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第三話 ずっと長い間忘れていた夢(後編)
アレンの出勤の日に合わせて、ウィリアムが仲間と飲みに来てくれるようになった。だが彼は決まって二時間ほどで帰ってしまう……自分と居るのがつまらないのか、ならなぜ、それでも会いに来てくれるのだろうか?風呂上がりにベッドの上でボーっとそんな事を考えながら髪を乾かしていると、コンコン…とノックをし、バスローブを羽織りホットティーの入ったマグカップを両手に持つリリが部屋に入って来て話し掛けた。
リリ
「最近元気ないじゃない、恋煩い?」
アレン
「ウィルっていつも……店に来てもすぐに帰っちゃうの。私と居るのが楽しくないのかなぁ~って……」
リリ
「弟が居るんでしょう?なら、むしろ優しい良いお兄ちゃんじゃない。お泊りはいつするの?」
アレン
「と、泊るとは言ってないよ!ただ、遊びに行くだけ……。」
リリ
「妊娠だけは気を付けなさいよ。」
アレン
「だからそんなんじゃないってば………!!」
ー 一方その頃 ー
ギギギ……。耳障りな音を立て、古い木の扉が開いた。その死神が着ているコートの肩にはケルスのマークが刺繍されている。
「例の赤子は……」
ダニエル
「まだ見つかっていない。」
「ウィリアムの様子に変化は?」
ダニエル
「何も認められない。」
「しばらく見ぬうちに、また小生意気な面になったな………。」
ダニエル
「……あんたは一体何を企んでいる?俺の部下であるウィリアムが、ケルスから受けた初の依頼だから裏で手助けしてやれって……あんたがそんなにお人好しな死神ではないことは知っている。」
「………ふふふ………」
首の関節を鳴らしながらダニエルの隣を通り過ぎると、牢の柵にもたれて腕を組んだその男がダニエルの背中を見つめて言った。
「あの小僧には、死んでもらう……。」
ダニエル
「……どうせそんなことだろうと思ったよ。それだけの力を持った赤子を匿 っている集団が、丸腰でホレどうぞって赤子を差し出す訳も無いしな。端っからあいつは捨て駒だったんだろ?……そんで?仮にあいつが死んだ場合、誰が代わりに赤子を連れ帰るんだ。」
「ルシファーにはもう話をつけてある。」
ダニエル
「ケルスを乗っ取る気か?」
「……貴様もこの話に乗りたいか?」
ダニエル
「どうせウィルを言いくるめた時、神堂に居たのはあんたとウィルだけだったんだろう?……まやかしの達人、ルドルフさんよ。」
ルドルフ
「さて………どうだったかな。」
怪しい笑みを浮かべ、ルドルフの身体が風に舞う砂の様に消えて行った。
ーーーーーーー
ある日の夕暮れ後、何やら騒がしい声が街の裏通りから聞こえてくる……。
ダニエル
「……この前は俺がお前らに付き合ってやっただろ!今度はお前らが俺に付き合え!!(怒)」
スイートガールズのピンクの看板の前で、死神達が口論をしている。銀色の髪をした死神が、体格が二回り以上はある、目が合っただけで握り潰されてしまいそうな死神の胸ぐらを掴んで怒鳴っている。
「ミミちゃんに飲みに行くって約束しちゃったもん俺!」
ダニエル
「あ?知るか!誰だそのクソみてぇな名前の女!!(怒)」
「次ミミの悪口言ったら承知しねぇぞダニエル!!」
ダニエル
「もう俺ゴーダ辞めよ。こんな馬鹿な連中引き連れて、これ以上頑張れない………」
ウィリアム
「ちょ、ダニエルさん、落ち着いて下さいよ!カールさんも!!……何やってんすかこんな所で(怒)」
カール
「ウィル、お前も指名してる女の子いるんだろ?何だっけ……アレンだっけ?ミミちゃんと仲良いらしいよ!今度ダブルデート行こ!」
カールがウィルと肩を組んで店に入っていく……。
ダニエル
「辞表、何て書こう………。」
はぁ………っと深いため息をつき、ダニエルもまた他の仲間達に続いた。セクシーな衣装を身にまとう女の子達が、死神達に何が飲みたいかと聞いて回る。「……ビール!!」と機嫌悪く怒鳴るダニエルの元に、女の子が急いでビールを持って来た。
