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待ちに待ったライブ当日。
コンサート会場に着いて、俺は大きく深呼吸した。
「推しと同じ空気を吸ってる…。生きてる、俺…!」
今日はアルバムツアー初日、大阪公演。
二年も追っかけてると、遠征なんて当たり前になってきた。
大学時代は推し活だけでバイト代飛んでたな…。
今働いてるところはそこそこの有名企業だし、給料も同年代の中では結構もらっている方なので、推しにたくさん貢ぐことができる。
「あ〜♡またあのお兄さんいるよ?」
「わ、ほんとだ〜!相変わらず綾くん推しなんだね。」
「全身メンカラで揃えててすご〜!」
俺はファンの中ではちょっとした有名人。
頭から足先まで、綾くんのメンバーカラーである緑をふんだんに取り入れ、かと言って推しの前でダサい格好はしたくないのでオシャレにキメる。
緑のトータルコーディネート、毎回クッソ悩む。
しかも全通なので、毎年20公演全て違うコーディネートをしてる。
だって綾くんに、また同じ服着てるなんて思われたら嫌だもんな。
緑の主張激しめな上に、綾くんのマスコット(今まで販売した計8種類)、綾くんの団扇に、綾くんデフォルメ缶バッジで作った痛バを持っているから、自然とファンにも認知されるようになった。
(※イケメンであることが最大の理由だが、本人は気づいていない)
毎回盗撮されてはSNSにあげられているので、綾くんがSNSしていた時のために見た目や所作には十分に気を遣っているつもりだ。
入場時間になり、中に入る。
今日の席はアリーナの花道近くの二列目。
神席すぎる。
そして、コンサートが始まった。
黄色い歓声に包まれてSparkleが登場する中、俺は綾くんしか目に入っていない。
「綾くーーーーーん!!!!!」
一際大きい声で綾くんを呼ぶと、綾くんはチラッとこちらを見て手を振った。
「っっっ!!?!?!!」
可愛すぎないか?!
何、今の笑顔!!!
可愛すぎないか?!?!?!
コンサートも中盤、綾くんの歌声で耳は幸せ、綾くんを見つめて目も幸せ、俺の声を綾くんの耳に届けることができて口も幸せ、もう全身幸せ。
綾くんはたくさん動いて、汗がキラキラ輝いてる。
はぁ…、なんて綺麗なんだろう。
うっとりしていると、目の前の花道を綾くんが通った。
俺は勢いよく団扇を見せる。
「はぁあっ…」
綾くんは俺に向かってバーンした。
俺の団扇に『バーンして!』って書いてたからだ。
え、今のファンサ絶対俺だよな?俺だよな?!
周りをキョロキョロ確認する。
うん、俺だ。俺に違いない。
「綾くーーーん!!大好きだー!!!!」
大きい声で愛を伝えると、周りのファンにくすくす笑われた。
綾くんはイヤモニをしているからか、俺の声は聞こえなかったようで、メンバーの元へ走っていってしまった。
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