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彼女⑦
「ふふっ、嬉しいな〜けど、僕たちはそういうのじゃないんだよ、シノ」
どういう意味?
「寂しくない?」
「寂しいけどね〜僕たちは幼馴染であって、それ以上にもそれ以下にもなりえないんだよ。それに雅貴は……」
続けようとした言葉は、クラスメイトの「矢沼」という声にかき消された。
振り返り首を傾げる矢沼にクラスメイトが「呼び出し」と答える。
廊下には他クラスの同級生が、矢沼を見つけて顔を赤らめていた。
「いってくるね〜」とニコニコ笑顔で走っていく矢沼は、その人とどこかへ行ってしまった。
湯田は……なんだったんだろ。続きが気になるじゃん。
だけど、なんとなく分かる。
「彼女…」
湯田は女の子が好き。
いや、男はそれが自然なわけだから驚かないけどさ。
けどさ。
俺からは見えない背中の痕を思い出して、小さく笑った。
ーーーー…あの印に、意味なんてない。
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