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第47話 スピンオフ(雫×灯真)
「雫?いるのか?」
午後。ふいに部屋の外で声がして、雫は驚いてドアに駆け寄った。
庭師としての雫にあたえられた別棟の一部屋。
掃除はゆきとどいてはいるが、古さは隠せない建物だ。軋むドアを開ける。
「灯真さん!」
この屋敷の主の一人息子、灯真がドアの前に立っていた。頬が上気している。
すぐに膝のあたりについた微かな汚れに気付いた。はっとして手をとる。
てのひらにちいさな擦り傷。
「転んだの?」
雫は泣きそうになりながら主の細い肩を抱いて、部屋の中に連れて入った。
「ダメだよ。一人でこんなところまで来ちゃ。あぶないよ。」
ベッドに座らせて、水を入れた桶を持って来る。
「ずっと壁づたいに来たから、案外簡単だったよ。」
水をひたした柔らかい布で、そっと手のひらをぬぐう。
「でも、こんな怪我して・・・・。」
傷に塗り薬をつけて、その部分に触れないようにそっと手を握る。
「おねがい、無茶なことはしないで。」
「だってなかなか逢えないし。」灯真が拗ねたようにつぶやいた。
ベッドに並んで座って、灯真の頭をそっと胸に抱いた。
「ごめんなさい。」
雫の屋敷本館への出入りは禁じられていた。まだ人目についてはいけない。
灯真が庭の散策と称して外に出て来るほんのひと時が、二人の逢瀬だった。
けれど時間は限られている。人目もある。
日差しの強い日に、一度この部屋で休ませたことがあった。
そのときの記憶を頼りに、灯真は見えない目でここまで忍んできたのだ。
その気持ちがうれしく愛おしくて、雫は彼を抱く腕に力をこめた。
ふいに腕の中の灯真が体重を預けてきて、後ろに倒れそうになった。
ぎっ、とベッドが軋んだ。
「もう、ガマンの限界なんだけど。」
灯真の顔がさっと上を向いて、覗き込んでいた雫の顔に近づいた。
そのまま鼻と頬でさぐるように位置をたしかめると、唇を重ねてくる。
激しいキスに押されるように、結局雫はベッドに背中から倒れ込んだ。
あっというまにシャツの前をはだけさせられて、体をまさぐられる。
「んっ、とうまさ・・・。」
ちょっと待って・・・と言いかけたが、舌を絡めとられて言葉が出ない。
餓えた獣に喰われるように、口腔内を貪られる。
ようやく唇が離れたかと思うと、そのまま首筋、鎖骨へと舌が這った。
もどかしげにズボンのベルトを外そうとする灯真の手をようやく捕まえて
「待って。」と動きを封じた。
灯真をなだめて起き上がると、雫はドアの内鍵をしめ、窓も鍵を確認して
カーテンをひいた。室内が一気に暗くなる。
「先生は?」長瀬医師のことだ。
「用事があって出かけた。夕飯はいらないっていってたから、たぶん8時は過ぎると思う。」
灯真の返事に雫は頷いた。
「じゃ、夕食までにお屋敷にお送りします。」
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