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第26話

通報を受けて駆けつけた警察官らによって、千景の部屋および屋敷内外の 検分がおこなわれた。 千景は頸動脈をひと突きで切断されており、失血によってほぼ即死状態だった。 凶器と見られる果物ナイフと、室内の壁、ドア付近についていた指紋が、 犯人のものであろうと推察され、同じものが屋敷内の他の場所でも検出された。 屋敷内の誰の物とも一致しないその指紋は、「いるはずなのにいない」 この家の息子づきの使用人のものである可能性が高かった。 が、本人の指紋と照合できない以上、当該者が未成年であることも含めて、 捜査は慎重を期すべし、というのが、捜査員の考えだった。 家の主、灯真の父は夜半にようやく帰宅し、自分もまだよく事情がのみこめないまま 事情聴取をうけることになった。 刑事は長瀬医師にお話を伺いたい、とダイニングで向かい合った。 「それ・・・どうされたんですか。」 刑事が長瀬の鼻と手の甲を交互に見て訊いた。引っ掻き傷に血が滲んでいる。 「灯真・・・この家の息子が、事件にひどく怯えて暴れまして。」 「ああ、あなたはそのお子さんの主治医でしたね。で、灯真さんは。」 「鎮静剤を打って眠らせました。」 ひどく憔悴した様子で、医師はそう答えた。 「事件のまえに、灯真さんの部屋のまえで、千景さんと雫くんが睨み合っているのを  見た方がいらっしゃるんですが、お二人は以前から仲が悪かったとか?」 「いえ、仲がいいとか悪いとか以前に、それほど接点がなかったと思います。」 「灯真さんとは。」 「・・・・・千景さんとですか。」 声がうわずりそうになるのを必死で押さえて、平静を装った。 「お互い少しずつ、本当の親子になろうとしているように、私には見えましたが。」 「そうですか。灯真さんからもお話をうかがえますか。」 「どうでしょう。かなりショックを受けていましたから。それに彼は・・・  ・・・・・何も見ていませんよ。」 「・・・・ああ、そうでしたね。わかりました。ではまたあらためて。」 刑事を見送って、長瀬は長い長いため息をついた。

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