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第61話
友人と遊んでいて遅くなった、今から帰る、と美風から電話があったとき、
灯真はふっと風の匂いを嗅ぐような仕草を見せて
「外はまだ明るい?」と聞いた。
「今はまだ。でももうすぐ暮れてきます。」雫が応えた。
「駅まで迎えにいってやってくれる?」
「わかりました。」
駅のほうに向っていくと、ちょうど美風が友人達と手を振りあっているところだった。
さっき自分が言ったとおり、急速に空は暗くなりはじめていていたが、
女の子の一人歩きが危険な時間帯ではない。
灯真がなぜあんなに不安そうな表情をしたのか不思議に思いながら美風のほうに足を向けた。
黒マスクの自分が友人たちの目について、あとで彼女がいろいろいわれないように、少し見計
らおう。そう考えて歩調を緩めたとき、美風のそばにすうっとバンが近寄ってきた。
車が止まり、ドアが開く。
美風が驚いて立ち止まる。
雫が全速力で走り、バンのフロントガラスに手をかけたとき、車内で羽交い締めにされている
美風と目があった。
「おい!!開けろ!」窓を激しく叩きながら大声をあげる。
駅前の通行人の何人かがちらと視線を寄越して来た。
「開けろ!!」後部のドアに手をかけて激しく揺らす。
運転席の男がすばやく車外に出て来て、雫に蹴りを入れて来た。
もも裏をしたたかに蹴られて呻きながら、体を捻って男に掴みかかった。
膝が腹に入る。「ぐっ」擦れた呻きが漏れる。
「おい、さっさとしろ。」後部座席の二人のうち一人が怒鳴った。
「だめだ、こいつ離れねえ。」
腕を掴んで話さない雫を、執拗に蹴りあげながら男がわめいた。
「お、面倒だ、乗せろ。俺が運転する。」
腕を掴まれたままの男が、後部座席に雫もろとも転がりこみ、
別の男がそのドアをスライドさせて閉めると、運転席に飛び乗った。
「櫂さん!」
車内でさらに暴行を受けてシート下に転がされた雫をみて美風が金切り声をあげた。
男達は二人を後ろ手に縛り上げると美風に目隠しをした。
「くっそ、なんなんだコイツ。」
男が掴まれていた腕をさすりながら雫の体を蹴った。
どす、という鈍い音に雫の呻き声が混じる。目隠しされている美風にも、
なにが行われているかすぐにわかった。
「やめて!!」美風が叫ぶと、その頭を乱暴に小突いて
「うるせえ!黙ってろ!」と、もう一人が凄んだ。
「知り合いみたいだな。」
運転席の男がルームミラーで美風の様子をちらと見て忌々しそうに呟いた。
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