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第15話

若い後妻を連れて、諸国漫遊の旅に出ていた当主が戻って来た。 玄関に出迎えに出た雫は、長瀬医師に紹介されて、はじめて灯真の父と対面した。 あまり灯真に似ていない、やや無骨そうな顔をしたあるじは、 丁寧に頭を下げる雫に一瞥をくれただけで、長瀬のほうに頷きをかえすと、 黙って屋敷のなかに入っていった。 「灯真の偏屈で無愛想なところは父親似なんだ。」 長瀬は苦笑しながらそう言った。 少し遅れて玄関前に立った若い後妻は、逆にしげしげと雫を興味深そうに見、 「灯真くんのお友達ね?」と声を掛けて来た。 「身の回りのお世話をさせていただいています。雫です。」 再び頭をさげた雫に、微笑みを返す。 「千景です。よろしくね。・・・灯真くんは?」 「あの、頭が痛いって・・・。」 灯真は朝から不機嫌だったが、両親の到着を聞かされるとますますふさぎ込んで 部屋に籠ってしまっていた。 千景は慣れているのか、「そう。」と軽く頷いて、あるじの後を追った。 灯真は夕食にはしぶしぶ出て来たものの、久しぶりに逢う父と、 型通りのあいさつをしただけで、黙りこくって食事を済ますと、 逃げるようにダイニングを出てしまった。 あわてて灯真を追って立ち上がった雫は、ふと千景の視線を感じて振り返った。 雫とかち合った視線を、すぐに夫に向けた千景は、 「灯真くん、体調大丈夫かしら。」と心配そうに話しかけたが、 あるじは「心配いらん。そのために長瀬君がいるんだ。」と突き放すように返した。 『今の視線・・・・。』雫は説明できない違和感を感じていた。 さっき、千景さんが灯真を見てるときのまなざし。 少なくとも、母親のまなざしではない気がした。どちらかというと・・・。 ちょっと気になるクラスメイトを盗み見るような・・・。 ・・・え?まさか。僕の気のせいだ、きっと。 「あの人。」 部屋の前で灯真に追いつくと、雫の心を読んだかのように灯真が聞いた。 「あのひと、僕を見てた?」 「あ・・・うん、心配してたよ。」雫の返答に灯真は唇をゆがめた。 雫の手を探りあててぎゅっと握ると、しばらく息をつめたように黙っていたが、 「きっと悪いのは僕なんだ。」と震える声でつぶやいた。

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