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第29話

 フォールが去り独りになった後、ラヴィソンはこれから自分の身に起こるだろうことが想像できず、また目を開くこともできなくなったので、一気に塞ぎこんだ。  部屋に一人で待っていた彼の異変に気づいたのは、彼を迎えに来た男だった。まだ子供のような若さで一生を決したのだ。それも自分のためでも自分の意思でもなく大きな何かの犠牲として。精神の均衡が崩れるのも無理からぬことだろうと、ラヴィソンの「もう私の目は使いものにならぬようである」という言葉を受け入れることにした。    この男は、直接会うことのないアンソレイエとラヴィソンの間に入って、この後ずっと世話を焼いてくれることとなる。名はジョワイ。ラヴィソンには自分は国王の側近だと告げた。ラヴィソンは、さようかと頷いただけだった。    ラヴィソンにとっては、国王アンソレイエと窮地を救ってくれた初老の文官、あとは第三隊の者たちと水軍の総大将など、とにかく会話をし信用することが出来ると判断した人間以外はすべて"得体の知れない誰か"となった。自分に危害を及ぼすかもしれない"誰か"たちには、謙ることで容赦を引き出すべきかも知れないけれど、ラヴィソンはそれを潔しとしなかった。自分は、この身を守り切ってくれたフォールに恥ずかしくない振る舞いをしなければならない。居丈高でいるつもりはないけれど、保身のために己を低く置くことはしなかった。従って、この側近だというジョワイに対しても、歴史ある国の王族の身分のままで接した。それが許されるほど、甘くはなったけれど。     「あなたの身の振り方を考えねばなりませんね、ラヴィソン」      ジョワイの丁寧なわりに親しげな態度は、なぜかラヴィソンの癇に障った。色々あって神経が昂ぶっていたこともある。過度に失礼なわけでもないのに、ラヴィソンはこの男が好かないと瞬時に決めてしまった。そのこと事態、ラヴィソンには珍しいことであり、精神の不安定さを現してもいた。この男の前では、情けない様は見せられぬ。そう思い、殊更に背筋を伸ばして声のするほうへ顔を向けることもなく、凛とした声で応じた。     「私の処遇は、アンソレイエ国王陛下のご一存によるものとする」      ジョワイはラヴィソンの様子が不思議だった。崩れるだろう脆さを見た気がしたのに、持ち直したのか。それともただの虚勢だろうか。少なくともその佇まいは生まれながらの気品に満ちていて、見事なものだった。そして何よりやはり美しい。   「では陛下に、相談してまいりましょう。計画を少し修正せねばならないようです。目が見えるのと見えないのとでは、大きく違いますから」   「確かに多少の不自由があるが、陛下からの御下命においては、如何様であってもそれに粛々と従うとお伝えするがよい」   「それは当たり前のことですので、お気になさらず」      中々面白い子だなと、ジョワイは微笑んだ。彼の闘いはこれからだ。今までの自分との折り合いをどうやって見つけるのだろうか?アンソレイエからはラヴィソンにさせるべきあれこれを承っていたけれど、変更が必要らしい。     「では、とりあえず本日はもう結構ですので、疲れを癒してください。しばらくはここの客室を用意してあります」   「さようか」   「私が案内するつもりですが、どうしますか?おぶりましょうか、手を繋ぎましょうか?」 「国王の側近自らが道案内など不自然である」 「全くもってその通りです。では、別の者を呼びましょう」  ジョワイはそう言って、おそらく最初からそばに控えていたであろう者に声をかけた。応じたのは女性。ラヴィソンは本日何度も目にした麗しい女性たちを想像した。 「恐れ入ります、ラヴィソン様。