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第六話 コーヒーの産地、モルナード(中編)

ミイラ男 「な………じゃあこんな所で酒なんか飲んでる場合じゃねぇじゃんよ!早く行かないと!!」 ドラキュラ 「あいつがそう簡単に死んだりしねぇよ、慌てんな。」 狼男 「そんな話聞いちゃったら……もう引き返せないわなぁ、ダチとして。」 ドラキュラ 「そゆこと。」 魔女 「あなた達も危険な目に遭うかもしれないわ、無理にとは言わない……せめてクリスだけでも街に残った方が……」 ミイラ男 「え、何?!このタイミングで俺を置いてきぼりにすんの??お前ら性格悪っ!!」 ドラキュラ 「え、クリス君行かないなら俺も行かない。」 狼男 「じゃあクリスも行くしかないみたいだね(笑)」 ミイラ男 「やった……ジョシュ、大好き!」  省かれずに済んだ嬉しさのあまり、クリスがジョシュアを抱きしめた。 ドラキュラ 「え、ちょっとクリス君……何?今夜がその日なの?俺らの初……」 ミイラ男 「やめろ変態!(怒)」  「他でやれよ」とウェアが鬱陶しそうにビールジョッキを持った腕でジョシュアの肩をどつく。自分があの時思い留まっていれば、今もリーパーはここで一緒に酒を飲んでいたのだろうか?こうやって笑いながら一緒に過ごしていたのだろうか?微笑んだリリの心が、罪悪感で一杯になった。 ドーナ 「………久しぶりだな、元気にしていたか?」 ダニエル 「まぁな………グリフィンは?」 ドーナ 「依頼の協議会に参加しているはず。」 ダニエル 「あんたは省かれちまったのかよ、可哀そうに。」  死神界のトップ、ケルスの一人であるドーナに向かってそんな皮肉を言えるのは他のケルスのメンバー以外ではダニエルくらいだろう。 ドーナ 「何か用があって来たのだろう?」 ダニエル 「単刀直入に言わしてもらう、ルドルフに会わせてくれ。」 ドーナ 「ふむ………要件は。」 ダニエル 「……死者の蘇生の方法を探る。」  その途端、「はっはっは!」とドーナの笑い声が響いた。 ドーナ 「ルドルフと取引でもするつもりか?……それとも、あやつが無条件にお主にそんな機密を教えるとでも……?」 ダニエル 「それ以外に、あいつの心を救ってやれる方法を思い付かない……大事な奴なんだ……俺にとって。」 ドーナ 「惚れているのか?………その魔女に。」 ダニエル 「…………!」 ドーナ 「このドーナがそんな事に気付かないとでも思っていたか、お主の隠し事など手に取る様に分かる。あまりケルスを舐めるでないぞ。」  ふっとあざ笑い、ダニエルを見つめる。 ダニエル 「んだよ………始めっから知ってたんじゃねぇか!(怒)」 ドーナ 「そんなのは当たり前だ………私はお前の親なのだから。」  「お休み」そう言ってウェアは隣の部屋に、リリはその向かいの部屋にそれぞれ入っていった。フロントから預かった鍵でドアを開け、クリスを先に部屋に入れてから自分も続けて入る。 ミイラ男 「うわぁーすげぇ!結構いい部屋じゃん!」 ドラキュラ 「気に入ってくれて良かった。」  バフっ……。ふかふかなベッドに飛び込み、仰向けになる。「ふぅ~」と気持ち良さそうに目を閉じたクリスを微笑んで眺めながら、部屋に注文しておいた赤ワインの栓を開ける。 ミイラ男 「お前ってワイン以外飲まないの?」 ドラキュラ 「え?んー……飲めるけどワインが一番好きかな。」 ミイラ男 「強いじゃんワイン、すぐ酔っ払っちゃう……」 ドラキュラ 「じゃあちょっと飲む?