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第20話

それ以来、雫はいつも以上にぴったりと灯真に寄り添った。 色素の薄い灯真のかたわらに付き従っていると、ほんとうに影のようだ、と メイドたちが囁き合った。 盲目で病弱な灯真の部屋には、錠がついていなかったが、これも長瀬が 密かに取り付けさせた。鍵を持つのは、長瀬と雫、ふたりだけだった。 長瀬は千景のことも警戒したが、千景を見る、雫の目つきにも危惧を感じていた。 穏やかで、荒ぶったところの全くない子なのに、信じられないくらい暗いまなざしで 彼女を見つめているのに気付いたからだ。 脳の視覚野の件は可能性の話でしかない。が、雫はそうは受け取っていない。 彼に言わなくてもいいことを言ってしまった。長瀬は心の中で歯がみした。 「君は余計なことをしないように。」 釘を刺してはみたが、長瀬は雫の一途さに、不安を感じざるをえなかった。 しばらくは、何事もない穏やかな日々が続いた。 灯真の父はなにかと多忙で、家をあけることが多く、千景も友人などを招いて それなりに楽しんでいるようだった。 少し不安定だった灯真の精神状態も、ぴったりと離れない雫と、さりげなく フォローする長瀬医師に守られて、落ち着きを取り戻していた。 が、小さな隙間に風が入り込むように、平穏な日々に綻びが生じた。 昼食のあと、灯真を部屋に送り届けて雫が出て来ると、廊下に千景が立っていた。 急いでドアを閉めて、その前に立ちふさがった。 「雫くん。お茶でもいかが?」壁にもたれ腕をゆったりと組んで、にっこりと微笑む。 「灯真くんもお誘いしようと思ったんだけど?」そう続ける千景に 「いえ、少し風邪ぎみのようなので。」固い声で答えた。 「あら、じゃあお見舞いを。」 ドアに近づこうとするのを噛み付くような視線で牽制する。 「こわい顔。」千景も睨み返すように雫を見つめた。 「・・・・・・。」 「・・・・・。灯真くんになにか聞いたの?」千景が訊く。 「あなたがしたことですか。」雫がとがった声でこたえる。 ちょうど通りかかったメイドが、二人の険悪な雰囲気にびくりと足をとめ、 会釈しながら足早に去って行った。 「ここじゃなんだから、部屋にいらっしゃい。」 千景の申し出を、咄嗟に断りかけた雫だったが、少し考えて、頷いた。 「僕も、あなたにお訊きしたいことがあります。」

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