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第五話 Tears of Blood 血の涙に誓う

 足を組み、その上に重ねた手をのせたドーナが離れて向かいに立つダニエルに言った。 ドーナ 「…………やはりそうであったか。」 ダニエル 「……もっと早くに気付いていればウィルは死なずに済んだ………畜生………!!」  未だにやり切れない思いなのだろう。「畜生……」そう言ったダニエルは拳を握りしめ、悔しそうな顔をしている。 グリフィン 「……それは気の毒であった。まさかルドルフの奴がな……。」 ドーナ 「その赤子はどうなった……?安全な場所を確保してやったのか?」 ダニエル 「あぁ、それなら問題無いだろう。」 グリフィン 「奴の始末はどうする?生かしておけばまた悪巧みをするに違いない……処刑するか。」 ドーナ 「そればかりは我らだけでは決められぬ………他のメンバーにも話す必要がある。」 ダニエル 「頼みがあるんだが………」 ドーナ、グリフィン 「……………?」 ダニエル 「赤子の事は、放っておいてやってくれねぇか?頼む………。」 ドーナ 「…………よかろう。」 グリフィン 「ルドルフは何やらあの赤子の持つ力を過信していたみたいだが、あの程度の能力を持つ者など世界には溢れ返っておる………。あやつがケルスに入れたのはあの小汚い巧妙なやり口のお陰……初めからあやつ程度の能力者などケルスと呼ぶにふさわしくは無かったわい。」 ダニエル 「ごもっともだ。」 ドーナ 「……して、ダニエルよ……モズに入るというのは確かか?なぜ今になって気が変わった。」 ダニエル 「あんたらケルスがまたイケナイ事して罪なき命を奪ってしまわないために、だよ。」 グリフィン 「はっはっは!!笑わせてくれる……!(笑)」 ドーナ 「我らケルスを巡回パトロールでもするつもりか?」  「ほほぅ……」と余裕の笑みを浮かべ、ドーナがそのフードの中から垣間見える目でダニエルを見下ろした。 ダニエル 「……何だっていいだろ、放っとけ!(怒)」 ドーナ 「就任式は明後日だ、またその時に会おう。」  酒の入ったコップを手に持ち椅子にもたれ掛かり、部屋の小窓から星空を眺める。「ダニエルさん!」あの声が耳に響くような錯覚がする。彼を想うあまり、きっと脳がそうさせているのだろう。「もう、待ってくださいよ……!」いつも小走りで後ろについてきたウィリアム。先に逝ってしまったのは、彼の方だなんて………皮肉なものだ。 コップの中を見つめ、それを一口飲むと、ダニエルは目を閉じてあの瞬間を思い返す………。 ウィリアム 「ダニエルさん……あなたはモズになって、ケルスを……他の組織を……見張ってください……」 ダニエル 「………それがお前の望みか?」 ウィリアム 「えぇ……真実の目……」 ダニエル 「…………?」  もう力の入らないその手は、ガタガタと震えて真っ直ぐに伸ばす事ができない。それでもウィリアムは何とかその手をダニエルの顔に届かせる。そしてそっと右目に触れた…………。 ウィリアム 「きっと……あなたにしか……出来ないことだ……から……」  右目に触れていたウィリアムの手が……その時力を失った。 ダニエル 「………ウィル!……くそ……くそ……!!!」  もう返っては来ない返事をひたすら待つ。もう一度その口が動くのをただ待ち続ける……そして、指でそっとウィリアムの瞼を閉じた。力が抜けた彼の身体が、ずっしりと重くなるのを確かにその腕に感じる。ぎゅーっと彼の身体を抱きしめるダニエルの背中が震えていた………。 ダニエル・フォートマン、ウィリアム・ブロックとの二度目の別れ。 「只今より、就任式を執り行う………」  ドーム状の建物に長椅子が円を描くように外側に行くほど高く設置され、中心のステージが一望できるようになっている。何百というフードを被った連中が席を埋め尽くし、ステージの上には長い背もたれの椅子が11脚並べられ、各椅子には観客席に座る連中とは違った色のコートを身にまとう者たちが堂々と座る。 「ダニエル・フォートマン………こちらへ。」  階段を上がりステージの中心部に着くと、彼に続いて審判協会の会長がステージに上がる。ダニエルが一度会長と目を合わせてから、コートを脱いぐ。そしてそのコートを会長に渡し、感謝の言葉を伝えた。 審判協会会長 「よく尽くしてくれたね、君は我が審判協会の特別部隊、ゴーダのリーダーとして数々の素晴らしい功績を残してくれた。感謝しているのはこちらの方だよ……君を手放すのは誠に惜しい……だが、これからも仲間達に信頼される君で居てくれ。健闘を祈る。」  二人は握手を交わす。ステージを降りる会長と入れ替わり、カールがステージに上がる。 カール 「……ダニエル……一体何が起こった……?」 ダニエル 「この後、飲みに行こう……その時に話す。」  カールが脱いだコートを手に持ち、目をつむり右腕をダニエルの方に差し出す。ダニエルが呪文を唱え、自分の右腕からゴーダのリーダーのマークが刻まれたタトゥーを消し、そのままカールの腕にその中指と人差し指を当てると、自分が持っていたのと同じマークを描いた。 ダニエル 「これより、ダニエル・フォートマンに引き継ぎ、カール・ジェイムズがゴーダの総隊長を務める。」 カール 「その名に恥じぬよう、精進して参ります……!」  拍手喝采の中二人は握手を交わし、カールはステージを降りて行った。拍手が鳴り止んだ頃、ステージの上に座る連中の中の丁度真ん中の席に座っていた者が立ち上がった……その瞬間、ざわざわしていた会場内が一斉に静まる……。 「ダニエル・フォートマン……これからはモズの一員として、有能な君のその力を存分に発揮しておくれ。活躍を期待しているよ……。」  その者が席を離れダニエルの前へと来ると、懐から出したコートを彼に着せた。 「場所は決めてあるかい?」 ダニエル 「右目の下に、お願いします。」 「承知した……少し痛むけれど我慢しておくれ。」  その者が触れた皮膚に、鋭い痛みが走る……。「ぁぁぁああああ!!」と声を上げるダニエル。拳を握りしめ、ひたすらその痛みに耐えた。 「………よし、これで良いだろう。」  その者が掘った呪文がダニエルの皮膚を焼き、その文字一つ一つから血が滴る……。中央に描かれた大きなマークがその周囲の毛細血管に傷を付け、血管の色が紫色に皮膚の表面に浮き出る。痛みと血の量で右目を開けることができない。………仕方なくダニエルは片目を半開きにしたまま、誓いの言葉を口にするために前を向いた。 ダニエル 「………ダニエル・ルイス・フォートマン、只今より、Mediator Of Soul(魂の仲裁人)に就任いたします。」 Dusk to Dawn 始まりの章 第五話 - Tears of Blood 血の涙に誓う - ー END ー 次回、本章、最終話 - コーヒーの産地、モルナード - お楽しみに!

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