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第10話
翌日
俺は性懲りもなくジムへ行き
小阪さんは俺の顔を見ると寄ってきてくれた
「大丈夫ですか?」
「はい、お騒がせしました」
「いいえ。お水、飲んでくださいね」
「あ、昨日の、あれ」
「ああ、あれはお水じゃなかったですね」
「どこに売ってるんですか?」
「下にありますよ。でも、普通はお水で十分ですが」
「はぁい」
でも俺、違うのも飲みたいです……小阪さん……
足早に去っていく小阪さんの後姿
ああ
あの背中に爪を立てたい……
いつものようにそんな風に
小阪さんと結ばれる時を妄想しながらマシン責めを受けて
小一時間走ってトレーニング終了
俺は昼過ぎに来ていたので
たっぷり水分取った後のゆっくりのお風呂が済んでも
まだ明るい夕方だった
風間君は先に仕事を終えて園田の駅にいるみたい
そこまで警戒しなくても、とか思うけど
バイト先での人間関係もあるだろう
「お疲れ様でしたー」
今日もスタッフの笑顔に見送られて
俺は気分爽快で園田駅を目指した
「どうぞ」
「おじゃましまーす!」
駅で落ち合った風間君と一緒に家へ帰った
玄関を入って短い廊下の先に二十畳ほどのワンルーム
右奥の方にベッドを置いていて
入ってすぐ左手の壁沿いにあるキッチン周辺は
リビングダイニング風にソファとテーブルとテレビが置いてある
ベッドのある右手奥の壁は一面収納なので
部屋に出ているものは少ない
「ひろーい!きれーい!すごーい!!」
「あはは。そうかなぁ」
「ベランダも広いですね!」
「そうだね。めったに出ないけど」
「どうして?」
「用事がないもん。洗濯物も乾燥機だし」
「花火とか出来そう!」
「かな?今度しようか」
「はい!」
もうすぐ梅雨が始まる
それが明ければ夏本番
花火も店頭に並ぶだろう
それほど見るところもないだろう部屋を
物珍しそうにグルグルしている風間君を尻目に
俺は持って帰ってきた洗いものを洗濯機に放り込んで戻ってきた
「何食べるの?」
「えっと、イタリアン」
「調べてくれた?じゃあ、オーダーしよっか」
「はい!時間掛かるし先にしとけばよかったんですけど」
「ん?」
「ここの住所、わかんないから」
「そりゃそうだよねぇ」
携帯でメニューを確認して
適当にオーダーして
それが届くまでの時間にさっさとビールを飲み始める
アテはポテトチップス
十分でしょ
「なんか、高木さんちって感じです」
「そう?頼りない?」
「なんでですか!そうじゃなくて~」
「あ、来たね」
料理が届いてまた盛り上がって
先にお会計しましょうと
やっぱりきちんとしている風間君に料金の半分を頂いて
それっていつもの半分くらいで済んで
俺は、ああやっぱり正解だなぁと満足した
「ねぇ、高木さん」
「はい」
「昨日、|ジム《うち》来たんですよね?来ないって感じだったのに」
「ああ……仕事が早く済んでさ。でも、ちょっと」
「聞きました。気をつけてくださいね?」
「はい……面目ない」
「脱水症状って、本当に危険なんですよ!俺、心配したんですから!」
「はい。小阪さんにもみっともないとこ見せちゃって迷惑かけてさ」
「克彦さんも心配してましたよ」
「そうなの!?そっかぁ……」
「だから気をつけないと」
「うん。だね」
優しいなぁ、風間君
そして俺たちはいつもよりものんびりとした時間を過ごした
ソファにさえ座らずに床に胡坐をかいて
ローテーブルの上に雑然と並んだビールと宅配イタリアン
期待してなかったけど結構おいしい
ダラダラすんの、サイコー
「高木さんって、好きな人いるんですか?」
「え?」
俺は驚いてぽかんと口を開けた
好きな人?
