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第一話 始まりは、君と見た秋空 (後編)
魔女
「……こっちのセリフよ!」
狼男
「……知り合いだったの?」
想定外の展開に、ジョシュアとクリスが不思議そうに顔を見合わせて互いに肩をすくめた。……それから十分後、テーブル席ではクリスの声が響いていた。
ミイラ男
「………昔に付き合ってた?!昔っていつ頃?」
死神
「300年ぐらい前か?」
魔女
「320年前Death !!」
リリが目をかっ開き突っ掛かるようにそう言った。
死神
「何それ……死神と掛けてんの?全く面白くないからね。」
狼男
「……なんだよ、俺ちょっと狙ってたのに……。」
ドラキュラ
「てかさっきクリスの隣に座ってたのに気付かなかったのお前?」
死神
「見た目がコロコロ変わんだよこいつは。前は金髪ストレートだったし……あっちの方が俺は好みだったな。」
魔女
「付き合ってる男の好みに合わせてるのよ。」
狼男
「ぇえ!じゃあ今好きな人居るの?」
魔女
「まぁね。」
狼男
「はぁ……やっぱり脈無しかぁ……。」
狙っていた女子がフリーではないと知って、しょぼんと耳を下げるウェア。そんな彼の前髪をチネりながらリーパーが色気のある声でこう言った。
死神
「……俺が慰めてやろうか?」
狼男
「っだぁ、触んな!悪運が移る!!(怒)」
死神
「キャンキャン鳴くな、この負け犬が。」
そんな二人のやりとりにケラケラと笑いながら運ばれてきたドリンクを各々の位置に置くクリスの向かい側で、額を擦りながら呆れた顔をしているリリのリアクションもまた面白い。最後に赤ワインの入ったワイングラスをリリのコースターの上にのせると、クリスはこう尋ねた。
ミイラ男
「で、好きな人ってどんな人なの?」
魔女
「そりゃあもちろん、イケメンよ!」
死神
「しょーもな。」
狼男
「……あれ、何?リーパーさん妬いてるんすか?」
そんな冷やかしを言ったウェアの耳をリーパーが引っ張り、「あぃたたた!…てめぇこの野郎!」とウェアがリーパーの手に噛みついた。「放せこの馬鹿犬!」仲良く口喧嘩している二人の膝がテーブルにぶつかり、ガタンっと大きく揺れた際にジョシュアが殻を剥き終えて綺麗に一列に並べていたナッツが見事にあちらこちらに散らばり、その中の幾つかは床に落ちてしまった。これには流石にジョシュアの堪忍袋の緒が切れかけ、「お前ら二人共、ハウス!!」と怒鳴りその場を沈めたのもクリスにとっては可笑しくて仕方が無かった。
ミイラ男
「リリって生粋 の面食いじゃん?ってことは……リーパーって凄くイケメンなの?いっつもお面被ってるから気になる!」
前から何度か街で見かけたことはあったが、何と言ってもその全身黒ずくめの恰好と不気味なお面のお陰で話し掛けるどころか近寄ることさえも避けてきたのだ。
ドラキュラ
「あぁ、まぁカッコいい方じゃない?」
その会話を聞いていたウェアがリーパーのお面を外そうと手を伸ばす……。
死神
「触んな、寿命縮めるぞ。」
狼男
「うわ、陰険!!」
ミイラ男
「え、そんな事できるの……?」
死神
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだよ。」
サラっとそう言いビールを飲む、どこまでも謎に包まれた男。その髪は何色なのだろうか?目の色は?死神というほどだから骸骨のような見た目なのだろうか………考えれば考えるほどその素顔が気になる。だがそれと同時に、自分の命も簡単に取られてしまうのではないかと不安になる。
ドラキュラ
「ちょっと、俺のクリス君をそんなに怖がらせないでくれる?」
