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第45話

千田は長瀬のグラスに酒を継ぎ足すと、自分のグラスも一杯にし、 一気にあおった。 「つっ!」口内の傷に滲みたらしく顔をしかめる。 くうん。千田の膝でアカネが鼻をならした。 「・・・・・友達でいたいんだ・・・。」 しばらくの沈黙のあと、長瀬が言った。 「壊したくないんだ・・・・。お前とのこと。」 「・・・・・。」 「ごめん・・・。」 チッ。千田は聞こえよがしな舌打ちをすると「女子高生かよ。」と 吐き捨てるようにいって、横顔でふっと笑った。 「二回目だな、フラれるの。」 「・・・・・・。」 「あーあ。焼け木杭に火つけられて、あげく玉砕だ。なーアカネ。」 アカネの頬毛を両手で掴んで横にひっぱりながら言う。 アカネの顔がおかしな笑い顔のようになった。 「だいたいお前・・・・。」 長瀬にまだ恨み言を言おうとして、千田はおどろいて押し黙った。 長瀬は肩を震わせて俯いていた。 「え・・・・。泣いてんのか?」 「ごめん。・・・・・けっこう、いっぱいいっぱいなんだ。ここのところ。」 「諒。」 「お前と違って、屋敷には人がたくさんいて・・・灯真たちにも、メイドたちにも  先生、先生って呼んでもらって・・・。でも。」 でも孤独だった。そういうことか。 「灯真のことも・・。自信なくすことばっかで。でも投げ出せないし。」 「・・・お前真面目だもんなあ。」 アカネが千田の膝を下りて、長瀬のそばに行った。鼻をならしながら 俯いた顔を覗き込むように見上げる。 アカネの頭に手をおいて、少し微笑んでみせた長瀬は、涙をぬぐいながら 「ごめん。こんなとこ、見せるつもりじゃなかったのに」と声を震わせて言った。 千田は膝立ちで長瀬のそばに行き、腕を伸ばした。 びくりと体を引いた長瀬に乱暴に言う。 「ばか。襲わねえよ。・・・・・友人としてだ。」 長瀬の頭に手を回して、その額を自分の厚い胸板にこつんとつけた。 長瀬の肩が大きく震えた。 「明日っからまた、冷静沈着な長瀬先生に戻るんだろ?」 「貴之・・・・。」 「よしよししてやるから、今のうちに吐き出しとけ。」 髪と背中をやさしくなでてやる。 喉から、抑えきれずに嗚咽が漏れた。 それからしばらく、千田の胸に顔をうずめて、長瀬は子供のように泣いた。

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