小阪さんに片想い真っ只中だけど
風間君にそんな話をされるとは思いがけなくて
でも誤魔化すのもおかしいかな……
俺は空になった缶を握りつぶしながら頷いた
「……いる。います」
「あ、やっぱり?」
「なんでやっぱり?」
「なんとなくでーす。そっかー」
「そうです」
「その人と、うまくいきそうなんですか?」
「いやぁ……どうかな」
俺の脳内ではすっかりラブラブなんだけど
妄想と現実をごっちゃにするほど重度のドリーマーではない
出会って数ヶ月
私的なお話もお誘いもまだだし
何かきっかけがあればなぁ
「告白とか」
「でも、ほら、俺アレだから」
ゲイだから
告白とか、なかなかね
俺は男を見る目がないだけではなくて
ゲイを見抜くのも苦手だ
思わせぶりに誘われればわかるけど
話の流れでカマかけて探ったりするけど
例えば小阪さんがそうなのかどうなのか
そういうことってあんまりわからない
判断できるほど近くにいないし
「アレって……男の人が好きって話ですか?」
「そう。ごめんねー、風間君、大丈夫?こんな話」
「なんで?」
「気持ち悪いでしょ」
「なんで?もしかして、気づいてないの?」
「何を?」
「俺が高木さん好きだってこと」
「……えええ!!!???」
「そうなんだ。鈍感ですね」
「そうなの!?風間君、そうなの!?」
「そうですよ」
「……わかんなかった」
「みたいですね」
わかんなかったのか?
あのやっかいな薬剤師を追い払ってくれたとき
ゲイなのかゲイに理解があるのか
そのどちらかなのかな、とは考えた
でもあまりにも爽やかで王子様過ぎて
妄想して遊ぶことはあっても
まったくそういう目で見てなかった
そっかー……ゲイかー……
「……え!??俺のことが好きなの!?」
「マジですか。告白したのに聞いてなかったとかどういう」
「いや、聞いてた!聞いてました!聞こえてました!!」
今、俺、告白されたの!?
こんな年下の爽やかお洒落イケメン王子様に!?
え?え?え???
「全然、気づかなかった……」
「俺のこと、眼中になかったってことですよねぇ……」
「いや!えーだって連絡先も全然教えてくれなかったし」
「我慢してたんですよ。あんまりガンガンいくと引くかなって」
「すごい……その若さでそのさじ加減……」
「ねぇ、高木さん」
「はい」
風間君はいつの間にか俺の太ももを撫でていた
薄いスウェット越しに彼の体温を感じる
間近でも王子様みたい
小阪さんもそうだったけど
「その人と、両想いになるまででいいんです」
「え?」
「俺とイチャイチャしませんか」
「い、いちゃいちゃ」
「そう……ダメですか?」
「いや、ダメってか、ゼヒってか……」
「高木さんがその人に告白する気になったら、身を引きます」
「あの、風間君、手……」
「ね?それまで……少しだけ」
風間君の手はするすると這い回り
俺の股間に辿りついた
ちょっと待って
そう言って突っぱねて逃れようとしたけれど
もう片方の腕で肩を抱かれてキスされて
結局俺は彼に落ちた
「高木さんの恋愛の邪魔しないから……」
「ん……あん……!」
「フリーの間だけ、俺といて欲しい」
キスの合間に囁かれて
最近ご無沙汰な身体は彼の愛撫に反応する
優しいのにちょっと強引な風間君にムラムラする
ダメダメダメ!!
こんな若い子に流されてる場合か!
「高木さん、好きです」
「お、おれも」
「ほんと?よかった」
馬鹿馬鹿馬鹿!!
俺も、じゃないだろ、俺!
小阪さんという人がありながら!
なのに心地いい波は俺の理性を攫っていく
「高木さん……肌きれい。触ってもいいですか?」
「う、ん……」
「ボタン、自分で外して見せて」
上半身に柔らかいシャツを着ていた俺
風間君は裾の辺りから手を入れて
俺のわき腹を撫でながらキスを繰り返している
俺は震える指でシャツのボタンを外していく
何やってんの?俺
このままこの子と寝るつもり?
「俺、あんまり経験ないんです……高木さん」
「あ、うん……教えてあげる」
「高木さんを満足させてあげたいな」
「ん……」
にっこりと可愛い笑顔で嬉しそうに
露わになった俺の胸に舌を這わせる
片手は相変わらず優しく股間を撫でていて
ああ、もう、じれったくてしょうがない!
「ね、え……風間、く……!」
「ん?ダメ?」
「……いい、けど。ベッドに」
「はい。じゃあ、もう一回キス」
「ん」
ズルズルとソファにもたれかかる様に崩れていた俺を抱き起こし
風間君はねっとりとしたキスをくれた
頭が痺れる
セックスしたい
俺は無意識に風間君の股間を弄っていた
「ん……高木さん、積極的」
「だって」
「嬉しい。ベッド、行きましょう」
うわーうわー
なんか今すごいものが手に触れた気がする!