ジョシュアが何気なく言ったその言葉に、言った本人以外の全員が手を止めた。
狼男
「お前のクリス君……??」
「うそだろ…」とリーパーはジョッキを置き、呆れて片手で顔を覆った。あれ程忠告してやったと言うのに奴は一体何を聞いていたのか、背中を押してやった記憶などない。
魔女
「ちょっとあんた……責任取ってくれとは言ったけど、そこまでしろとは言ってないわよ!この子に何したの?」
ドラキュラ
「え?何って……。」
リリから責め立てられる中、ジョシュアがじっとクリスを見つめる……。
ミイラ男
「な、別に何もしてねぇよ!俺らはただ話し……」
ドラキュラ
「キスした。」
ミイラ男
「おまっ……!!」
明らかにショックを受けている三人を眺めながら「ん~旨い。」とワインを嗜んでいるジョシュアはまるでこのシチュエーションさえもを楽しんでいるように見える。呑気にワインなどを楽しんでいる彼の着ているシャツの襟をガシっと掴み、クリスが言った。
ミイラ男
「お前ってバカなの?何で言うかな、こんな……みんなの前で!!(怒)」
ジョシュアはそんな事には動じずに襟を掴まれたままの状態でも尚ワインを飲み続け、「てめぇ聞いてんのかよ!」と騒ぐクリスの唇をじーっと見つめるとチュっと軽く口付けをした。
ミイラ男
「……!」
死神、魔女、狼男
「………!!!」
三人の前で堂々とクリスに口付けをしたジョシュアは何事も無かったようにナッツの殻を剥き始めた。衝撃の瞬間を目の当たりにしてしまった親友二人は酒も飲めずに唖然としている。
死神
「酒がまずくなるだろ、やめろ!(怒)」
狼男
「うーわ、ガチかよ……。」
魔女
「でも何だかお似合いじゃない?」
これで完全に機嫌を損ねたクリスはジョシュアと目を合わせようともせず、ツンツンと背中をつつくジョシュアの手を鬱陶しそうに払い続けている。
ドラキュラ
「……何でそんなに気にすんの?俺周りなんか全く気にならないんだけど。」
そんなジョシュアの発言に、全員が「だろうね!!」と口を揃えて言った。
ミイラ男
「もうジョシュなんか嫌い!!」
ドラキュラ
「……うわ、傷付くー。」
死神
「はぁ……ダメだ。今日の酒はちっとも旨くない……何か、悪酔いしそう。」
魔女
「私そろそろ行くわね。」
気まずくなりかけた空気を変えるかのようにリリが席を立ち、それに気が付いたクリスは自分とジョシュアとの事で気分が悪くなってしまったのではないかと気がかりになり、彼女にそれを直接尋ねた。
ミイラ男
「リリ……もしかして、引いた?」
魔女
「ん?何が?あんたとジョシュの事?」
ミイラ男
「……うん。」
気まずそうにリリと話すクリスを見つめながらワインを飲むジョシュア。惚れた相手が同性だったという事が、それ程までに大事 なのだろうか?揺らしたグラスの中のワインが赤であろうと白であろうと、それの嗜好者からすれば重要なのは “味” なのだ。ジョシュアが好きになったのはクリス。それは彼が男だったからでもなく、ミイラだったからでもない………彼が彼であったからだ。
魔女
「魔女の私が今更そんな事を気にすると思う?ただデートの約束があるだけよ。」
死神
「……ヤリマンが。」
魔女
「焼き殺すわよ?」
狼男
「ま……まぁまぁ!落ち着こうか!」
そんな二人の言い合いに、ジョシュアはクスクスと笑いながら相変わらずパキパキとつまみのナッツの殻を剥いている。何も言えずにただじーっと向かいの席の三人を見つめてビールを飲むクリスの口に、剥いたナッツを当てた。
ミイラ男
「あ……さんきゅ。」
ドラキュラ
「くだらねぇけど面白いだろ俺のマブダチ。こいつらが一番仲良いんだ。」
ミイラ男