カール
「ミミちゃ~ん、元気にしてた?もう俺、君に会うためにお仕事頑張ってきちゃったよ~!」
ミミ
「え~すごぉ~い!鎌振ってきたの~??」
カール
「振ってきたよぉ~もう、ぶーんぶんっ……!」
ミミ
「きゃ~!かっこいぃ~!!」
部下たちの情けない姿を見て鳥肌が止まらないダニエル。そんな彼には全くお構いなしに、隊員達は皆付いた女の子達にデレデレとしている。
ダニエル
「醜態だな、こんなん……。いや、待てよ?別に俺が辞めなくても、隊員総入れ替えっていう手もあるのか……。アリスのひよっ子達の方がまだマシだな、こんな腐ったエリートの成れの果てよりもよ。(怒)」
ぶつぶつと文句を言いながらビールを飲むダニエル。「俺がお前達を引っ張て行く。」「俺を信じてついて来い。」そう言って今まで数々の難関を共に手を取って乗り越えてきた。そう、今このテーブルを囲って座っている、そんなゴーダのメンバー達………。どの隊員たちも皆鼻を伸ばして隣についた女の子達と話している。自分が隊長として未熟だったのか、どこで何をどう間違えたのか、はぁ……と呆れて目を擦りながら、ダニエルは用を足すために席を立った。
アレン
「明日お休みでしょ?今日……遊びに行ってもいい?」
ウィリアム
「え?これから?帰るの凄く遅くなっちゃうんじゃない?」
アレン
「一応、お泊りセット……持って来た。」
ウィリアム
「………え!!」
ダニエル
「浮かれて孕 ませんじゃねぇぞー。」
まるで花が舞うような、ウィリアムとアレンの初々しいカップルの会話。それを、便所へと向かうために立ち上がったダニエルが生々しい忠告とともに遮った。
ウィリアム
「ちょ、何言ってんのあんた!!」
ダニエル
「君、やめときな?死神と付き合ったって何も良い事なんかないからねー。」
彼は空気も読まずにそう言って、トイレの方へ歩いて行った。
ウィリアム
「……ごめんね?あの人いっつもあんななの。もうほんっとに嫌だ!」
アレン
「同僚の人?」
ウィリアム
「うちの総隊長……。」
アレン
「………え!!そんなお偉いさんだったの?!てかあの人……女嫌い?」
ウィリアム
「俺もね、実はゲイなんじゃないかって思ってるんだよね……ねぇ、カールさん!」
ダニエルがトイレに入ったところを確認したウィリアムが、ヒソヒソ声でカールに問い掛けた。
ウィリアム
「………ダニエルさんて、本当はゲイなんですか?」
カール
「ハっハっハ!!それ、あいつが帰ってきたら皆の前で言ってやんな!面白い反応が見れるぞきっと(笑)」
ウィリアム
「そんな危ない事はしたくないです(怒)」
アレン
「あ、ちょっと待ってて?紹介したい人が居るの!今連れて来るからね!」
ウィリアム
「………?」
そう言うと、アレンは裏の楽屋へとトコトコ……と消えていってしまった。そして数秒も経たない内にまたひょこっと顔を出したかと思うと、今度は誰か見知らぬ女の子の手を引いて、またこちらへと小走りで戻ってきたのだ。
アレン
「ゴホンっ、皆さんちょっといいですか?こちら、私の姉のリリです!今日はたまたまお手伝いで来てもらっただけなんですが、仲良くしてあげて下さいね!」
リリ
「……リリです、よろしくお願いします。」
死神達に姉のリリを紹介したアレンは、ウィリアムの隣に座り直して彼のドリンクを作り直した。
ウィリアム
「お姉ちゃん綺麗な人だね、お姉ちゃんも魔女さんなの?」
アレン
「うん!私の大先輩!」
ウィリアム
「へぇ~カッコいいね!」
トイレから帰ってきたダニエルが、アレンの姉と何だか話をしている。お姉さんか……と考えていたウィリアムは、突然ハッと何かを思い出したかのように焦りだした。
ウィリアム
「………あ、大変!もう俺帰んないと!」
アレン
「え?さっき来たばっかりじゃん!」
