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第38話

「先生?」 灯真の声に促されて、長瀬もようやく雫のほうにまっすぐ眼差しを向けた。 「屋敷のほかのものに気取られてはいけない。君が雫だということは   わたしたちだけの秘密だ。」 一言づつ、ゆっくりと口にした。 「はい。」 ふたりが声を揃える。 「屋敷内に出入りするのも、今はもちろんだめだ。」 「はい。」 「雫。」 「はい・・・・。」 「すまなかった。・・・許してくれ。」 「先生・・・・。」 雫の声が震えた。激しくかぶりを振って言った。 「僕があのまま捕まって、もし先生がいてくださらなかったら、灯真さんは   今ここにはいなかった。」 ああ、千田のやつ、雫には知らせるなといったのに。 「さて、灯真。」 長瀬は、はぐらかすように灯真のほうを向いた。 「今までみたいに、いつも一緒というわけにはいかないけど、いいね。」 「はい。先生。」殊勝な返答に頬を緩めながら 「さっき君がいったとおり、君はもう少し強くならないといけない。   そのためにはまず、なるべく外に出て体を丈夫にしないと。」 灯真がはっとした顔を見せ、すぐに大きく頷いた。 「はい。」 「わたしは最近忙しいから、君の健康管理はこの庭師さんにお願いしてもいいかな。」 「先生。」「先生。」灯真と雫が同時に声をあげた。 「紫外線と、脱水には気をつけて。あと、かぶれやすい草木や虫さされも・・・。」 言いかけて言葉を詰まらせた長瀬に、雫は深々と頭を下げた。 「ありがとうございます。」

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