4 / 10
第4話
■
【ビッチ受の心得】
その一 誘われたら、乗る
好意を抱く相手を誘ったり、誘われたりするのは、恋愛において重要な攻防です。
付き合いを始めた後の関係を有利に、もしくは恙無く構築するためには、誘いに乗るか乗らないか、乗るタイミングは、そもそもどちらが誘いの言葉を口にするのか、などの様々な押さえるべきポイントがあります。
しかし、ビッチ受たる者、そのような瑣末なことに囚われてはいけません。まず以って、同好の士と遭遇する確率、外見・第一印象に致命的な嫌悪感がない確率、さらには誘いを受けて勃つことができる状況(体調・スケジュールなど)である確率を計算すれば、先行きを考慮するなど愚かな振る舞いであるということがおわかりいただけると思います。
更に言えば、そのような駆け引きをして時間をかけたところで、身体の相性が合わなければ、何の役にも立たないのです。つまり、コンタクトを取ってきた攻は、早々に味見し確認する。これが最重要になります。
その後の付き合い方に関しては、身体の相性がよければ間違いなく続きます。従って、何も考えることなく、誘われたらまず乗る。鉄則です。
■
「よし」
僕は片岡さんとの電話の後で、もう一度【ビッチ受とは?】を熟読してから、【ビッチ受の心得】に進んだ。何事も、心構えが大事だからだ。
昨日片岡さんに誘われて、早々に応じてしまったことを少し後悔していた。尻が軽いと思われたらどうしよう、軽蔑されるかもしれないと。しかしそんなことは杞憂だったようだ。そもそも片岡さんは、浮気性のビッチ受が好みであって、尻は軽いほうがいいに決まっている。それに、現に誘いの電話をくれた。僕の選択は間違ってなかった。まだ乗っかってはないけど、誘いに乗ったのは上首尾だったようだ。
僕は安堵を得て、次に進む。
■
その二 恥は興奮に変換する
ビッチ受にとって、もっとも優先すべきは快感です。
気持ちいいことは恥ずかしいことではありません。気持ちいいことを求めることは、ビッチ受にとって自然なことです。
どうしても快楽に溺れることを恥ずかしく思うのであれば、恥ずかしいことが気持ちよくなるように、自分をコントロールすることも大切です。もしくは、受を辱めるのが上手な攻を探しましょう。
恥辱を煽り、それを性的興奮、さらには身体的な快感にまで昇華させられるスキルを持つ攻と出会うことができれば、恥ずかしがり屋ビッチ受のあなたもきっとしあわせになれるでしょう。
しかし、そういうハイスペックな攻は中々いません(「攻のたしなみ」参照)。そこで、心得その一が重要になるのです。一度でもそういう攻と交われば、コツを掴むことができます。ビッチ受にとって、すべての性交が、より楽しいビッチ受ライフへのステップなのです。一晩の相手であっても、その経験は今後のビッチ受人生に大きく影響するでしょう。
恥ずかしがらず(もちろん恥らう素振りで攻を落とすことも重要ですが、それは後述します)、どんどん相手を求めていきましょう。
■
「そっかー……」
やっぱり、ビッチ受としての経験値を上げるのであれば、いろんな人とするべきなんだな。だけど、僕には会社員としての社会的身分もあるし、そうおおっぴらにできる性癖ではない。そういう人の集まる場所があるらしいことはうっすら知っているけれど、そこへ行っておかしな人に引っかからないとも限らない。クスリや病気やストーキングなんてシャレにもならない。もっと言えば、僕は今、片岡さんとしかしたくない。だって……好きだもん。
そこまで考えて、僕は深いため息とともにマウスから手を離した。
僕は片岡さんが好きだけど、片岡さんはビッチが好きなんだ。片岡さんから、|僕が《・・》好きだって言われてないし。
ビッチってことは、気持ちよければ誰とでもっていうのが多いんだと思う。さっき仕入れた知識で言うなら趣味ビッチ受だ。だったら、僕以外のビッチとでも、片岡さんは寝るんだろう。タチの考え方は僕にはよくわからない。「攻のたしなみ」でも読んだらわかるかな……。
「まだビッチ受のことも理解してないんだから、タチをわかろうなんて無理無理!」
僕の悪い癖だ。先々のことなんか考えたってしょうがないって、さっき読んだところだろ。よし、とりあえず【ビッチ受の心得】を読み終わったら、ハッテンできるスポットを検索しよう!YES!I'LL BE A BITCH!
僕は鼻息も荒く、マウスを掴むと、画面をスクロールした。
■
その三 自分を大切にする
ビッチとはいえ人間です。酷い事をされれば傷つきますし、悲しくもなります。
すべての出会いがハッピーにつながるわけではありません。少しでも身の危険を感じたり、相手を信用できないのであれば、身体を委ねるのはやめましょう。
いいビッチ受には、いい攻が必須です。いくらビッチでも、嫌な相手と寝る必要はないのです。恥ずかしさを理由に縮こまってはいけませんが、あらゆる意味で危険を感じる場合は、必ず自衛に徹しましょう。ビッチ受魂を汚すような行いは慎みましょう。
■
「…………だよねぇ……」
危なかった。危険を冒してでも、ビッチ値を上げることに躍起になるところだった。ありがとう、「ビッチ受のススメ」!ありがとう、青たん痛子さん!!
僕はこのサイトで勉強して、立派なビッチ受を目指します!!
ともだちにシェアしよう!