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急展開③

ふふっと唇から零れるように俺は笑った。 「先輩が俺を?そんな訳ないだろ、バカじゃねーの」 「シノ?」と不安げに名前を呼ぶ矢沼のほうを俺は見ることができなかった。 俺、今ちゃんと笑えてる…? 「俺が諦められなくて、どうしても会いたいって言って会ってもらったんだ。先輩の優しさにつけ込んだってわけ。…これで満足?」 呼吸が乱れそう…泣きだしてしまいそう…。それを抑えるように左手を強く握りすぎて、ぷるぷる震えていた。 先輩への屈辱は許さない。 すると、先輩への視線がすべて俺の方へ向き、あの頃のように軽蔑した眼差しが俺を射抜いた。 「だよなーやっぱ、お前から誘ってると思った」 「はははっ、未練がましい奴…」 「そこの2人…も気を付けろよーコイツ、ゲイだから」 そこの2人、とは湯田と矢沼のことだろう。そう言ったあと、ギャハハハと汚い笑い方が外に響く。 街を歩く人々のほとんどは、きっと元クラスメイト達のことを見ているだろうけど、会話を聞かれていたなら、俺を…変な目で見てるのかな。 はあ…やだな…… せっかく心機一転できたと思ったのに。 俺が“こんな”だから……だめなのかな。

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