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第51話

「痛い?」雫の問いに静かに首をふり、腕を伸ばして来た。 肩から脚をはずして抱き合う。 灯真は自分の脚を雫の腰に巻き付けて全身でしがみついてきた。 「今・・・今ね、しずく。」あえぐように灯真が言った。 「パズルの最後の1枚が嵌ったみたいだった。欠けてた場所が埋まるみたいに。」 そう、いつだって、君が僕のすきまを埋めてくれた。 灯真の涙にキスしながら、雫も涙をこぼした。 「愛してる・・・灯真さん・・・。」 「うん。僕も・・・」 ふたりの触れている部分全てが、熱をもって蕩けていくようだった。 「動いても、大丈夫?」 胸のなかで灯真がこくんとうなずいた。ゆっくりと、波間の木の葉舟のように、 静かに体をたゆたわせる。 ギッ・・・。ギッ・・・・。 控えめな音でベッドがリズミカルに軋む。まるで櫓の音のように。 ああ、僕ら、ほんとに水の上をわたる舟みたいだ。 月の夜。波に揺られたゆたう、小さな小さな舟。 流されてゆく、その行方もわからない、たよりない舟。 このまま時が止まって、ずっと浮かんでいられればいいのに。 「ああ・・・・。」甘い声で灯真が呻いた。 二人の腹に挟まれている、灯真のものも固く熱を帯びていた。 「気持ちいい?」 雫の問いに唇で応える。荒い息づかいの下、 「しずくは?しずくも気持ちいい?」と尋ねて来る。 「うん。すごく。もうやめないとだめかも。」 「どうして?」 「だって、中にでちゃうよ。」 灯真は雫の腰をしっかり押さえた。 「最後までして。僕もいつもそうしてるもの。」 「・・・・いいの?」 灯真は雫の首に両腕をまわすと、さらにしっかりと体を密着させた。 「僕も雫の全部が欲しい。」 「僕も。」雫も抱き返す。 「全部、灯真さんのものだよ。はじめて逢ったときから、ずっと。」 こんなに静かに登り詰めるものか、と思うほど、大きな刺激も動きもなく、 ふたり前後して体の中心に律動を覚えた。 灯真が雫の肩に顔を埋めて、子猫のような声をあげた。 雫は灯真の髪に頬ずりしながら、静かに快感を味わっていた。 やわらかい、ひだのなかにすいこまれてゆく精。ふかいため息がもれる。 そのまましばらく繋がって、しんとした夜の気配に身を委ねる。 ああでも、いつまでもこうしていてはいけない。 くったりと余韻にひたっている灯真からひきはがすように体を起こす。 「夕食までに帰らなきゃ。灯真さん。」 「もうちょっと。」とろんとした声が返る。 眠ってしまいそうになっている灯真にあわててシーツを巻き付けると、 背中を支えて無理矢理起こした。 「バスルームに行こう。さあ、起きて。出さなきゃだめだよ。」 「何を?」 ああ。頭をかかえそうになりながら、なんとか浴室につれていった。 お腹を壊されたら一大事だ。そして屋敷が騒ぎになる前に連れて帰らないと。

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