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第6話
暗がりで玩具(おもちゃ)にされていると、見えないことが不安を駆り立てる。
けれど、灯真はいつもこの闇のなかにいるのだ、と雫は気付いた。
眠るときも、眼が覚めても、誰かが話しかけても、食事をしていても。
試しに自分も瞳を閉じてみる。
何かに触れていなければ、怖くて一歩も動けない。
黒くはてしなく高い高い壁に、四方を取り囲まれたような気持ち。
こんな暗闇から、灯真は手をのばして、自分に触れているのか。
それはきっと、彼の精一杯のアプローチなのかもしれない。
雫は闇の中でさらに眼をかたく閉じて、触覚に全神経を集中させてみた。
肌を走る舌さきの震える様子。
唾液が乾いてゆくときの、体温を奪われる冷たさ。
滑る指先が、つと止まる瞬間。
手のひらで、包むように掴まれて熱をもつ皮膚。
粘膜の、柔らかく敏感な場所はさらに濃密に刺激をつたえる。
遥か高みから、己であっておのれでないような客観的な視点で、
自分を見ているような錯覚。
ああ。
これは灯真のまなざしなのだ。
声をたてると気が散ると言われた。
灯真は舌と指先で、こうやって雫を見ようとしているのかもしれない。
「灯真さん、僕を描いて。」
昂った灯真を受け入れながら、雫は思わずそう口にしていた。
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