51 / 128
4-16
「綾センセーのお願いだったら、聞いてもいい……。」
城崎はポツリとそう呟いた。
今にも泣き出しそうな城崎の頭に、ぽんっと手を置く。
あぁ、城崎に触れてるのに、感触がなくなってきた…。
なんとなく分かった。
もう夢から覚めそうな、そんな気がする。
「じゃあ、城崎に最後のお願い。」
「え……?」
「ちゃんと、卒業して。」
俺がお願いすると、城崎は眉を八の字にした。
「なんで……、最後とか言うの…?」
「………」
「綾センセー、もう会えないの?」
「うーん……。どうだろ?分かんないや。」
この夢の世界の城崎は、今の城崎と繋がってるのかな?
いや、きっとパラレルワールドだ。
だってこの俺が、教師やってるんだもん。
苦笑しながら城崎の頭を撫でると、城崎はポロッと涙をこぼす。
「やだ……。綾センセーと離れたくない……。」
「俺も。離れたくないよ……。」
「じゃあそばにいてよ……?」
「俺、帰らなきゃいけないとこ、あるんだ。」
「どこ…?誰の所?センセーにとって、俺は遊びだったの?」
「違うよ。本気だったよ。本気じゃなきゃ、おまえみたいなめんどくせぇ奴に手出さないよ(笑)」
思わず笑うと、城崎は「馬鹿。」と言いながら、ぽこぽこ俺を叩く。
夢から覚めそうだから感覚が鈍くなってるだけなのか、全然痛くない。
どっちにしろ、本気で殴ってないのが目に見えて分かる。
「俺さぁ、パラレルワールド?から来たんだけど。」
「は?何言ってんの…?」
「元いたとこでもさ、城崎夏月と付き合ってんだよ。」
「え……?」
城崎はポカンとした顔をしている。
そりゃそうだ。
いきなりパラレルワールドとか言ったり、そっちでも城崎夏月と付き合ってるって言ったり。
意味わかんねーよな。
「あいつが待ってるから、そろそろ戻るわ。」
いつもの城崎を想像して、思わず笑いそうになる。
あいつなら、自分相手にも嫉妬するんだろうな。
夢から覚めたくないとか思ったけど、すげぇ会いたくなってきた。
「やだ。センセー、やだ。行かないで…。」
「綾センセーって言われるの、結構好きだったよ、俺。」
「何回でも呼ぶから!いっぱい呼ぶから、行くなよ…。」
「夢から覚めたら、また会おうな。」
「やだっ!綾センセー、行かないで…!」
「バイバイ、城崎。」
俺の意識はそこでぱったりと途絶えた。
ともだちにシェアしよう!