「うん、さっぱりしてて良いよね。リリとリーパーが昔付き合ってたのは驚きだけど。」
ドラキュラ
「俺もそれは知らなかった。」
殻を剥いたナッツを今度は自分の口に放った。ポリポリと食べるジョシュアに、クリスがジョッキの水滴を指でくねくねとなぞりながらこう聞いた。
ミイラ男
「リーパーってやっぱり死神だから人の命取ったりするの?」
ドラキュラ
「お前怖いんだろ、あいつの事が(笑)」
ミイラ男
「いや、別にそういう訳じゃ……」
魔女が不機嫌にバーを出て行くと、「んだ、あの女は!」とリーパーがイラつきながらビールをゴクゴクと一気に飲み干して乱暴にジョッキをテーブルに置いた。
死神
「それは俺の仕事じゃねぇよ。」
ミイラ男
「……あ、聞こえてた?ごめん……」
死神
「謝んな、お前俺に気ぃ使い過ぎだよ……そんなにビビんなくったって俺はお前に何もしねぇよ。」
ドラキュラ
「いや、させねぇから!(怒)」
ミイラ男
「でもさっき、寿命縮められるって……。」
狼男
「出来るけどやらないだけだよ。」
ミイラ男
「………?」
死神
「お前ジョシュアから俺らの事何も聞いてないの?……いいか?死神っつっても色々部族みたいなのに分かれてて各々に組織があるんだよ。その組織がやってる仕事内容も組織ごとに全く違って、命を取りに行く組織もあれば、自殺しようとしてる奴と上手く話し合って止めてやったりする組織もあるしな。後は現場仕事じゃなくて事務業が中心の組織だったり、上級者達だけが出入りを許されてる本部だとお偉いさん達が各組織に命令を出したりしてんだよ。」
ミイラ男
「そうだったんだ……何か深いんだね、死神界って!」
死神
「まぁ言っても死神は死神だからな、俺みたいなのはごく稀だから、基本的に死神には近付くな。良い事ねぇから。」
ミイラ男
「覚えておく……。で、リーパーの仕事ってどんな仕事なの?」
死神
「そいつは秘密だな。」
何か言えない事情でもあるらしく、その事については濁されてしまった。「こんな人混みじゃちょっとね…」周囲を見回してそう言ったウェアもそれを聞いて頷いているジョシュアも、リーパーの仕事内容を知っているらしい。気になるのは確かだが、出会ったばかりの者にしつこく聞くのは失礼にあたる、クリスは好奇心を抑えて諦めたのだった。
一通り飲み明かした四人は、バーを出て街の裏山の頂上付近に自然に湧いている天然温泉へと向かうことにした。その場所はあまり知名度は無く、街の住人や森に住む動物達、そして怪物達の隠れスポットとして愛されている。郊外にそよ吹く風は街中を漂っている風とは違い、透き通っていて気持ちが良いものだ。酔いを覚ますように冷たく心地よい風が鼻から全身に行き渡る。
死神
「久々だな、温泉なんて。」
ドラキュラ
「最近肩こってたから丁度良かったわ。」
「この辺がね。」と左肩をトントンと叩くジョシュアの隣で、ウェアはある事を疑問に思ったのだ。
狼男
「ってかクリスってどうやって入るの?」
ドラキュラ、死神
「…………。」
ジョシュアとリーパーが「確かに。」と言いたげにクリスを見つめる。そんな視線に気が付くとクリスは三人を見てこう答えた。
ミイラ男
「え?普通に、包帯取って入る。」
ドラキュラ
「………!!」
それを聞いたジョシュアは口を抑えて足を止めた。……包帯を取る??すなわちその素顔を拝見することができる?いや待てよ、そんな貴重な瞬間をこんなアホ共と共有するなど勿体無くはないか?いっその事このまま引き返して立派なホテルのワンルームでも借りようか……踊り出す下心が生み出す妄想にふけっているジョシュアに構わず、三人はそのまま歩き続ける。
狼男
「……何やってんのお前、置いてくよ?」
死神
