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第二話 きっと雨になるだろう (後編)
リリ
「そのウィルっていう子がどこに行ったのか、教えてもらうわよ……。」
ダニエル
「あ?知らねぇーよそんなの、俺はあいつの子守じゃねぇんだから(怒)おいお前ら知らねぇの?何かあいつから聞いてない?何かそのクソウィッチの妹連れてどっか行っちゃったみたいよ。」
ダニエルがあえて強調したその言葉を聞いたリリが、彼を掴む魔法のツタに火をつけた。炎がツタと伝ってダニエルの元へと燃え広がっていく……。死神達が「すげぇ」と興味津々に観覧している。炎がダニエルの腕に辿り着こうとした時、彼がフっと軽く吐いた息が呆気なく炎を消し去った。
リリ
「…………!!」
ダニエル
「……お前、俺を誰だと思ってんの?」
リリ
「妹を返して!何があっても、あの子だけは守り抜くって決めたの!親を亡くした時から……私はずっとそう心に決めてたのよ!だから早くアレンを返して!!」
ダニエル
「はぁ……悪いけどお前ら先に帰ってて?俺ちょっとこのクソウィッチの面倒みてから帰るわ。」
死神仲間達と手を振って別れると、ダニエルは面倒くさそうに耳をほじりながら反対の手でリリの手を掴み、歩き出した。
リリ
「場所さえ教えてくれれば、一人で行けるわよ………。」
ダニエル
「はぁ……妹っつってもさぁ、もう子供じゃねぇんだろ?あんな飲み屋で働いてるんじゃ尚更、お前の心配なんて必要としてねっつの。」
リリ
「私は、やめておきなって言ったわよ……でも半年だけだからって言うから大目に見てあげてたら今度は……素敵なお客さんに出会っちゃったの!とか言って嬉しそうに毎週出勤していくから……仕方ないじゃない……」
ダニエル
「母親代わりな訳ね。」
リリ
「私はあの子が幸せになれるなら、それでいいの。」
ダニエル
「自分の幸せは?」
リリ
「あの子の幸せが、私の幸せ。」
ダニエル
「お前……そんな見た目しといて実はクソ真面目か。」
リリ
「うっさいわ死ね神!」
ダニエル
「お前それ俺以外の死神には絶対に言うなよ?」
リリ
「あんた何でさっきから私の事助けてくれるの?体目的?」
ダニエル
「そこまで女に困ってねぇわ。」
リリ
「………じゃあ、何が欲しいのよ。お金?」
ダニエル
「少なくとも君よりは稼いでるんで。」
リリ
「………じゃあ、何が欲しいのよ!!」
ダニエルが何も言わずに振り返り、こちらに歩み寄ってくる……。
リリ
「な、何よ……叫ぶわよ!な、なな何か猛獣召喚するわよ!!いいの?いいのね!あんたクソウィッチ舐めてると痛い目に遭うわよ!!(怒)」
リリが慌てて道に落ちている小石を拾い、適当に思いついた陣を地面に書きなぐった。書いている途中で一瞬だけ前を確認すると、ダニエルの姿が無い……立ち上がり辺りを見回すが、音も気配も何も感じない……。
リリ
「……消えた……??」
次の瞬間、リリは腕を掴まれた。驚いて顔を上げたリリの唇に、柔らかい何かがそっと触れる………。彼女の腕を力強く掴むその手とは裏腹に、彼がするキスはとても優しく繊細だった。ドクン、ドクン………。鼓動が全身に響く………。
ダニエル
「ご馳走さん。」
リリ
「ば、バカじゃないの!!」
そう言って顔を赤らめながらバっとダニエルの体から離れる。
ダニエル
「どうする?ホテルにでも行く?」
ダニエルがそう言ってリリをからかう。恥ずかしくてその顔を見られない。リリは彼に背中を向け、強がるように腕を組んだ。
リリ
「もう付き合ってられない!自分で探すからいいわよ、この役立たず!!」
ダニエル
「……どうせウィルん家に居んだろ、心配すんなって、あいつは俺らの中じゃ一番気が弱くて優しい奴だから。てかお前……もうちょっと空気読んでやれば?さっきっから妹がウィルに連れ去られたみたいに言ってるけど、店での二人見てなかったの?てかお前妹から何も聞かされてなかったの?」
りり
「な、何の事よ…………」
ダニエル
「鈍っ。」
ダニエルが呆れた顔をして歩き始めた。
ダニエル