デカくないですか、風間君!?
色白のかわいい年下イケメンの癖に
すっごいモン持ってるんですね?!
混乱と期待で動揺している俺の腕を掴み
風間君は部屋を横ぎってベッドへ向かった
「あの、さ、風間君?」
「はい」
「俺のこと、好き、なの」
「好きです。だからご飯にも誘ったし、連絡先も教えたし、メールもいっぱいして部屋にも来たんです」
「そう、だったんだ」
「酔ってガードが下がった高木さんが見たくて、いつも居酒屋にしてたんです。ファミレスよりは距離、近いしさ」
「そうだったの……」
「下心、満載です」
「そうなんだね」
「でも、好きな人がいるなら、俺、諦めますから」
「え?」
ベッドに押し倒されて
スウェットと下着をまとめて引き降ろされる
風間君も着ていたシャツをかっこよく脱ぎ捨てて
小阪さんとは違うけれど
素晴らしい肉体美を惜しげもなく曝してくれて
俺に跨って見おろしながらベルトをカチャカチャする
か……っこいい……!!
俺、年下王子に食われちゃうぅ!!
「諦めるよ。今日だけ……ね?」
「あ、でも」
「口軽くないし、忘れっぽいから大丈夫」
「じゃなくて」
「高木さんがフリーの間、俺を呼んでくれるなら、喜んでまた来るよ……好きだから」
「風間君……」
「かわいいね、高木さん……もうすごい硬くなってる」
「あ、あ……!」
そして俺は食われてしまった
妄想が現実化したのは初めてだ
勝手に想像していた通り
風間君は若さゆえの元気さで一晩で何度もしてくれた
この数ヶ月フィットネスで発散していたとはいえ
溜まりに溜まったヨクボーに火を着けられて
自制できるほどの理性はない
「かざまくん……!」
「すご……高木さん、エローい……」
「も、ダメ……ダメ……!」
「またイっちゃう?俺として、気持ちいい?」
「気持ちいいよぉ……!」
ドロドロの身体
色々吹っ飛んだ頭
まともな判断なんか出来なくて
俺は色白爽やかイケメン年下王子に泣いてしまうほど可愛がられてしまった
誰の経験が少ないって?!
散々お互い楽しんだあと
風間君は律儀にも帰り仕度を始めた
普通泊まるよね?
「帰るの?」
「はい。一緒にいたいけど」
「……泊まっても、いいのに」
「高木さん」
まだベッドに寝そべる俺に近づいて
風間君はキスしてくれた
抱かれて啼かされても
やっぱり風間君は可愛い王子様だと思う
明るい笑顔が好きだ
「言ったでしょ?俺、高木さんの恋愛の邪魔はしたくないんです」
「……うん……」
「好きだから、今日は我慢できなかったけど、高木さんの迷惑になるならもうしません。メールも、エッチも」
「迷惑だなんて」
「でも、好きな人いるんでしょう?」
「いる、けど」
小阪さんのことが頭に浮かぶ
薄く日焼けした柔和な笑顔
俺や風間君よりずっとオトナで逞しくて
あんな人がきっと俺のどストライクなんだ
だけど
「……片想い、だし」
ずるいな~俺
風間君を放したくなくてずるいこと言ってる
でもそのぐらい気持ちよかったんだもん
好きだって言われながら抱かれるのは久しぶりで
「寂しい?高木さん」
「……わからない」
「慰めあいっこ、します?」
「でも、風間君は」
「いいんです、俺。高木さんが俺といてくれれば何でも」
躊躇う俺にもう一度キス
風間君は嬉しそうに笑っている
「連絡ください。来てって、そう言ってくれたら、俺いつでも来るから」
「……」
「でも、今まで通りでもいいです」
「ご飯、食べたり……?」
「はい!高木さんが嫌ならこんなことしません。だから考え込まないで下さいね」
「……少し、時間を」
「はい!今日はゆっくり寝て?」
「そうする」
「帰りますね」
「ん……道わかる?」
「大丈夫です。おやすみなさい、高木さん」
「おやすみ、風間君」
何にも考えたくない
俺はドアが閉まる音と鍵がドアポケットに落ちる音を確認して
目を閉じた
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