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第三話 ずっと長い間忘れていた夢(中編)
バンコテンからクリスを連れて帰り共に暮らし始めてから一ヵ月が経とうとしていたその日、ある人物から呼び出されたウィリアムは指定された審判協会の一室の扉の前に来ていた。
ウィリアム
「失礼します。」
扉を開け部屋の中に入ると、そこにはゴーダの最高責任者、ダニエルが壁側の椅子に座り伸ばした足をテーブルの上にのせた格好で居眠りをしていた。
ダニエル
「………ケルスのオヤジ共は元気にしてたか?」
ウィリアム
「え、えぇ、まぁ……。ケルスをそんな風に言えるのはダニエルさんだけですよ……。」
ダニエル
「……赤子はどうした。」
ウィリアム
「…………??!」
ガタっと席を立ち、驚いた表情でテーブルの前に立つウィリアムの元へと近づく………。
ダニエル
「何で知ってるんだ?って顔だな。」
ウィリアム
「………どういう事……ですか?」
ダニエル
「俺はお前の上司だぞ、知ってて当たり前だろ、赤子はどこだ。」
ウィリアム
「…………まだ、見つかっていません。」
ダニエル
「俺を欺こうってか?」
意地でもはぐらかそうとするウィリアムの顎を掴み、自分の方を向かせて顔を近付けた。
ダニエル
「………おい、俺を見ろ。」
ウィリアム
「嫌です!」
ダニエル
「あ?上司に逆らうのか?」
ウィリアム
「第一、あなたには関係ないでしょう!この件は俺がケルスから直々に受けた話です!いくらダニエルさんでも、そこまで首を突っ込んでいい権利があるんですか?」
ダニエル
「……お前生意気になったな。入隊した時はあんなに素直で可愛かったのに……」
ウィリアム
「いつの話してるんすか!ってか……俺なんかがモズに勧誘されるくらいなら、ダニエルさんももうとっくにされてるはずですよね?どうしてゴーダにこだわってるんですか?」
ダニエル
「面倒くさそうだから。」
ウィリアム
「……ダニエルさんらしいですね。」
ダニエル
「今いる地位でさえも面倒くせぇのによ……。お前みたいな馬鹿がくっだらねぇ事で問題ばっかり起こしやがって。しかもお前モズになんてなってみろ?あのうるせぇケルスのジジイ達にこき使わるんだぞ、冗談じゃねっつの。」
ウィリアム
「……少なくとも俺が近くに居る時はケルスの事そんな風に言うのやめてくれますか?俺にまでとばっちりが来るんで!(怒)」
ダニエル
「あ、そうだ……今日この後飲み会があるんだってよ。俺も行くけど、お前も来いよ。」
ウィリアム
「あ、いや、俺は遠慮しときます。」
ダニエル
「何で?」
ウィリアム
「いや、ちょっと……ぺ、ペットを飼い始めて!まだ子犬だから色々と面倒を見てあげないと……!」
ダニエル
「じゃあそのポチも連れてくれば?」
ウィリアム
「勝手に名前決めないで下さい(怒)じゃあ、ちょこっとだけ顔出してすぐ帰ります……。」
ダニエル
「……女でも出来たんだろ?」
そう言ってにやけながら自分の肩をウィリアムの肩に軽くぶつけた。
ウィリアム
「違いますよ!もう放っといてください!用ってそれだけですか?じゃあもうこれで失礼しますね!」
イラつきながら部屋を出ようと扉の取っ手をカチャっと回すと同時に勢いよくガタンっ!と扉が再び閉まった………。
ダニエル
「………お遊びはここまでだ。」
ウィリアム
「……………!!」
掴まれた両手を背中に回され、グググ……と締め上げられる。そして耳元でダニエルがその深い声で囁いた。
ダニエル
「もう一度聞く……赤子をどこにやった。」
ウィリアム
「……………。」
ダニエル
「同じ死神相手に痛みで拷問しても効き目が無いのは分かり切っている……さあ、どうしようか?」