「お前の妹、ウィルと出来てんぞ。」
リリ
「………え!!!ウソ………」
ダニエル
「普通に気付くだろ、バカなのお前?」
リリ
「そう言えば……素敵なお客さんって……。」
ダニエル
「あらまー、いけない子だねー、死神なんかを好きになっちゃって……」
リリ
「あんたは?」
ダニエル
「…………は?」
リリ
「あんたは誰かを好きになったり……するの?」
ダニエル
「当たり前だろ。」
カツカツ……とリリが履いているヒールが地面につく度に音を立てる。ダニエルの着ている漆黒の色のコートが夜道の街灯に照らされて、怪しくユラユラと揺れる。前を歩くダニエルの肩を掴み、振り返った彼に背伸びをしてキスをした。彼が一瞬驚いた顔をする。そしてリリの腰に手を回すと今度はダニエルからリリにキスを返した。
リリ
「………あ、雨。」
ダニエル
「じゃあ、雨宿りでもするか。」
リリ
「………バカじゃないの、下心が見え見えよ。」
ダニエル
「………釣れねぇ奴。」
小雨が降る中、並んで歩くダニエルの手に触れる……彼はその手を優しく握り返し、ふたりは手を繋いで歩いた。………そんな遠い遠い日の記憶。
ふと目を覚ますと、自宅のベッドの上で天井を眺めていた。
ミイラ男
「………リリ!!リリ!!大丈夫?!」
魔女
「…………?」
ミイラ男
「二人とも!リリが目を覚ましたぞ!!」
その声を聞いたウェアとジョシュが、心配そうにリリの顔を覗いた。
狼男
「……大丈夫?起きれそう?」
酷い頭痛がする……。ガンガンと響く痛みの中で、今の状況を思い返す。そしてハっとした表情で言った。
魔女
「ダニエルは?」
ミイラ男
「………ダニエル??誰?」
ジョシュアが玄関のドアを開け、振り返って言った。
ドラキュラ
「今から探しに行くところ。」
狼男
「君はもう少し寝てた方がいいよ、クリス、傍に居てあげてね。」
ミイラ男
「うん!」
ウェアがジョシュアの後を追ってリリの家から出て行った。リリが「私も行く」と起き上がると、クリスが彼女を再び寝かした。
ミイラ男
「ダメだよ、今は安静にしてないと……」
魔女
「お願い、私も一緒に行かなきゃいけないの。」
リリのそんな真剣な眼差しにクリスが折れた。リリの支度が済むと先に行った二人を追いかけ街に出た。
街の中心部の噴水広場を横切っていると、キョロキョロと何かを探しているウェアを見付けた。声を掛け、二人は彼の元に掛けていく。どうやらジョシュアとは二手に分かれて例の人物を探しているらしく、二人はそのままウェアと合流してダニエルを探し回った。
はて、ダニエルとは一体誰なのか……だが事が少し深刻な様子なのはクリスも十分に察していたため、中々それを口に出すことが出来ずにいた。
しばらく街を歩き回っていると、ジョシュアが少し疲れた様子で頬を掻きながら坂を下ってきた。
狼男
「見つかった?」
その質問に首を横に振るジョシュア。リリは先程からずっと落ち着きがなく、困った顔をしている。
ジョシュアが三人を引き連れ、街の馬車屋に向かった。店に着くと、店主にサイズを伝え、金貨を払う。店の外に用意された馬車のドアを御者が開け、ジョシュアが「乗れ」と言い全員が馬車に乗り込んだ。
ミイラ男
「………どこに行くの?」
ドラキュラ
「死神の本部。」
狼男
「はぁ……俺苦手なんだよねぇ……何か不気味なんだもん。」
ドラキュラ
「ならシッポを巻いて逃げれば?(笑)」
狼男
「噛みつくぞ(怒)」
ミイラ男
「あのぉー…………」
気まずそうにクリスが挙手をして、三人に質問した。
ミイラ男
「ずっと気になってたんだけど……ダニエルって、誰??」
ドラキュラ
「秘密。」
狼男
「リーパーの本名だよ、ダニエル・フォートマンって言うんだよ。」
ドラキュラ
「何だよ……言っちゃったらつまんないじゃん……」
ミイラ男
「………え??リーパーって、リーパーって言う名前じゃなかったの??」
ドラキュラ
「可愛い~クリス君~!!」
ミイラ男
「…………(怒)」
魔女
「死神なのに死神って名前、変だと思わなかったの?」
ミイラ男
「確かに……え?でも、ウェアもそのまんまだよね?ウェアウルフでしょ?」
