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第二話 きっと雨になるだろう (中編)

アレン・ベイクは、姉のリリ・ベイクと共に魔女として生活をしていた。歳の離れた二人の姉妹は、幼い頃に親を失い、姉のリリがずっとアレンの面倒を見て育った。 リリが一人前の魔女として仕事の依頼を受ける様になる頃には、アレンももうすっかり大人に成長していた。そんなアレンが一人の死神と恋に落ちる………。 昼間は魔法学校に通い、夜は “大人の” 飲み屋で働いていた彼女は、そこに来た客の死神のグループにヘルプでついた。「死神相手に、何を話そう……」とそわそわしていると、グループの中の一人、ウィリアムが緊張したアレンに気付き声を掛けた。 ウィリアム 「……君、大丈夫?体調でも悪いの?」 アレン 「………え?あ、いや……だ、大丈夫です!」 ウィリアム 「あはは(笑)がっちがちじゃん!何?働き始めたばっかり?」 アレン 「あ、いや……半年くらい、経ったかな?」 ウィリアム 「俺今日が初めてなんだ、何か何すればいいのか分からなかったから、良かった、君に会えて!」  そう言ってニッコリ微笑んだウィリアムが、アレンのハートをがっしりと掴んだ。次の出勤の日の当日、学校帰りに店のマネージャーから電話で今夜は人手が足りないから誰か連れて来てくれ。そう言われ、仕方なく姉のリリに頼み込んだところOKが出たので、家で支度を済ませ姉妹揃ってアレンの働くガールズバーに出勤した。 リリ 「で、何すればいいの?取り敢えず脱げばいいの?」 アレン 「ち、違うよ!ウチはそういう店じゃないから!(怒)」 リリ 「え?違うの?じゃあ女の子こんなに集めて男相手に何すんのよ。」 アレン 「お酒を作って楽しくお話するんです!!」 リリ 「………それだけ??」 アレン 「まぁ強いて言うなら、笑顔を絶やさず!」 リリ 「変わった職業ね~。」  そう言いながらニーハイの網タイツを太ももまでたくし上げる。黒いハイヒールを履いて、アレンの後ろに付いて歩くリリの姿が店の客の視線を一斉に集めた。 指定されたテーブルに着き、死神達にリリの事を軽く紹介するとアレンはウィリアムの隣についた。「こっちにおいで」「いや、こっちに」死神達がリリの同席を求めて口喧嘩し始める……。どこに座れば良いのか分からず、取り敢えず開いていた隅っこの席に座り、妹が楽しく彼女の隣に座る客と話しているのをただ眺めた。するとトイレから戻ってきた死神の一人が、自分の知らぬ間に席についているリリを見つめて言った。 死神 「ちょっとそこ、俺の席なんだけど。」 リリ 「あ、ごめんなさい………」  コクっと小さく頭を下げ席を立とうとした時、その死神がリリの隣に座る他の死神の肩を掴み横にずらす。「よっこらせ。」とリリの隣に座り、飲みかけだったビールを飲んだ。席に着いているどの女の子も皆客の話に大袈裟にリアクションをし、必要以上にキャハキャハと騒いでいる。……未だに何をすればいいか分からないリリは、隣でビールを飲む死神をただじーっと見つめた。 死神 「何だよ(怒)」 リリ 「……別に。」 死神 「愛想のねぇ女だな、見てくれが良けりゃ何もしなくて良いとか思ってんの?」 リリ 「………今、何つった??」 死神 「くっだらねぇ……だから普通に飲み屋にしようって言ったんだよ俺は。こんな酒も大して旨くねぇ店の何が良いんだか……せめて隣に座った女が盛り上げてくれるのかと思ったら何こいつ?言葉知らないの?酒も作らねぇ、煙草の火も付けねぇ、笑わなねぇ……もうお前ここに何しに来たの?」 リリ 「………………(怒)(怒)」  ミニスカートの裾を握りしめる拳が怒りでプルプルと震える………。深く深呼吸をしてアレンの方を見ると、口パクで「ガマンー!!」と言っているのが分かる………。誰にも聞こえない程小さな声で「こいつは人間じゃない、こいつは人間じゃない……」と繰り返し呟いて自分に言い聞かせた。 リリ 「こいつは人間じゃ……」 死神 「お前だって人間とは言えねぇだろ。お前、魔女だろ?」 リリ 「何で知って……まぁ少なくともあんたよりは人間に近いわよ。」 死神 「名前は?」 リリ 「…………リリ。」 死神 「ちげぇーよ、源氏名じゃなくて本名聞いてんの。」 リリ 「ゲンジ………?」 死神 「お前そんな派手な見た目しといて、実はこういう店初めてとか言わないよな?」 リリ 「だったら何よ。」  その会話を聞いていた他の死神達が、リリをいやらしい目で見つめ始める。ただでさえ不気味な見た目の死神達がこれだけ大勢でしかもいやらしく見つめてくるというこの上ない不快感を感じ、リリは身の危険を感じて身体を壁の方に寄せた……。そんな彼女の表情の変化に気が付いたあのウザい死神が、自身の体を出来るだけ大きく広げ、リリの座る場所が他の死神達から死角になる様に体勢を変えた。 死神 「………大丈夫か?」 リリ 「………ありがと。」 死神 「リリって、本名なの?」 リリ 「ええ、母のミドルネームだったの。」 死神 「そっか………いい名前じゃん。」  不思議な感覚を覚えた。あれだけ腹が立つ事を言われたのに、今リリの心はこの死神相手にドクン、ドクン……と大きく音を立てている。 リリ 「あんた、名前は?」 死神 「ダニエル。ダニエル・ルイス・フォートマン。」 リリ 「ダニエルって顔じゃないわね。」 ダニエル 「うるせぇ。」 リリ 「煙草吸うの?」 ダニエル 「吸わない、やめた。」  死神達が何かの話題で盛り上がっている時、一人の若い死神が妹の手を取り店の外に消えた。リリが急いで立ち上がり、二人の後を追って店を出るがもうそこには二人の姿は無く、どうしようかと焦っていると、気になって後を追って来たダニエルがリリに何があったのかと訊ねた。 ダニエル 「妹?マジか……まぁウィルだから平気だろ。」 リリ 「何?どの辺が平気なの?たった今目の前で妹が連れ去られたのよ?……死神に!!」 ダニエル 「ウィルは優しい奴だから平気だよ、安心しな。」 リリ 「安心しな?………会ったばっかりのムカつく死神の言う事を信じて、連れ去られた妹をそのままにしとけって言うの?あんたさ……さっきからずーーっと言いたくて言いたくて、もう喉のこの辺まで出てきてた事をじゃあ今言わせてもらうわね!いい?ってか言うわね!!」  丁度その時、散々飲んで気が済んだ死神グループが店から出てきた。そして通りに居る二人に気が付くと面白がって様子を見る。 リリ 「………このクソったれ!!愚痴男!!死神の出来損ない!!クソ!女ったらし!……もう死ね!シネ神!!」 ダニエル 「……………(怒)(怒)」  知り合ったばかりのろくに自分の仕事もしていなかった女に罵られ、ゲラゲラと腹を抱えて仲間達には笑われ、今のダニエルは相当立腹していた。 ムスっと振り返り、仲間達を追い越して一人で歩いて行ってしまった。リリがそんなダニエルの腕を魔法のムチで掴んだ。

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