「帰らなきゃ。」と伝えた途端にしゅん……っと寂しそうな顔をするアレンを見てさすがに「じゃあね」とは言えず、ウィリアムは腹をくくって彼女の耳元でこう言った。
ウィリアム
「一緒に帰ろう、ウチにおいで。」
アレン
「…………!!」
着替えもしないまま、荷物も全て店に置いたまま、アレンはウィリアムに手を引かれて夜の街を掛け抜けた。ヒールで疲れた足が少しずつ速度を落とす……。そんな彼女に気付いたウィリアムが、アレンに背を向けその場にしゃがみ込んだ。
アレン
「………え?」
ウィリアム
「おんぶ。」
その優しさがたまらなく好きなんだ。気取らない彼のその等身大の優しさ、温もりが、アレンの心をきゅっと掴んで放してくれない。
アレンは、ウィリアムの首元に腕を巻きつけて、そっとその身を委ねた。ひょいと立ち上がり歩き出す彼の背中からの眺めは高く、丘の上から見える街の夜景がいつもよりも遠くの方まで広がっている。
アレン
「すごい………!」
住み慣れた街の夜景を、まるで今夜初めて見る様にそう言ったアレンが可愛く思えて、ウィリアムはクスクスと笑った。この幸せはいつまで続くだろう?いつまで守ってあげられるだろう?ウィリアムはその疑問を口にはせずに、ただぎゅっと拳を握りしめた。
二人が家に着き、玄関のドアを開けると、その音を聞いたクリスが走ってきてウィリアムに抱きついた。
クリス
「ウィル………遅い!ずっと待ってたよ!」
ウィリアム
「ごめんね………今日は、お友達を連れてきたんだ。」
クリス
「………お友達?」
驚かせないようにそーっと忍び足で部屋の中に入り「どうも、アレンです」と微笑んで自己紹介をすると、クリスはさっとウィリアムの後ろに隠れた。
ウィリアム
「クリス、大丈夫だよ。このお姉ちゃんはね、とっても優しい人だから。」
クリス
「……………。」
ウィリアム
「俺を信じて。」
クリスの瞳を真っ直ぐに見つめて、ウィリアムがそう言った。
クリス
「よろしくね、お姉ちゃん………。」
アレン
「うん!こちらこそ!」
………三度目にアレンがこの家に遊びに来た頃には、クリスはもうすっかり彼女に懐いていた。噴水広場にあるパン屋のクッキーの詰め合わせ。それをお土産に持って行くと、クリスはすごく喜んでくれた。アレンの膝の上に座って真剣にパズルのピースを探す、そんなクリスを見るウィリアムが微笑みながら言った。
ウィリアム
「もうすっかり懐いちゃったね(笑)」
アレン
「良かった、心を開いてくれて。……クリス、一緒にお風呂入ろっか!」
クリス
「うん!」
パズルをして遊んでいた二人が、手を繋いで浴室へと向かった。ウィリアムはパズルを片付け箱を棚の上に置く。……こんな幸せな日々を、何だかずっと前から夢見ていたような、そんな気がする。組織を抜けて、普通の職に就き、アレンと結婚してクリスと三人で暮らす……そんな日々を送れたのなら、それ以上の幸せなんてあるだろうか?だが同時に、これは仕事だと割り切って、そんな平凡な幸せを今までに数えきれない程奪い去ってきた。家族がある者も居ただろう、帰りを待つ子供が、恋人が……自分はそんな者たちからかけがえのない存在を消し去ってしまったのだ。
ふと窓の外を眺めた。木の枝から一羽の鳥が飛び立つ。窓ガラスに映る自分の顔が不安で満ちている。……こんな自分を、あの頃の俺は夢見ていたのだろうか?その不安に耐え切れず、ウィリアムは明かりを消して部屋を出た。
Dusk to Dawn 始まりの章 第三話
ー ずっと長い間、忘れていた夢 ー
ー END ー
けじめをつける時が来た。アレン……愛してる。クリスの頬をそっと抑えるウィリアムの温かい手……そして彼は言った。
「いつでも君の心の中にいるから。」
次回、Dusk to Dawn 始まりの章 第四話
ー それでも明日は来るから ー お楽しみに!
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