ウェアを見てぷっとわざとらしく笑うジョシュアに、ウェアがい~っと牙を見せつける。
ドラキュラ
「ウェアもリーパーも俺らが勝手につけたあだ名だよ。こいつの本名はリチャード。」
狼男
「リチャード・テイルズだよ、今後ともよろしくね!他の友達からはよくリックって言われてるけど、何でも好きに呼んでくれていいからね!」
そう言ってニッコリと微笑んだ。
魔女
「ミドルネームはあるの?」
狼男
「ヘンリーだよ。リリは?」
魔女
「ジェシカ。」
ミイラ男
「へぇー!ウェアのミドルネーム、ヘンリーっていうんだ!カッコいいね!」
ドラキュラ
「……えー何?誰も俺には聞いてくれないの?へこむわぁー……」
ミイラ男
「………え?!ジョシュってミドルネームあったの??」
ドラキュラ
「ありますよそりゃぁ……」
魔女
「何て名前?」
ドラキュラ
「……エドワード。」
ミイラ男
「……エドワード?ジョシュア・エドワード・ターナー?お前名前めっちゃカッコいいじゃん!(笑)」
ドラキュラ
「え?名前だけ??てかクリス君のは?」
ミイラ男
「セス。クリス・セス・レイフィールド。」
ドラキュラ
「いやお前のがかっこいいじゃん……何か負けた(笑)」
狼男
「てかお前たち、付き合ってんのにお互いのミドルネームも知らなかったの?浅い付き合いっすか、ジョシュアさん?」
そう言ってウェアが腕をジョシュアの肩に回す。
ドラキュラ
「ばーか、俺はゆっくりと攻める派なの。ゆっくりと時間をかけてクリス君の事を知っていくの、分かる?分かるかな君に?俺のこの深い愛情が!そんな浅はかな関係になんて興味は無いね。」
ミイラ男
「じゃあ俺の好きな食べ物は?」
ドラキュラ
「……へ?食べ物??……リンゴ……?」
ミイラ男
「お前の俺への愛なんてそんなもんか。」
ウェアが耳を掻きながらケラケラと笑った。大きいサイズの馬車の中には二段ベッドが一台設置されており、四人は順番に眠ることにした。昼間に散々街を歩き回ってすっかり体力を消耗してしまったジョシュアとウェアがベッドの上でくつろいでいる間に眠ってしまった。
ミイラ男
「狼男とヴァンパイアが人間みたいに夜に寝てるよ……。」
月光に照らされて、森の木々が青白く光る。荷台の窓から外を眺めるリリに、一体何があったのかと訊ねた。
リリ
「私ね、自分の命を生贄にしようとしたの。」
ミイラ男
「……………!!」
リリ
「もうみんなに会えなくなるのは寂しいけれど……アレンは私のせいで死んだのに、私だけ幸せに生きてるのなんて……やっぱりおかしいもの。」
ミイラ男
「アレンって?」
リリ
「妹よ。私達には親が居なくて、ずっと二人っきりで生きてきたの。だから私にとって、あの子が生き甲斐だった。なのに……。」
ミイラ男
「病気かなんか?」
魔女
「……殺されたのよ……」
ミイラ男
「…………!!」
リリの目から、憎しみの涙が零れた。
魔女
「ケルスに………。」
衝撃的な話に、クリスが言葉を失う………。
魔女
「アレンが一人の死神と恋に落ちてね、その死神の名前はウィリアム。ウィルはダニエルの後輩だった……。凄く優しい子で、いつもアレンの事を大事に思ってくれていたわ。私もね、この子ならアレンの事を任せてもいいかもしれないって思ってた……。」
ミイラ男
「ゆっくりでいいよ、俺、ちゃんと聞いてるから……無理しないでね。」
そんなクリスの思いやりに、リリが「ありがとう」といって話を続けた。
ー 次回へ続く ー
Dusk to Dawn 始まりの章 第二話
It's gonna be raining きっと雨になるだろう
ー END ー
リリから聞かされた衝撃的な事実……。彼女が自分の幸せよりも大切にしてきた妹のアレン、そんな存在が消え去ってしまったあの惨劇の真相に迫る……。
次回、Dusk to Dawn 始まりの章 第三話
【 Dream that I have been forgotten ずっと長い間、忘れていた夢 】 お楽しみに!
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