ダニエルの手がウィリアムのコートの紐を解き、ボタンを外すとそのまま素肌を這い、下腹部から段々と上にあがっていく……。
ウィリアム
「……な、何やってんすかあんた!俺は男っすよ?!」
ダニエル
「馬鹿かお前?だから意味があるんだろうが。……じゃなきゃこんな事俺が好き好んでやる訳ねぇだろ!(怒)」
ウィリアム
「大声で叫びますよ!!セクハラですよセクハラ!」
ダニエル
「………なら黙らす。」
ウィリアム
「………!!!」
その瞬間、ダニエルの指がウィリアムの口の中に詰め込まれた。「オエっ」と嗚咽 をしながら必死に抵抗をする……。
ダニエル
「噛んだら殺すぞ。」
ウィリアム
「んんんん~~……!!!」
言葉にならない言葉を叫ぼうとするが、長い指が邪魔をして声が出ない。
ダニエル
「だっ……コラ!舐めんな!舌引っ込めろ(怒)」
ウィリアム
「んんんんんんーー!!(怒)」
ウィリアムの生暖かい舌が指にいやらしく絡めつく。口の中でダニエルがその指を動かす度、くちゅ……と濡れた音が響く。
ダニエル
「どうだ、懲りたか?男に女扱いされると腹が立つだろ?さっさと赤子の場所を言えば楽になるぞ。三秒だけやる……それ以内に答えなければお前を犯す。」
ウィリアムの両手を後ろで締め上げたまま、指を彼の口から引き抜いた。
ダニエル
「いち、に……」
ウィリアム
「掘りたきゃ掘れよ!!この変態が!!あんたの事カッコいい死神だって尊敬してたのに、見損なった……!!」
カチャ……。それを聞いたダニエルは、表情を変えずに扉の鍵を閉めた。必死にその拘束から抜け出そうともがくウィリアムを強引に前に押し、その顔をテーブルの上にガタンっと押しつけた。
ダニエル
「………覚悟は出来てるんだろうな?」
後ろからウィリアムの両足を広げ、その間に自分の体を埋 めた。何をそこまでこだわっているのだろうか……?それ程までに隠したい何かがあるのは明確。今はもう立派に自分一人で責任を持ち仕事ができるようになったウィリアム。アリスに入ったばかりの頃の彼に比べると、その成長の変化は著しいものだ。……だがこうして上手く嘘を付けない素直さは、やはりあの頃と変わっていない。可愛い奴だ。
ダニエル
「………早く言えよ。」
片手でウィリアムの両手首を掴み、反対の手で彼の制服のズボンのボタンを外しファスナーをゆっくりと下に降ろす……。
ダニエル
「…………赤子は?」
ウィリアム
「……まだ、見つかってません。」
はぁ……とため息をつき、ウィリアムの身体から離れた。
ダニエル
「くっそ頑固!ほんっとに面倒くさいお前!(怒)」
ウィリアム
「ダニエルさんがゲイだって初めて知りました。」
ダニエル
「お前ぶっ殺すよ?いい加減にしてくれる?」
ウィリアム
「何でそんなに赤子の事が気になるんですか?ってか……誰から聞いたんですか?あの時あの場所には俺とケルスしか居なかった……。」
ダニエル
「地獄耳なんで。」
ウィリアム
「……真面目に答えて下さい。」
ダニエル
「まぁそのうち分かるよ。あと、その赤子はただの赤子じゃない……って事だけは覚えておけ。」
制服を正すウィリアムの肩をポンポンっと叩いてダニエルは部屋を出て行った。
ウィリアム
「………本当に、ここに入るんですか?」
下町にあるそのバーの表に堂々とピンクの看板が点滅している。その看板には、黒猫がカクテルグラスを手にしている絵と、その隣にSweet Girlsの文字。同じゴーダの仲間達が慣れた様に扉を開け、お気に入りの女の子たちを指名した。来るまでの道中、ダニエルだけは全く乗り気ではなく、飯が旨い飲み屋があるからそちらに行こうとしつこく仲間達を説得していたが誰一人として聞く耳を持たなかった。ふてくされた顔をして最後に店に入るダニエルが、ウィリアムを見て「お前も入れよ」と言いたげに顎をクイっと店の方に振った。はぁ………とため息をつきながらダニエルの後に続いて店に入った。