「てかやっぱりあれか?あいつから迫ったのか?」
ミイラ男
「……うん、まぁ。」
狼男
「やっぱりそうだよね……ごめんね?何か俺らのダチがちょっかい出しちゃってさ……。」
ミイラ男
「いや、てか俺も別に嫌じゃなかったっていうか……。」
死神
「きっとそのうちお互いに気のせいだったって目が覚めるからな、大丈夫だよ。」
ミイラ男
「じゃあジョシュってやっぱり、ゲイじゃなかったんだ。」
狼男
「俺の知る限りではストレートだね。長続きした事ないけどね。」
ミイラ男
「………?」
リーパーが後ろを振り返ってジョシュアを確認する。クリスとウェアはそのまま歩きながら会話を続けた。
狼男
「ほら、あいつって眠っちゃうじゃん?必ず目を覚ますから待っててねって眠る前にいつも約束するんだけど、相手はやっぱり寂しくて諦めちゃうんだよ。一年って短いようで長いからね……女の子が一人で待つとなれば尚更。可哀そうな奴なんだ、あいつは。」
ミイラ男
「そうだったんだ……。」
狼男
「それはそうと、リーパーの仕事のこと……この辺りならもう誰も居ないから教えてくれるんじゃない?気になるなら聞いてみな?」
聞いてはいけない事なのだろうと先程泣く泣く諦めた話題、それはリーパーの職業について。どうやらあの時三人はクリスに聞かれたくなかった訳ではなく、人混みでその事を口にすること自体を躊躇したらしい。ウェアからのその提案にクリスは後ろを振り返り、ジョシュアと並んで歩くリーパーに彼の仕事のことについて今一度同じ質問をしてみたのだった。
死神
「あ?まだ言ってたの?……俺はモズだよ。」
ミイラ男
「……モズ?」
ドラキュラ
「MOS(モズ)……Mediator Of Soul(メディエーター・オブ・ソウル)、魂の仲裁人。」
死神
「さっき死神の組織には本部があるって言っただろ?その上に魂界協 っていう組織があって、そのまた上に審判協会があって、そんで一番上にケルスっていう死神のトップの12人で編成された組織があるんだよ。本部から上の各組織には特殊部隊みたいなのがあって、その部隊の名前が本部のから順に Assistance(アシスタンス) of Life and Death、通称 ALITH(アリス)。」
狼男
「魂協会の部隊が Justice of Die(ジャスティス・オブ・ダイ)の JUDIE(ジュディ)。」
ドラキュラ
「審判協会のが Guidance of Death(ガイダンス・オブ・デス)の GODA(ゴーダ)。」
ミイラ男
「………え?じゃあリーパーがいるモズってのは?」
死神
「ケルス直属の部隊、モズ。」
ミイラ男
「………!!」
あんなにラフな感じでジョシュア達と戯 れているリーパーが、死神のトップであるケルスの護衛をしていると知ったのだから驚きは隠せまい。それほど巨大な組織の頂点で働いている者とこんなに近くで交流できる機会もそう無いだろう、ウェアも会ってからずっとクリスのことを気に掛けてくれて、その優しい外見に劣らぬ程に心優しい青年である。「類は友を呼ぶ」ジョシュアの周りにこうやって自然と集まった者達が善人なのは、きっとジョシュア自身も又そうであるからなのかもしれない。
ドラキュラ
「ほんっとに肩書きだけは一丁前だよなー。」
狼男
「言わなきゃただの飲んだくれの死神なのにね。」
死神
「うっせぇ。」
そう言ってケラケラと笑いながら歩く三人の後ろを付いて行くクリスが「すごい……」と呟きながらリーパーの背中を見つめる。いつでも死神という存在に憧れはあったが、何しろその不気味な見た目に「直視してはいけない者たち」と自然と自身に暗示をかけていたから、今こうして友人となった彼を間近で見れることが素直に嬉しいのだ。
