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見失ったけど、多分駅だと思う。 この辺住宅街で行くとこないし。 駅の方向へ走ると、周りを見渡しながらおろおろしているさっきの女がいた。 「はぁっ……はぁ、捕まえた……。」 「……っ!!」 壁に追いやると、女は顔を真っ赤にして俺から顔を逸らす。 嗚呼(ああ)、腹が立つ。 艶々の黒くて長い髪から先輩と同じシャンプーの香りがして、先輩のお気に入りのパーカー着て、休みの日いつも先輩が使ってるスニーカー履いて。 なのに、俺を見て顔を赤くする。 「あんた、何なの?」 「………。」 「先輩の浮気相手?」 「……!」 俺がそう聞くと顔を上げて、ふるふると横に顔を振る。 浮気相手じゃなかったら何だよ。 本命とでもいうのか? じゃあ決めた。 この女のことたぶらかして、先輩と別れさせてからこっ酷く振ってやる。 「お姉さん、髪綺麗だね…」 「…………っ」 「へぇ。耳、感じるんだ?」 髪を耳にかけて顔を近付ける。 ふぅ…っと息をかけるとビクビク震えた。 そのまま首筋に顔を移動させた時、俺の目にあるものが留まった。 「え…。」 「っ!!」 「ちょ、待って!」 俺が固まった隙をついて、女は駅の方へ走って逃げてしまった。 今の……、いや、まさか……。 右耳の下。 首筋にかけて連続した二つのホクロ。 先輩と同じだ。 俺は全力で駅へと走る。 ホームへ着くと閉まりかけの電車に飛び込む女の姿。 俺は閉まるあと一歩のところで同じ車両へ飛び込んだ。 馬鹿だ。こんな満員電車にあんな格好で乗るなんて。 見てみろ、周りの男がみんないやらしい視線で見てるじゃないか。 「何してんの、馬鹿!」 「ひゃっ!」 女の腕を引っ張って抱き寄せる。 先輩を抱きしめた時とは違う、柔らかくて小さな体。 初めて聞いた声は女性にしては少し低め。 電車が揺れるたびに大きな胸が揺れるのが分かって、なんだか気まずかった。

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