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第65話

それから、つめたいモルタルの壁に寄りかかって、少しうとうとしたようだった。 ずっと後ろ手のままなので、肩が痛んで眼が覚めた。 はっと気配を感じて顔を上げると、リーダーの男がすぐそばに立っていた。 カチャリ、とベルトを外す音。 「おい、さっきの。もっかいやってくれよ。」 飲んでいたらしい。かなり酔っているようだった。 背中を悪寒が走る。 先刻の雫には、自分に人質としての価値を納得させるためと、 美風のからだに男達の意識を向けさせないため。二つの目的があった。 が、今はもうそのどちらもない。 「今日はもう勘弁してくれ。」そう言って顔を背けると、 脇腹をしたたかに蹴り上げられた。 「ぐっ・・・。」踞る。 「てめえの都合なんざ聞いてねえよ。やれっつったらやるんだよ。」 髪を掴まれて引き起こされ、むき出しになった股間に顔を押し当てられた。 「おら。さっきみたいに銜えろ。」 「・・・!」 必死に抗うが、体に痛みが加えられるだけで、状況は少しもよくならない。 いっそほんとに噛みちぎってやろうか。一瞬そう考えた。 が、固く閉じた唇に、強引に押し当てられているものを、拒む気持ちのほうが勝った。 雫は渾身の力を振り絞って体を捻り、男の体から離れた。 息をつく間もなく、舌打ちとともに引き倒される。 「そんならケツ出せ。こっちも女みてえに仕込んであんだろ。」 「!」ベルトに手をかけられた。 「イヤだ!離せ!」 「うるせえ!」また殴られる。 もうすでに、体もこころも限界だった。 こんなヤツに犯されるのか。 なんとか自分を支えていた糸がふっつりと切れた。 いったい、どれだけ痛めつけられ汚されたらすむのか。 これが罰なのか。 もうイヤだ。ここから今すぐ消えたい一心だった。 背後から酒臭い体にのしかかられた瞬間、ほとんど無意識に。 自分の舌に思い切り歯を立てていた。 ぶつり。 いやな音がした。口腔に生暖かい液体が一気に溢れる。 「かふっっ。」その液体にむせた。目の前の床が赤く染まる。 「貴様!なにして・・・おい!」 遠くで誰かが叫んでいた。 美風がいれば。彼女がいれば灯真は大丈夫だと思った。 彼女がきっと、灯真の眼になってくれる。 灯真さん。ごめん。 また約束をまもれなくて。ごめんなさい。 ずっとあなたの影でいたかったのに。 ああ。 たましいだけでも。 あなたのもとへかえれるだろうか・・・。

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