ミイラ男
「リーパー超カッコいいじゃん!でも死神の特殊部隊って何するの?暗殺とか……?」
死神
「死神なんて皆、暗殺者みたいなもんだろ。特殊部隊ってのはただの例えで、まぁ要はただの雑用係みたいなもんだよ。」
ドラキュラ
「何?お前めっちゃクリスから気に入られてんじゃん、俺ヴァンパイア辞めて死神になろうかな。」
死神
「アホか。」
狼男
「転職。(笑)」
温泉に着いた四人は各自着ている服を脱いで木の枝に掛ける。ウェアがシャツを脱ぎながらクリスの耳元で言った。
狼男
「リーパーがお面外すの待ちきれないでしょ?」
そう言ってクリスにウィンクをすると、一番乗りで温泉に浸かり「はぁ~」と気持ち良さそうにお湯を肩に掛けた。服を脱ぎ終えたジョシュアがクリスの元に来て包帯を解くのを手伝おうとクリスの背中に手をあてた。
ドラキュラ
「今度さ……二人っきりで来ような。」
ミイラ男
「……お前何か変な事考えてない?」
クリスからそう指摘されると、ジョシュアはクルっと後ろを向いて口笛を吹きながら温泉の方に歩いて行った。崖の向こう側にどこまでも広がる絶景を眺めるウェアとジョシュアの肌に透き通った優しい温泉のお湯がすーっと沁み込み、ほっと体を温める。服を脱ぎ終えたクリスは丁度衣服を掛けてる樹木が何かの果樹であることに気が付き、背伸びして小さな柑橘系の果実を三つもぎ取った。そしてジョシュア達が先に温まっている温泉の中にその果実を浮かばせ、二人に湯加減を尋ねたのだ。
ミイラ男
「……気持ちいい?」
狼男
「んん~、もう最高だよ!」
ドラキュラ
「ハイキングしてまで来た甲斐があっ……」
ドラキュラ、狼男
「………!!」
温泉の淵に座り、クリスはそーっと湯に足を浸けて温度を確かめる。「あっち…」と一度足を引っ込ませ、勇気を出してもう一度浸けてみる。こちらに集められたその視線にクリスが気付くことはなく、お湯に足を浸けては引っ込めてを繰り返している。
狼男
「え……誰?」
ドラキュラ
「…………。」
ミイラ男
「二人ともよくあっつくないね!」
包帯を外したクリスの素顔はジョシュアの想像をはるかに超えた美青年であった。俯いたその瞼から伸びる長いまつ毛、そしてブロンドの髪の毛はサラサラと風になびく……そんな容姿にジョシュアの目が釘付けになった。すると隣でサブーンっと大きな水しぶきを立ててリーパーが足から湯に飛び込み、隣でその水しぶきを豪快に被ったウェアがイラつきながら顔を拭った。
狼男
「飛び込み禁止!!(怒)」
グルル…と小さく威嚇するウェアの隣に座ったリーパー、湯けむりがモクモクと彼の顔を覆い、ついにお面を外したリーパーの顔を拝めるのだとクリスの興奮が高まった。
ミイラ男
「……え?どういうこと?」
その声に反応したジョシュアとウェアはリーパーの顔を見てハハっと笑ったのだ。困惑したクリスが手で口を押えながら唖然としている。
ミイラ男
「何その顔……?」
やっと拝めたと思ったリーパーの顔面は真っ黒いモヤのようにモザイクが掛かっていて髪色すら確認できないではないか。
死神
「残念でしたぁー。」
ケラケラと笑うジョシュアとウェアに一体どういう事なのかと問いただすと、ウェアが笑いながら説明してくれた。
狼男
「リーパーはああやって自在に姿を隠せるんだよ。本来死神として、ターゲットに気付かれない様に背後に近付かなきゃならないからね。」
死神
「瞬間移動も出来るけどな。居なくなることも出来るぞ、ホラっ。」
ミイラ男
「……へっ?消えたよ?」
ドラキュラ
「ちょっとちょっと、勝手にクリス君で遊ばないでくれる?俺の許可無しに(怒)」
狼男
「ってかクリス……お前って髪の毛生えてたんだ!」