俺が介抱してやるよ。」  いやらしくニヤリと笑う顔はどうもドラキュラらしい。「変態が」とそんなジョシュアを馬鹿にしながら寝返りを打ち、うつぶせになって枕を抱えた。 ミイラ男 「………ねぇ、ジョシュ。」 ドラキュラ 「………ん?」 ミイラ男 「男同士ってどうやってやるの?」 ドラキュラ 「何を?」  分かっていてわざと聞き返すジョシュア。彼はきっとこのシチュエーションさえも楽しんでいるのだろう。クリスが舌打ちをして顔を枕に突っ伏せた。 ドラキュラ 「クリス、こっち来て。」 ミイラ男 「…………?」 ドラキュラ 「俺の膝の上に座って。」 ミイラ男 「……………恥ずい。」 ドラキュラ 「誰も見てねぇよ。」  少し迷った後、彼に言われた通り椅子に座るジョシュアの上にまたがった。……こんな格好で、一体何をしようというのか……?ジョシュアから始めてキスをされた時、凄く驚いたのと同時に胸が熱くなり、鼓動を大きく感じ……その唇をさらに欲した。あまり認めたくないそんな事実を、心の(かたわ)らに取り敢えずと置いておいたのだ。 目の前にあるジョシュアの顔……思えばちゃんと見つめた事があっただろうか。彼の瞳の色は、こんなにも綺麗なグレー色だったのか……いつも恥ずかしくてそっぽを向いていたクリス。そんな彼が改めて恋人の顔をまじまじと見つめる。 部屋の隅に置かれているスタンドライトの明かりに反射して、クリスの瞳が金色にキラキラと輝く。包帯に隠された右目を優しく撫でるジョシュア………するとクリスが両手でそんなジョシュアの頬を抑え、その唇にそっとキスをした。 ミイラ男 「………好きだよ、ジョシュ。」 ドラキュラ 「…………!」  いつも釣れない態度をしているクリスが知ってか知らずか、不意に取るそんな行動がジョシュアの心をがっしりと掴み、彼の本能をくすぐる。 ドラキュラ 「お前って………罪な奴………」  クリスの服の下に手を潜らせ、その手を彼の引き締まった背中の上に這わす。初めは巻かれたその包帯の上から、そして一通り撫でた後、まだ包帯は解かずにその隙間にそっと指を忍ばせる………。包帯の繊維質な感触からツルっとした生肌の感触に変わった瞬間、何とも言い難い興奮を覚える。 ミイラ男 「ジョシュお前……めっちゃ固くなってんじゃん……。」 ドラキュラ 「……欲しいの?」 ミイラ男 「なっ…………」  クリスの下唇を見つめ、彼にキスを要求する。クリスはそんなジョシュアの甘えた顔が可愛く思えて仕方が無かった。 ドラキュラ 「クリス………お前受けでいいだろ?」 ミイラ男 「え!!やだよ!!痛ぇじゃん!」 ドラキュラ 「優しくするから。」  「嘘つけよ」とジョシュアに軽く頭突きを喰らわす。 ミイラ男 「不公平だ!俺が掘る!!」 ドラキュラ 「掘るってお前、言い方………そんな可愛い顔してホントに男勝りだよな。」 ミイラ男 「俺はそもそも男だ!!(怒)」 ドラキュラ 「嫌ならまた今度にしよう……嫌がってるお前を無理に抱きたくはない。」  ジョシュアはそう言って微笑み、困った顔をしたクリスの額にキスをした。 ミイラ男 「……ジョシュ……。」 ドラキュラ 「お前もワイン飲むか?」  クリスを膝の上にのせながら、腕を伸ばしコポコポコポ………とワインを注ぐ。そんなジョシュアの首に抱きつくクリスがボソっと呟いた。 ミイラ男 「………酔ったら痛み紛れるかな?」 ドラキュラ 「いやだからぁ……そういう風にはしたくないって言ってんじゃん、大切なんだから、クリス君は。」 