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第18話
「夜、眠っていて・・・ふと目が醒めたら、あの匂いがして。」
灯真の体が、ちいさな小鳥のように震えた。
「あの人が、ハダカで僕のお腹の上に座ってたんだ。」
思いがけない情景が、雫の脳裏に浮かんだ。そんな、そんなバカなこと。
「それって・・・。」雫が思わず灯真の肩を掴んだ。見えない目を覗き込む。
「・・・なにしてるかわからなかった。まだ子供だったし・・・。
でも僕やめて、って言ったんだ、でも。それで、それから・・・。」
「わかった灯真さん。言わなくていい。もうわかったから。」
あわてて震える体を抱きしめた。自分の声がうわずるのがわかった。
灯真の心の傷のかさぶたを、自分が剥がしてしまったような気がした。
血が。血が流れ出してしまう。灯真のこころ。
「あのひとの顔、昼間と違ってた。とてもいやらしくて、怖かった。」
「僕がいい子じゃなかったから。きっとそれで。おしおきなのかと思った。」
消え入りそうな声が、震え、湿り気を帯びる。
「違うよ。灯真さん。そんなんじゃないよ。」
「こわくて、気持ち悪くて、ホントにイヤだったんだ。でも」
「灯真!いわなくていい!もういい。ごめん。イヤな事聞いてごめんなさい。」
何度も背中をさすって、灯真が口をつぐむまでなだめ、謝り続けた。
千景に対する怒りが湧き上がる。
「大丈夫だよ。もう絶対ないから。そんなこと。ね。」
髪を撫でながら何度もそう言った。灯真の体の震えが、雫にも伝わって来る。
雫は奥歯をぎゅっと噛み締めながら、灯真の背中と髪を撫で続けた。
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