ミイラ男
「うん。」
死神
「女みてぇな顔だな。」
ミイラ男
「うるさいな、だからいつも隠してんだよ。」
ドラキュラ
「クリス、こっち来て。」
そう言って腕を広げ、こちらをそのグレー色の瞳で優しく見つめるジョシュア。恥ずかしそうに座ったままの体勢で水中の中を移動し、リーパー達が目の前居る事にはお構いなしに、ジョシュアがクリスの垂れ下がった前髪を優しくかき上げようとしたその時、クリスがパシっ!と勢いよくその手を振り払った。
ミイラ男
「やめろ!こっちの目は……駄目。」
ドラキュラ
「何で?」
ミイラ男
「俺、こっちの目……無いんだ。」
片目が無い?その言葉を聞いた三人が驚いた顔でクリスを見た。確かに彼は不思議といつも右目までしっかりと包帯で覆っており、そのせいでただ一点だけあらわになっている左目の瞳が強調され、より一層美しく見えていた。
ふと思ったのだ、今彼はどんな気持ちなのだろうと。誰にでも言える秘密ではないだろうに、それにきっと勇気を振り絞ってやっとの思いでそれを伝えたところで、誰にでも受け入れてもらえる保障など無いのだ。これまで何度も拒絶されて心が砕けるような思いもしただろう。もしそれを受け入れてもらえたとしたら、その瞬間彼は一体どれ程安心できるのだろうか。
これまでの永遠のような永い時の中で、眠りから覚めてはこの己を待ち構えていた「別れ」。寂しさならば痛いほど知っているよ、ジョシュアの心がそう呟いた。ジョシュアの手を抑えるクリスの両手が僅かながらに震えているのはきっと、ジョシュアからの反応を見る のが怖いからなのかもしれない。夜空の星屑を映した水面を映したクリスの輝く左目は、次の瞬間にやってくるであろう心の痛みから逃げるかのように、視線をジョシュアから反らした。
ミイラ男
「グロいから引くよ、見ない方がいいよ。」
ドラキュラ
「クリス。」
ミイラ男
「………?」
ドラキュラ
「見せて。」
ミイラ男
「………!」
何の迷いも無くジョシュアの手がクリスの前髪をかき分けた。その目玉の無い右目は窪んでいて少し皮膚が垂れ下がり、半開きした瞼からは目の裏側の皮膚が見えた。ジョシュアは優しく微笑み、クリスの後ろ髪を抑えゆっくりとその顔を自分の方に引き寄せる……。そして彼はそっとその右目にキスをした。
ドラキュラ
「クリス、お前は綺麗だよ。グロくなんかない。」
ミイラ男
「………!」
誰にだって言いたくない事の一つや二つはある。それを口にするのが怖いのは、受け入れてもらえなかった時に酷く傷つくから。それでもそんな秘密を打ち明けるのは、その恐れ以上にその人を深く信頼しているからだ。
涙が滲むクリスの瞳を見つめてジョシュアが言った「少しずつでいい、お互いを知っていこう。」その言葉に、クリスが照れた様子でコクっと頷いた。キラキラと輝く満天の星空の下でキスをする二人を、ウェアとリーパーは何も言わずに微笑んで見守った。
Dusk to Dawn 第一章 始まりの章
第一話 This is where we bagan 始まりは、君と見た秋空
-END-
クリスの友達である魔女のリリ。バーで偶然巡り合ったのは元カレの死神だった。久しぶりに彼の姿を見たリリは、ずっと長い間心の中に秘めていた、あの悲劇の瞬間を思い出す………。彼女を心配して様子を見に来たリーパーが、洞穴の中で目にしたものとは……?そして物語は、二人の過去に迫る。
次回、Dusk to Dawn 始まりの章 第二話
【 It's gonna be raining 】お楽しみに!
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