ご案内をする間、危のうございますので私の腕にお掴まりくださいますよう」  彼女はそう涼やかに告げて、ラヴィソンに立ち上がるよう促すと、その白い手を取り、自分の肘のあたりに導いた。ラヴィソンは、母親以外の女性の身体に自分から触れたことがなかったので、なんとも頼りない腕であることだと思った。  ジョワイは先導しているようだ。部屋を出て、女性が気を使って今は廊下ですよ、右に曲がりますよと声をかけてくれる。それでも暗闇を彷徨うように歩くのは恐ろしいことで、そろりそろりとしか歩を進めることはできなかった。なんだか随分と長く歩いた気がしたけれど、おそらくそれ程の距離ではないのだろう。着きましたよと言われて扉の開く音が聞こえ、ラヴィソンはしばらく過ごすことになる部屋に到着した。女性はラヴィソンを長椅子に座らせて自分に掴まらせていた手を優しく取ると、収まりのいいように大きな肘掛の上に乗せた。お茶をご用意致しますと言い置いて出て行ったようだ。ラヴィソンは自分の腕を乗せられた肘掛だけが頼りだとでも言うようにそれをぎゅっと掴んだまま、この先どうなるのだろうかと不安を覚える。  部屋から部屋への移動だけで、これ程大変なのか。自分はもう、なんの役にも立たない人間に成り果てたのだ。利用価値がないのなら、アンソレイエ陛下の恩に報いることはできないかもしれない。それでも陛下は、我が祖国を見捨てずにいてくださるのだろうか。 「ラヴィソン」 「……」 「私は今から、陛下のところへ報告に行ってまいります」 「……」 「言伝があれば、承りますが」 「……陛下のご機嫌麗しいことと、お察し申し上げる」 「心得ました。お茶は、お一人になりますが存分に。先ほどの者がついてくれますから、見えずとも味わえることでしょう」  ジョワイが去り、一人になって、ラヴィソンは深い深いため息をついた。自分の住んでいた王宮を出て以降、これほどまでに落ち着かず、不安を覚えたことはない。どうなるのだろう。どうすればよいのか。   「……フォール」      初めて口にしたその名の主は、返事をしない。無事だろうか。あの者の力量を疑いはしないけれど、往路の過酷さは旅が初めてだったラヴィソンにとって生き死にを考えるほどだった。フォールにだって楽ではなかったはずだ。それとも、世話をすべき自分がいなければ、幾分身軽に行けるのだろうか。    ラヴィソンは物思いに沈んでいく。もしもこの場にフォールがいれば、目が見えないことなど些かも不安にならなかっただろう。いや、彼が傍にいれば、この目はきっと、彼を見つめるために開いていたに違いない。だからこれでいいのだ。自分の選んだ道であるのだから、安心などないと知っていたのだから、このままでいい。寂しさや不安など、感じている暇などないはずだ。まともな生活が送れるなど、よもや想定していない。  やがてお茶が運ばれてきて、女性はラヴィソンが火傷をせず楽しめるようにこころを配ってくれたので、そのおかげで過敏だった神経も少しずつおさまっていった。     ラヴィソンはそのまましばらく、王宮の中に客人として留め置かれていた。アンソレイエは、彼を慰み者にしたりするつもりは毛頭なく、しかし自由にするつもりももちろんない。自軍を動かすのであるから、それなりの実入りを期待してのことだ。情けも慈悲もあるけれど、それだけで自国の民を危険にさらすことはできない。    ヴィヴァン国は豊かで、国防力は高い。大きな戦争はもう長くしていないけれど、それは国土と国民が安心して暮らせる平和な国であり続けるために、戦争になる前に相手を屈服させるか従属させるやり方を心得ているからだ。どこまでも対等で友好な国ももちろんあるが、それは精神が対等なのであって、そのほとんどはヴィヴァン国がその国を愛しているがために他国からの侵略を防ぎ続けているという関係だ。ちょっとした軍力を持ち、それを盾にヴィヴァン国に近づく国はヴィヴァンに愛されることはない。