ミイラ男 「でも何かこれじゃ、俺すげぇ空気読めない奴みたいじゃん……」 ドラキュラ 「じゃあ裸でベッドに横になって、俺にいやらしいポーズでも見せてよ。それをつまみに酒を飲むから。」 ミイラ男 「………前から思ってたけどお前ってさ………悪趣味だよな。」 ドラキュラ 「いや、待てよ?最初から脱がないで、じゃあじわじわと包帯を解いていくのを見せてもらおうかな……!」 ミイラ男 「何の罰ゲームだよ。じゃあじゃねぇし(怒)」 ドラキュラ 「クリス君のストリップ劇場。ん~最高の夜になりそうだ!」 ミイラ男 「いや人の話聞けよ!(怒)」  ゴゴゴゴ……。重い石の扉が開き、グリフィンが入ってきた。モズの者と話をしていたドーナがグリフィンに気付き、モズの者に「行け」と手で合図をした。 ドーナ 「会議は終わったのか?」 グリフィン 「あぁ………ダニエルが来ていると聞いたのだが。」 ドーナ 「もうとっくに帰った。」 グリフィン 「元気にしていたか?相変わらずな減らず口小僧か。」 ドーナ 「ふふ………お主に似てしまったのだろうな。」 グリフィン 「ったわけ……。何しに来たんだ?あいつの事だ、ただ親の顔を見に来た訳ではなかろう。」 ドーナ 「ルドルフから蘇生の事について何か聞き出そうとしているらしい……惚れた女子(おなご)を救うために、だと。」 グリフィン 「ケっ………くだらん。これだから若造は。」 ドーナ 「お主にもそんな時代があっただろうて。覚えておるか?グリフィンよ……」  深く被ったフードからほんの僅かだけ覗かせるドーナの口が、ニヤリと笑った。 グリフィン 「やめんか、そんな大昔の事忘れたわい!(怒)」 ドーナ 「俺はお前を愛している………」 グリフィン 「………………(怒)」  グリフィンの頬が照れて赤らんでいくのを面白がって眺めるドーナ。 ドーナ 「お前のためなら………ドーナ、俺は死ねる………。」 グリフィン 「いい加減にせんか!」  ポス……ポス……。と丸まった包帯が顔面に当たっては床に落ちていく。狙いの外れた包帯がきっちりと整えてある髪の毛に当たり、自慢の髪型が乱れていく………。 ドラキュラ 「………ちょっと何このストリップ、全然興奮しないんだけど(怒)」  いやらしく包帯を腕の周りに回しながら一重ずつそれが解かれ、彼の生肌が露わになっていく様を拝めるのかと思いきや……とんだ思い違いであった。ガサツに包帯を外しては、あろうことかそれを自分に向けて投げ飛ばしてくるではないか。そして極めつけにはこんな生意気なことを言って見せるクリス。 ミイラ男 「お客さーん、チップは?」 ドラキュラ 「すんごいじゃん、お前……お客様に向かって包帯投げつけちゃって。……何?ここマゾヒスト専用ストリップか何かなの?ちょっとお店間違えちゃったみたい。」 ミイラ男 「黙ってワイン飲んでろよ。」 ドラキュラ 「わーい、もっと虐めてー。」  いかにも棒読みでそんな感想を述べながら、グラスにワインを注ぐジョシュア。 ミイラ男 「おいクソヴァンパイア、足舐めろよ。」 ドラキュラ 「……お前何気に楽しんでない?(笑)」  ゴトっとグラスをテーブルの上に置き立ち上がると、上から順にボタンを外していき、着ているシャツを脱いだ。そして真っ直ぐにクリスの目を見つめながらベッドに近付いてくる。ギシ……。ジョシュアの体重でベッドがきしむ。ガバっ!と勢いよくシーツをまくり上げ、その中からクリスの足を掴みグっと自分の方に伸ばした。 ミイラ男 「……………??」  いつもの優しい彼らしくはない迫力にクリスが戸惑う。