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「望月先生〜!」 「ん?」 「最近さ、城崎くんが教室にいるの!超目の保養〜!」 「あ…、そ、そうだね…。」 「望月先生の授業だけだよ!先生やっぱすごいね〜!」 「ありがと……。」 古典の授業終わり、女子生徒が俺の元へ走ってきてそう言った。 付き合ってから、城崎は俺の授業だけ席に着くようになった。 今まで授業終わりに俺の元に来ていた女子生徒も、今は大半が城崎の元へ走っていく。 やっぱりモテるんだな……。複雑な気分だ。 黒板を消して教材を直し、教室を後にしようとすると、「おい。」と引き止められる。 「センセー、ここ教えて。」 「………っ」 「ここだよ、ほら。」 グイッと裾を引かれ、一気に城崎との距離が縮まる。 心臓がバクバクいってる。 バレたらどうしよう……。 「なぁ、聞いてる?」 「あ……、えっと…、そこは、こうやって訳して……」 「ふぅん。ありがと。」 城崎はノートをぱたんと閉じて席に戻って行った。 最後にポケットになんか突っ込まれた…。 教室を出てからポケットを見ると、文字が書かれた紙切れだった。 『明日朝のHRの後、準備室。』 明日の1限は3年1組、つまり朝のHRの後そのまま受け持ちクラスの古典がある。 なんでHRの後に準備室……? 聞きたいけど、城崎は古典が終わるなり帰ってしまったようで、事の真相は聞くことができなかった。 今の俺たちは先生と生徒。 万が一バレた時に厄介だから連絡先も交換していない。 こういう時に不便だよなぁ……。 職員室に戻ると、若い先生がキャイキャイと話しかけてきた。 「あ、望月先生!知ってます?最近、城崎くんが生徒と空き教室に入ることなくなったらしいんですよ〜!」 「そうなんですね…。」 「はい!それに望月先生の授業には出るようになったんでしょ?あの城崎くんが授業に出てくれるなんて、すごいですね〜!」 「はぁ……」 付き合ったから。 なんて言えるはずもなく、適当に相槌を打つ。 でも俺以外の人と本当に関係を切ってくれたんだと思うと、この頃から城崎は本命には誠実らしい。 「嫌味言ってた先生方も、城崎くんまで懐かせると黙っちゃいましたね♪」 小声でそう言われ、よく俺に小言を言っていた先生たちの方を見ると、むすっとした顔で座っている。 城崎のことをダシにして小言言ってたから、何も言えなくなったんだろう。 「他の先生の授業にも出てくれるといいんですけど…。」 「まぁ、それは追々ですね♪城崎くんが出席してくれるような授業にするのが私達の腕の見せ所ですから!」 「はぁ……。」 そうですねと言いたいけど、城崎が下心で俺の授業に出ていることを知っているので、あまりいい返事はできなかった。

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