仇なすものとして報いを受けさせられる。その一方でヴィヴァンの豊穣の大地や華やかな文化等々と自国を切り離して考えられる国は、ヴィヴァン国の方から余計な干渉をすることはないので無関係でいられる。そのうちの一つがラヴィソンの祖国だ。そうだった、という方が今は正しいだろう。    ずっとまともな国交のなかった歴史ある大国からの親書に、アンソレイエは熟考した。我が居城であるところの首都を離れている間にそれを何度も読み返し、追いかけるように逐一届く報告を聞き、第三王子の顔を思い浮かべる。彼の評価は大変によかった。一番最初に直接の陳情があったのは旧知の水軍を統べる男からだったけれど、最初に彼らを発見した村民やその村にいる警察隊、身柄の管理を任せた第三隊、面会を終えた文官たちからは、報告書の端々に彼への敬意が見て取れるほどだ。  そうであればあるほど、慎重でなければいけない。  誰からも愛されるような好人物は、扱いが難しい。また、それほどの知性があるのは後々の脅威ともなり得る。彼の裏に、よからぬことが潜んでいないとももちろん限らない。また、単純に、あの大国を救う必要性は乏しかった。乳兄弟であるところの、国防の要の一つからの嘆願を聞いてなお、情に流されることなくアンソレイエはまだ考え続けていた。  もちろん、今は隣国に圧力をかけてラヴィソンの祖国への攻撃を止めさせている。約束を反故にする気はないし、救えなかったなどという結果も絶対に回避する。しかし、隣国にあの国を諦めさせるのなら、これからの長い未来においてあの国に安定した政情を保たせるのなら、実施する作戦は穏やかなものではなくなるだろう。  あの美しい王子の潔さ。その様は、アンソレイエに新鮮な感動を与えた。国を思う志の高さは、国の規模も、玉座からの距離も関係ない。それに応えてやるべきだと、王冠を戴く者として強く思う。いかにしてそれを為すべきか。  そんな時、ラヴィソンが光を失ったという話は、宰相から速やかに国王アンソレイエの耳元に囁かれた。王はその太い眉を顰め、心労によるものかと問うた。宰相ジョワイは、恐らくは、と答える。     「気がふれてしまって取り乱したりすると、それはそれで大変ですが、盲いたとなると」   「ああ……誰かが世話するしかあるまいな」   「心当たりはあります。それから医師を」   「頼む」   「はい」      歴史ある大国の第三王子という身分がなくなり、人質のように異国に取り残された境遇に絶望したのだろうか。ずっとそばにいた護衛が去ったことも影響しているのかもしれない。アンソレイエは彼を非道に扱うつもりはないけれど、彼にはそう信じる根拠がないから疑心暗鬼になるのだろう。気の毒なことをしてしまったなと、嘆息しながら王が呟けば、宰相はにこりと微笑んで小首を傾げた。     「陛下のおこころの、晴れやかなる事をお祈り申し上げております」      気にするなということだろう。アンソレイエは苦笑いを返すしかない。水軍の男といい、自分は随分いろんな人間に支えられているものだ。  その後ジョワイは、三人の人間をラヴィソンのために選んだ。執事と侍女と侍従だ。しかしたった三人しかおらず、世話をするのはラヴィソン一人。料理人もメイドも下男もいないので、三人はそれぞれの得意なことを自分の立場を超えてこなすことにしたらしい。執事ゼンは執事らしく家の中の秩序とラヴィソンの名代を、侍女アンはラヴィソンの身の回りのことと料理洗濯掃除を、侍従ダンは買い物や力仕事、他の二人の手の届かないこと全般を。  アンソレイエは、広大な王宮敷地内の端の方にある、小さな宮殿を使えばいいと言った。放置されていたわけではないので手入れは行き届いているし、四人の生活の規模を考えればちょうど手ごろな建物だった。  数日後、ジョワイの選んだ三人がやってきた。いずれも身元がしっかりとしていて、人に仕えることに慣れている者ばかりだ。