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第17話

「ねえ、灯真さん。千景さまとなにかあった?」 思い切って尋ねてみた。「もし、言いたくないならいいけど。」 「・・・・言いたくない。」灯真の返答は早かった。 「・・・うん、わかった。じゃあ、訊かないよ。」 「訊かないのか。」 「・・灯真さん?」 灯真自身も迷っている。同じ質問を繰り返してみた。 「千景さまと、なにかあったの?」 「・・・やっぱりいい。言いたくない。」 どうしよう。困ってしまった雫だが、灯真の体が小さく震えているのに気付いて 思わず腕をまわした。灯真は一瞬、素直に雫の胸に顔を埋めたが、 すぐに突き飛ばすように離れると、「イヤだ。その匂い。」と呻いた。 結局、雫は一旦部屋に戻ってシャワーをあび、全部着替えたあとで、 再び灯真の部屋に行くことになった。そしてせっかく着替えたものを すぐに脱がされてベッドに押し倒された。 「灯真さん。」まるで最初のころのように荒々しい灯真の動きを、 なだめるように受け止めながら、背中をさすった。 絶対なにかあったのだ。灯真は苦しんでいる。 ほんとうは叫びたい程誰かに聞いて欲しいことがあるのではないか、そんな気がした。 雫の上で果てたまま、じっと動かないでいる灯真の背中に、腕をまわしてぎゅっと抱いた。 それからゆっくり背中をなで、呼吸が静まるのを待つ。 雫の中にすべて吐き出して、すこし気が紛れたのか、ようやく落ち着いた声で 「今日はもう眠るよ。」と言った灯真に、今一度問い掛ける。 「灯真さん・・・。なにかイヤなことがあったの?」 「だからその話は・・・」 眉間に一瞬よせた皺をほどきながら、灯真も迷っているような素振りを見せた。 「ねえ、苦しい事なら僕にも分けて?そうしたら少し楽にならない?」 灯真の頭を抱えて、つむじにキスしながら言うと、雫の胸の上にため息がこぼれた。 「やっぱり、いや?」囁くように問いかける。 灯真は黙って雫の胸の上で固くなっていたが、 「まだ・・・少し見えていた。」しばらくして、消え入りそうな声で話し始めた。

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