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彼女⑥
電話を切って矢沼を見れば、肩をぷるぷる震わせて蹲っていた。
「…矢沼?」
「〜っ、ははっ、シノ最高!!!!で?で??雅貴はなんて?」
「“今行く”って…」
「やっぱりね〜単純野郎め」
好きだよって言えば、より効果あったのに〜だとか、でも恥ずかしそうに口籠るシノも可愛かったしな〜だとか、矢沼が嬉しそうに話す。
けれど、俺は電話した時に聴こえた湯田以外の声が気になっていて……
「…湯田は…実家暮らし?」
べつに他人のことなんて気にすることないのに、聞いてしまった。
「ううん。高校から一人暮らし。だから雅貴の母さんに雅貴を頼むって言われてんだよね〜」
なんで、一人暮らししてるんだろう…
じゃあ、あの声は…
「さっき、電話した時に女の人の声がした」
「……うそ!!彼女もうできたの!?雅貴モテモテだな〜」
俺の報告に顔色一つ変えず淡々と言う矢沼。…矢沼は湯田のこと好きじゃないのかな、そんな笑っていられるのが不思議。
「湯田には…矢沼がお似合いだと、思う」
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