彼らをにっこりと見渡して、ジョワイは改めて、異国から来た元王子の世話をしてくださいと言った。 「ラヴィソンに、敬称をつけることは禁止とします。今の彼はただの平民の一人であり、あなた方の主ではありません。賃金は国庫から支払われますので雇い主でもありません。彼は陛下のお情けを乞うて生きています。諸々事情はありますが、彼の日常の報告も義務とします。それから」   「宰相殿」  穏やかな初老の執事ゼンは、生真面目な無表情のまま、慎ましくとも断固としてジョワイの言葉を遮った。ジョワイはそれを咎めることもなく、不思議そうになんですか?と問う。 「そちらからのご指示につきましては、すべて従いましょう」   「結構です」   「ただし、それは彼に危害の及ばない限りとさせていただきます」   「ふむ?」   「国がもし、彼に不誠実であるならば、私は王宮に火を放つでしょう」      執事の矜持を、軽んじられることのございませんように。  ゼンは穏やかに、揺るぎない決意を示した。自分が仕えると決めた以上、不自由な思いをさせはしない。それを邪魔するのは誰であろうと許さない。ゼンの横に並ぶアンとダンも、従順そうに目を伏せて控えてはいるけれど、同じ気持ちだった。宰相は肩をすくめて、ラヴィソンは人気者ですねと笑った。  王宮の客間に留め置かれていたラヴィソンは、闇の中にいることに必死に慣れようとし、耳を澄ませて、音を記憶することに集中していた。人の声、足音、扉の開閉音、風の音と蝋燭の燃える音。ようやく少しだけ、音と状況が結び付き始めていたし、幸いにも食事や身の回りの世話をしてくれる女性は、ずっと同じ人だった。ジョワイがそうさせたのだ。目が見えていたとしても、周囲をたくさんの人間がうろつけば神経がもたないだろうから。なかなかの気遣いを見せるジョワイだけれど、ラヴィソンは相変わらず彼に反感を抱いていた。     「今日は引越しですよ、ラヴィソン」   「……」      ラヴィソンは自分なりに、なぜこうもこの男に苛立たせられるのかを考えた。結論としては、彼はこちらの反応を面白がっている節がある。それが非常に不愉快なのだ。なので、ラヴィソンは朝食の席に乱入してよくわからないことを言い出したジョワイを黙殺して食事を続けた。  しかしそんなことでへこたれるジョワイではない。     「どこへ行くのか聞かないのですか?」   「聞いてもわからぬ。それが陛下の御下命とあらば、いずこへでも参る所存である」   「大変立派なこころがけですね。色々と検討した結果、このままいつまでもあなたをここに置いておくべきではないという結論に達しました」 「……」  いよいよか、とラヴィソンは内心慄いた。独りになって以降、ずっと戦々恐々としていた。目が見えないことももちろんあったけれど、こんな風に丁重に扱われる日々が続くはずがないからだ。この身体は国を救ってもらう代わりに奉仕を強いられる。それがどんなものであっても耐えなければならない。命を取られたとして、そこには何の不平もない。それだけのことをしてくださるはずだという信頼を、あの威風堂々とした王に預けたのだから。だけどそれでも、いったい何をされるのかと怖いような気持になることは無理からぬことだった。 「あなたには、陛下のご厚意で用意された邸宅に移っていただきます。あなた一人では早々に死んでしまうでしょうから、お世話をする者も一緒です。それも陛下のご厚意です」 「……」 「今のあなたには、今すぐその身をもってこの国に尽くせという御下命はありません。いずれ必ずヴィヴァンと陛下に報いていただくことに些かの変更もありませんが、陛下は盲いたあなたを不憫に思っておられます」 「……」 「身体を厭いなさい、とのお言葉です」  ラヴィソンは握ったままだった匙をそっと置き、立ち上がった。まっすぐに前を向き、背筋を伸ばし、ゆっくりと息を吸っておもむろに口を開く。 