………するとジョシュアは何も言わず、その舌をクリスの足に這わせた。 ミイラ男 「お………おまっ………何やってんの?!」  ツー……っとジョシュアの舌が通った箇所が、空気に触れて冷たく感じる……。くすぐったい感触と、彼がまるで奴隷のように自らの足を舐めているという男としての優越感が、言いようの無い刺激と興奮をクリスに与える。 ドラキュラ 「ご主人様の命令に従おうと思って………。」 ミイラ男 「……バカじゃねぇの?!あんなの冗談に決まってんじゃん!」 ドラキュラ 「……美味しそう、ちょっと噛んでいい?」 ミイラ男 「いい訳ねぇだろ!!(怒)」  サっと足を引っ込め、シーツに包まり防御態勢を取る………。 ミイラ男 「お前怖いよ!あっち行け!」 ドラキュラ 「少なくともお前の包帯ストリップよりはマシだと思うけどね。」 ミイラ男 「お、俺だってその気なれば……ちゃんと出来るよ……!」 ドラキュラ 「ほぅ………?」  ムキになって言ってしまったがここは男として後には引けず、ジョシュアに仰向けになって寝るように指示をする。両腕を頭の後ろで組み偉そうに寝そべるジョシュアを(また)ぐ様にして座り、肩の包帯をゆっくりと解いた。パラパラパラ……。らせん状に落ちてゆく包帯、まるでパズルがはまっていく様に、クリスの身体に色が付いて行く。 左手の包帯を解き、その包帯を掴んでスーっとジョシュアのつま先から順に彼の身体に這わせていく……。そしてそのままその包帯をジョシュアの首に絡めつけ、両端を掴みグっと自分の方に引き寄せた。 ドラキュラ 「………Sなクリス君、たまんないね。」 ミイラ男 「犬が喋んじゃねぇよ。」  シャワーを浴び終えたウェアが、椅子に座りタオルで髪を乾かしているとコンコン……と誰かがドアをノックした。「はい」と返事をして立ち上がり、覗き穴からその正体を確かめるとそこにはバスローブ姿で廊下に立つリリの姿があった。急いでロックを外し、ドアを開け彼女を部屋の中に入れた。 狼男 「……どうしたの?」 魔女 「ごめんなさい……何だか一人だと色々と考えちゃって……」 狼男 「俺は別に構わないよ、ゆっくりしていって。」 魔女 「………ありがとう。」 狼男 「……何か飲む?ジョシュがワインを部屋に頼んでおいてくれたみたいだけど、それでいい?」 魔女 「ええ。」  タオルを首から掛け、ワインの栓を外す。グラスをリリに手渡し「どれくらいか言って」と言いボトルを傾けた。 魔女 「それくらいでいいわ。」 狼男 「リーパーはさ、お面を外すと結構色男じゃん?リリも天敵が多いんじゃない?」 魔女 「ウェア、あなただって良い男よ?」 狼男 「ハハっやめてよ、俺はそんなキャラじゃないんだから(笑)」  微笑むリリの目が、まだどこか寂しそうにグラスの中を見つめる……。ウェアはそんな彼女の手の上に、そっと自分の手の平を重ねた。 魔女 「……………?」 狼男 「………駄目だよ、夜の狼にそんな弱った姿見せちゃ………。」  バスローブ姿のリリの身体を上から下に眺める……。 狼男 「そんな恰好で夜な夜な男の部屋に来るって、そういう事かな?」 魔女 「………私が欲しいの?」  わざとウェアの目の前で足を組み替え、彼を真っ直ぐに見つめた。 狼男 「いつもは温厚な狼でも、狼であることに変わりはないからね。その気になったら噛みつくかもしれないよ?」 魔女 「……試してみる?」  

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