっつの。バカか」
呆れたように笑って頭をぽんぽんされて、安堵する。
よかった…湯田を怒らせたら怖いもんな、気を付けよう、うん。
振り返ると先輩と目があったので、へらりと笑ってお礼を言った。
「先輩、ありがとうございました」
俺の後頭部が無事だったのは先輩のおかげだからな!助かった。
それを見て、湯田は殴りはしなかったけど、俺の頬をつねって教室まで連れて行こうとするから鬼畜だ。
痛いのは嫌いなのに。バカ。
ともだちにシェアしよう!