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第15話
息が止まりそうなほど、激しいキス。
脱ぎきれなかった靴が廊下に転がるが、構っていられなかった。
「中村さん、中村さんっ」
「亜弓」
切羽詰まったように、口づけの合間に名を呼び合い、肌を求めて服を脱がせ合う。
ベッドに二人裸で転がり込んで、手管も忘れてただ闇雲に肌を探り合った。
「あ…あぁ、…ん、あ」
細い亜弓の体中、余すところのないほどに口づけを落とす。張り詰めた前を触りながら硬くなっていく乳首を噛むと、甘い声で亜弓は哭いた。
脚を大きく開かせ、目を射るばかりの白い腿に跡を残すほどに口づける。羞恥を感じる余裕もなく、亜弓はされるがままに体を開いた。
中村の舌が、後孔に触れる。ピクリと反応して、亜弓はくちびるを噛んで力を抜いた。
舌と指とで後ろを解されながら高められて、亜弓は身を捩る。頭の中も体も、どうかしてしまったんじゃないかというほど熱い。
「んん…な、かむら、さ…」
絶え絶えに呼ぶ声が中村を求める。中村もたまらなくなって、体を起こした。
「亜弓、挿れたい」
熱っぽい瞳に見つめられ直截的な言葉に煽られて、亜弓は頷いた。
ゴムをつける余裕などはなく、中村は亜弓の両足を肩に掛けた。亜弓の膝が胸につくほどに体を曲げさせ、浮いた腰に上から侵入するような角度をつけると、結合部が亜弓の目にもよく見える。
「あっ…あ――!」
太く熱い楔に狭い後孔を押し開かれる感覚に、思わず亜弓は目を瞑って足の指を折った。
苦しさと、痛みと、幸福と、快感と。全てが綯い交ぜになって、亜弓を襲う。
「う…んっ…」
狭くて熱い内壁に引き絞られて、中村も小さくうめきをもらす。酷なほどの快感だった。
慣らすように小さな抽挿を繰り返していると、やがて亜弓が中村を根元まで受け入れる。そこから大きくグラインドを開始すると、押し止められない喘ぎに口を大きく開けて、亜弓が腰を揺らし始めた。
「亜弓、痛くない?」
「あっ、あっ…、っ…!」
かぶりを振りながら、自分のものに触れようとする亜弓の手を、中村は掴んで遮った。
「ダメ。後ろでイって」
「やぁっ…意地悪っ…!」
「ほら、もっと感じて」
内側の一点を攻め立てられると、頭の中が真っ白になって目の前にはスパークが散って、今にも達しそうになる。それを必死で耐えて、中村の手を乞うた。
「一緒に……」
懇願する瞳に微笑みかけて、中村は亜弓と手を握り合わせた。
「じゃ、一緒に。行くよ?」
「んっ…あ、あ、――ああぁっ!!」
「くっ……」
遂情の一瞬、衝撃のあまりに二人の体は硬直し。
亜弓は小さな痙攣を始め、その体内に熱い奔流が注がれたのを感じた。
しばらく呼吸も整わないまま無言で抱き合って、やがて亜弓がぐったりと弛緩してゆく。
自分である程度コントロールして達するのと違って、後ろだけでいかされると、しばらくは指一本動かせなくなる。
きつく閉じられていた瞼からゆるく覗いた瞳は完全に焦点を失っていて、ベッドに沈んだ亜弓の体を拭いながら、中村は頭を掻いた。
「ごめん…中で出しちゃった」
「いえ、いいです。…嬉しかったから」
「嬉しい?」
「ええ」
「…そう」
中村が、亜弓の頬を指の背で撫でながら笑いかける。と、その頬に唐突に涙が伝った。
「――亜弓?」
「あ…ごめんなさい、あれ、なんでかな」
恥じたように笑って、亜弓が目元を隠す。そのまま顔を伏せるように、中村の体に抱きついた。
「なんか、あー中村さんがいるんだなって、思ったら気が緩んじゃって」
その言葉に、今までの亜弓の我慢が集約されているように感じた。
切なさが胸に迫って、縋るように肩を震わせている亜弓の体を抱き返す。最後に抱いた時よりも、抱き心地の違いがはっきりとわかってしまうほどに痩せていた。
「ごめん。二ヶ月も放ったらかしにして」
この二ヶ月間、中村は亜弓と今後を共に過ごせるように計らうために、親と対立したり、弁護士に相談したり、春華本人と話し合ったりと、大変な日々を送ってはいた。けれどそこには亜弓との未来に対する希望があり、それを叶えることを思えば忙しさも苦ではなかった。
けれど亜弓は違う。中村は社長令嬢と結婚するものだと思い、中村との関係が戻るなどとは夢にも思わず、不安を通り過ぎた絶望の中で、先に希望も持てないまま過ごしていたのだ。
その亜弓が負っていたストレスとは、如何ほどのものだったのだろうか。
察することはできず、ただ中村は亜弓を抱き締める。
「もっと早くに、きみを迎える計画を伝えても良かったんだけど。万が一周りを説得しきれずにぬか喜びさせることになったら、それこそもう謝っても謝りきれないから。死んでも説得するつもりだったけど、やっぱり僕側の事情が全部終わってから迎えに行くのが筋だと思ったんだ。でもそうしたらすごく遅くなっちゃった」
「いいんです、もう何でも…中村さんといられるならそれで……」
小さくそう呟いたきり亜弓は黙り込み、話すのも億劫というように中村にもたれかかった。
朝から緊張と驚きとで神経が疲弊していたのだろう。そこへ持ってきて、久しぶりなのに加減も忘れた激しいセックスをした。動けない亜弓を枕へ横たえて、先程自分が生で放ったものを収めたままの後ろに手を伸ばした。
「な…に?」
「出しとかないと。おなか壊すよ」
「や…あんまり触らないで、またしたくなるから…」
「したくなったらすればいいじゃない」
笑って、亜弓の腰の下にタオルを敷いて指を入れる。掻き出される感覚に眉を顰めながら、亜弓は自分の下腹をさすった。
「…入れたままにしといたら、赤ちゃんできないかなぁ…」
そんなことを大真面目に言うものだから、噴き出した拍子に目測が狂って、中村の指が亜弓の前立腺を強くこする。
それがスイッチになってしまい、二人は翌日も朝から仕事があるというのに、第二ラウンドへなだれ込んでいった。
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