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次の日の朝、良い匂いに目を覚ます。
けど、周りを見て昨日のことが事実だったことにガックリと肩を落とす。
ゴミ箱に溢れかえったティッシュと、使い捨てられたゴムの山。
空になったローション、ベランダに干されたシーツ。
全裸で自分のものではないベッドに眠っていた俺。
ズキズキと痛む腰と尻。
「マジか……。」
「あ。おはようございます、望月さん♡」
「…………。」
「体は大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思うか?」
抹消したいけど、しっかりと焼き付いたように残っている昨日の記憶。
俺の記憶が確かならば、おまえは手加減なく俺を抱き潰していたと思うが?
「望月さんが可愛い声で俺を求めるから、つい?」
「つい、じゃねーんだよ。動けないんだけど。」
「今日は病院休みにしてきちゃったんで♡俺が望月さんの手となり足となり動きます♡」
「医者がそんなんでいいのかよ…?」
俺も職場に電話しないと…。
というか、さっきからなんか違和感…。
「先生、一人称変えたんですか。」
「あぁ。仕事では私って言ってますけど、プライベートはね。」
「あぁ、そう。」
「望月さん、心のモヤモヤ無くなったでしょう?」
「あぁ、そう。」
「望月さん、珈琲はミルク入れていいですか?」
「うん。」
「砂糖も入れていいですか?」
「うん。」
「ちなみに望月さんのお家はこの辺ですか?」
「うん。」
「好きな食べ物は何ですか?」
「うん。」
「…………。俺と望月さん付き合うってことでいいですか?」
「うん。」
「俺と一緒に暮らしてくれますか?」
「うん。…………は?」
全部適当に返事してたら、今何か聞き捨てならないセリフが?!
「やったー!!!!!!」
「まっ、待って!?今のなし!ノーカン!!」
「ちゃんと聞いてない望月さんが悪いですよね?言質取りました!」
先生は満面の笑みでスマホのボイスレコーダーを見せつける。
これからこのヤブ医者と付き合えというのか?
この変態の家に住めっていうのか?
「無理!!!!」
「だめ〜♡じゃあさっそく業者手配して引越しの手続きしちゃいますね♡」
「待って!!落ち着け?!」
「善は急げです♪」
翌日体が動くようにはなったが、俺の住んでいた家はもぬけの殻になっていた。
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