若い女性従業員達が着ている服の肌の露出度が半端ではない。女の子の胸元は大きくあき、組んだ足はスカートが短過ぎて太ももまで露わになっている。そんな子達があちらにも、こちらにも……過激すぎるシチュエーションの中、目のやり場に困ってビールジョッキを見つめていると後ろから声を掛けられた。
「………アレンです、よろしくお願いします。」
ウィリアム
「…………??」
挨拶をして、ウィリアムの隣に座ったその女の子はぎこちなく微笑んでウィリアムの目をそっと見つめた………。死神の自分を怖がっているのか、それとも新入りで緊張をしているのか、どちらにせよ、詰め寄ってくるような過激な女性に付かれるよりはよっぽどマシだった。ウィリアムが少しほっとした表情で「良かった、君に会えて。」と伝えると、彼女は少し驚いた顔をして照れくさそうに微笑んだ。
店ですっかり意気投合した二人は、ウィリアムからの誘いで日中にデートをする約束をした。待ち合わせ場所に着くと、ウィリアムがベンチに座り噴水を眺めていた。声を掛けられたウィリアムが立ち上がりアレンに手を振る。
隣同士に歩いて街を見て回る二人の手が、腕を振る度に触れる……。お互いに焦りたくはないが、同時に待ち遠しくもある、歯がゆい気持ちのまま時間は過ぎて行った。昼食には何が食べたいかと訊ねると、店で衣装が入らなくなるから……というアレンに考慮して「大変だね」と言いながら二人はサンドイッチ屋を選んだ。各自に好みの具材を店員に伝え、アレンに「席を探しといて」と頼み、彼女がその場を離れると会計を済ませた。
外のテーブル席に座り、くるまれた紙を広げながらアレンが言った。
アレン
「ウィルは、一人暮らし?」
ウィリアム
「あぁー………弟と一緒に住んでるよ。」
アレン
「え!ウィルって弟さんいたの?なんて名前?」
嬉しそうに、アレンが身を乗り出して質問した。
ウィリアム
「クリス。」
アレン
「へぇ~!………似てる?」
ウィリアム
「いや、あんまり似てないよ……。」
アレン
「今度、おうちに遊びに行ってもいい?」
ウィリアム
「う、うん………。」
「もちろんだよ」そう言う事ができないジレンマに、ウィリアムは小さくため息をついた。
一日中、口からつい出てしまいそうになってはまた飲み込んでいた言葉があった。組織で働く日々の中で、常に周りを疑う事を覚え、欺くことを覚え、それが上手くいく度に誰かが命を落とし、自分は昇格していった。悲しい気持ちにならなくは無かった。だがこれが自分の進むべき道なのだと自分に言い聞かせて生きた。
夕暮れの街角で、ウィリアムは立ち止まりアレンの手を取る……。
アレン
「……どうしたの?」
ウィリアム
「今度、うちに遊びにおいでよ。」
アレン
「いいの……?やった!!」
その無邪気な笑顔を、俺は壊してしまうのだろうか……?守り切れる自信は無かった。だがそれでも、偶然見つけたこの小さな恋を、手放したくはなかった。
風になびいたアレンの赤茶色の髪の毛を、指で優しく彼女の耳にかける。その髪の色と、グリーン色の瞳がよくマッチしている。ウィリアムを見つめるその瞳からは、彼への疑いを一切感じられない。彼の両手が、アレンの頬を包み込む……。アレンが目を閉じて何かを待っている。「もう一度、戻りたい……戻れるかな?」心の中で自分自身にそう問いかけた。そして初恋をした少年のように、ウィリアムはそっとアレンにキスをした。
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