「……アンソレイエ国王陛下には、この上ない感謝を申し上げたく、また、この私の為しえるすべてをもって、ご恩に報いることを改めて申し上げる」 「承知いたしました。間違いなく、陛下にお伝えいたしましょう」  そしてジョワイは、部屋に人を呼び入れた。ラヴィソンは知らない気配の複数の人間に緊張した。自分をどう思っているのだろうか。どのように接するべきなのか。ジョワイはそんなラヴィソンの気持ちを知ってか知らずか、相変わらず飄々と、彼ら三名をラヴィソンに紹介する。 「あなたには、三人の者が付きます。男が二人と女が一人。不自由はきっとないでしょう。非常に優秀な者たちですから」 「……さようか」 「あなたは平民です、ラヴィソン。彼らはかわいそうなあなたを助けてくれる人。感謝を怠ってはなりません。彼らは陛下に雇われ、陛下のご意向であなたのお世話に当たるだけです」 「承知した」 「では、どうぞ自己紹介を。ラヴィソンは今目が不自由なので、声であなた方を覚える必要がありますから」  ジョワイに促されて、まずゼンがラヴィソンの傍に寄った。その気配で、ラヴィソンは少し恐怖を覚えた。それを安心させるように、ゼンは静かな声で名乗る。 「ゼンでございます。成り行きはどうあれ、あなた様にお仕えすると決めたのは私です。私にとって、国王陛下よりの御下命以上に、あなた様のご希望を重んじますことをお許しください」 「……それでそなたに不利益があろうから、許すことは出来ぬ」 「何も、不利益はございません。宰相殿のお許しも得ております。何卒、お許しくださいますよう」 「…………」 「あなたが頷かねば、彼らは仕事ができないようですよ、ラヴィソン」  ジョワイの楽しそうな、こちらの出方を窺う声が響く。ラヴィソンは、どうしていいかわからず黙り込む。彼らに何か苦労を掛けてはいけない。何もしてやれないし、守ってやれないのだから当然だ。しかし、彼らがいなければ、ジョワイの言う通り自分は生きていけないのだろう。 「……では、許そう。ただし」 「はい」 「常に、自分を優先せよ。私を庇うことでその身を、自由を、誰かに奪われることのないように」 「……」 「何も犠牲にしてはならぬ。心得よ」 「承知いたしました」  ゼンは深々と頭を下げ、続いてアンが近づく。 「アンでございます。お食事や、身の回りのことをお任せいただきとうございます」 「よろしく頼む」 「はい、坊ちゃま」 「………………それは、私のことだろうか」  ジョワイは堪え切れずにぶふっと笑いをもらしてしまった。ラヴィソンは、あまりにも坊ちゃまという呼び方が似合いすぎた。とても大事に扱われる、年若い男子。ジョワイの笑いは収まらず、ぶふふ、ぷふっと続いている。 「お許しくださいませね。なんだか、敬称をつけるなだとかどうだとか、外野がうるそうございまして」 「…………好きに、致せ」 「はい、坊ちゃま」  中年と言ってもいいくらいの年齢のアンは、若い頃に夫と子供を一度に亡くし、それ以降ずっと侍女として生きてきた。とても愛情深く、快活で、料理も上手な気さくな女性だ。最後にがっしりとした男がドスンとラヴィソンの傍に立った。アンやゼンよりもずっと若い。そう、フォールと同じくらいの年の男だ。 「ダンです。ゼンさんやアンさんにできないことを全部やります。一番年が近いので、どうぞ気楽に接してください」  ダンはそう言うと、失礼、と声を掛けてからラヴィソンの手を握った。ラヴィソンはぎょっとして振り払いそうになったけれど、あたたかさが、ひどく心地よくて、根拠もなく彼を信用してしまった。彼だけではない。ゼンもアンも、きっと誠実な人間だろうと思える。 「…………世話に、なる」  暗闇が、少しだけ和らいだような気がした。

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